第15話 従姉弟たちと高校合格パーティー

2004年3月31日 

 1週間後の入学式を待つ麻矢は、猛勉強が実って北高への入学が叶った山上くんとのピッチング練習に熱が入っていた。北高と桃園中央とで夏の予選会で対決が叶うと仮定して、その時点で2人ともレギュラーに抜擢されることを妄想していたのだが、桃園中央はもともと女子高だっただけに夏の予選に出られるほどの部員がいないのでは~という不安もあったが~自分が入部すれば大丈夫~という根拠のない自信が麻矢にはあったのだ。

 夜に従姉弟たちを交えて合格祝いをすることになっていたこの日は、父・史矢が散髪から帰宅したら約束だった最新型の携帯電話を買いに行く事になっていたのでウキウキの麻矢。

 「祝 合格」のチョコが乗ったケーキを一緒に囲んだのは母・麻郁の実姉・郁子の子供たち3人。幼児の時から一緒に遊んでいて4月から高2、中3、中1の3人に麻矢が買ってもらったばかり携帯電話を見せびらかした。「あ、テレビで宣伝してる最新型やん、カッコいいねえ」「番号は引き継いだから同じよ」

 ケーキを切り分けながら「生きていれば郁矢は18歳、4月から大学生だったのかな」と呟く麻郁によってパーティー気分は一気に「郁矢の生誕会」になってしまった。高校生にしてやれずに郁矢を失った悲しみから立ち直ったというには程遠い。

 麻矢にしたら兄・郁矢は絵のうまさとゲームのうまさでは超えることができなかった身近な憧れの存在で、その姿が目の前から消えたことが信じられず泣き続けた小さく弱弱しかった小学生が、まるで別人の中学生へと~両親が陰で悲しみに沈む中で~急成長。まるで郁矢が乗り移ったかのよう。

 強くなった麻矢によって山鹿家は悲しみのどん底から蘇生し、落ち込みのひどかった母・麻郁を悲しみを少しでも埋めるため大好きなTDLへの家族旅行にも反抗することなく付き合った。

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