第3話 不順異性交遊か~親の顔が見たいって貴方の弟です

2004年12月24日

 長崎県のオランダ村はハウステンボス(HTB)の前身テーマパーク。そのオープン前からその場所に訪れたことのあるほど父・史矢にとっては九州では走り慣れたドライブコース。西九州へ高速道路が延びる前、まだ生まれて3か月だった兄・郁矢も連れて行き、鍾乳洞に入ったことがあった。HTBがオープンされてからはテーマパークのブームに乗って長崎と言えばHTBになった。


 麻矢の高校生活は充実していたようだ。部活は美術部で、全国コンクールで連続受賞の生徒続出の有名校だけあって、その生徒指導も徹底しており定期テスト前と年末年始以外は土曜日曜も部活で登校する。ちょうど「ゆとり世代」授業が週5日になったころだ。地元の公募展にも続々と入賞するから展示や表彰があるたびに出かけることになった。同時に大学受験対策として朝補習も行っていたし、夜遅くまでの部活は休みなし、まさにスーパー高校生だった。

 土曜と日曜日は部活のみの自由登校なので、コンビニ店でお弁当を買って高校まで車で送っていくのがルーティン化していたが、ある日の迎えに行った夕方は見覚えのある女子を一緒に車に乗せた。バスセンターで40番のバスに一緒に乗って行った女子だ。

 「ウチの近所なので一緒にお願いします」と言いながら麻矢は「こんばんは、森本麻衣子です。お願いします」と微笑むマイちゃんを先に車に座らせた。


 従姉・祐紀の母親、つまり山鹿史矢の実姉・富士子宅の近所にマイちゃん宅があるらしく、たまに勤め帰りの40番のバス車内で見かけるらしかった。高校生らしき男女が後部座席でぴったりベタベタくっついて座っているのを見るたびに「親の顔が見たい」とあきれていたそうだ。

 そんなふうにバスで数度見かけた後、どうも男子のほうが麻矢であることに気が付いて赤面、恥ずかしくて声がかけられなかったそうだ。普段なら麻矢が乗る必要のないバス路線だったことも気づきを遅らせたようだ。

 麻矢は同じ部活で最も仲良しの女子としてマイちゃんを紹介してくれた。

 その部活がある高校は普通科内に加えて芸術コースが新設されて5年目、40人クラスで男子は麻矢を含めて3人、残る37人は女子なのだ。受験に失敗して全校生徒3000人を超える男ばかりの工業高校へ通った父親からしたら羨ましすぎた。


 その冬休みは部活も休みになるので~とクリスマスイブは夫婦と麻矢とマイちゃんのダブルデートでHTBのイルミネーションと花火を楽しんだ。日帰り深夜帰宅となったが、その行き帰りの車内はお気に入りのキック・ザ・カンクルーのMDも鳴らしてノリノリ。親世代の名曲「クリスマス・イブ」とサンプリングされたラップの「クリスマス・イブRap」の競演となって盛り上がった後、3人は静かに眠りについた。坦々と帰路をドライブする父・史矢は2人の寝顔をバックミラーで見ながら~日ごろから超多忙で部活も勉強も頑張るスーパー高校生には彼女もいる「超スーパー高校生」である~そのことがとても羨ましかった。

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