一〇〇回告白したら付き合ってあげると言われたので、九十九回告白してやめてみた

ヨルノソラ/朝陽千早

第1話 一〇〇回告白すれば付き合ってくれるらしい

「一〇〇回告白してくれたら、付き合ってあげてもいいわよ」


 十月初頭。二学期にも慣れて、近くに迫る中間テストに備えて、勉強を始める頃合い。さっさと家に帰って、テスト勉強に励もうと考えていた矢先のことだった。


 放課後、校舎裏に来てと呼び出され、開口一番言われたのがこれだった。


 サッパリと言っていいほど意味がわからない。頭上には、大量の疑問符が浮かんでいた。


「‥‥‥‥‥‥」


 そうして、数秒ほど無言の時間を過ごすと、俺は一つの推察を立てた。


 ‥‥‥ああ、そういうことか。 


 俺、うっかりである。聞き間違いをしたらしい。

 こほんっと咳払いしてから、ゆっくりと口を開いた。


「もう一回言ってくれるか? 最近耳掃除を怠っていたせいで、よく聞こえなかったみたいだ」


「一〇〇回告白してくれたら、あんたと付き合ってあげても良いって言ったのよ」


 ‥‥‥OH。


 これまでの人生観。主にラブコメ漫画で培った知識をフルで活用し、現状を把握する。


 にわかには信じがたいが、どうやら俺は今この女に告白されているらしい。


「えっと、俺のことが好きなのか?」


「は、はぁ? な、なに調子のいいこと言ってるわけ、おめでたい頭をしてるのね。誰があんたのこと好きになるのよ。鏡でも見てきたら?」


 なんなんだこの女‥‥‥。


 なぜか俺が一〇〇回告白するという条件付きではあるものの、こいつは俺と付き合ってもいいと公言している。


 そのくせ、俺のことは好きじゃないってのは、理解に苦しむ。


「そ、そうか‥‥‥。まぁ俺もキミのことは好きじゃないからお互い様だな」


「な、なんでよ! あんたはあたしのことを好きになりなさいよ!」


 横暴すぎるんだが。


 何故、俺が彼女のことを好きにならないといけないのだろう。大体、今日が初対面だ。


 そりゃ、同じ学校に通っているのだから廊下ですれ違った経験くらいはあるだろうが、直接話したのは今日が初めて。初対面と言っていい間柄だ。


「なんで俺がキミを好きにならないといけないんだ?」


「そのくらい自分で考えたら? その足りない脳みそでさ」


「はぁ‥‥‥なんなんだよ。いきなり呼び出しておいて、ロクな説明もないし。もしかして俺のことからかっ‥‥‥はっ! そうか、Y○uTubeか!? くっそ、嵌められた! お前、撮影許可も取らねえで勝手に俺のことをネタにしやがったんだな! 『モテない男子に百回告白したら付き合ってあげると言ってみた結果wwww』みたいなタイトルで投稿する気だろ⁉ 人を騙してまで再生回数稼いで楽しいのか? あぁん⁉」


「ち、ちがうわよ⁉ Y○uTube撮影してるわけじゃない、なに盛大に勘違いしてるわけ?」


 俺はため息ひとつ。やれやれと首を振りながら。


「キミは俺のことが好きじゃない。そのくせ、一〇〇回告白したら付き合ってもいいとか意味不明な条件を提示している。そして何より、俺らは初対面だ。この状況を総括して、推測すると、大体そんなところだろ。Y○uTubeってのはまあ冗談も入ってるが、罰ゲームかなんかで俺をからかってんだろ?」


「ち、違うって言ってるでしょ! 罰ゲームなんかじゃなくて、あたしは本気で言ってるの!」


「俺のこと好きじゃないのに?」


「え、えぇ好きじゃないわよ。むしろ嫌いね」


「嫌いな奴と恋人になりたいのか?」


「そうね、そういう解釈もできるわね」


「頭おかしいの?」


「よく言われるわ」


「わかった。もう常識で考えるのはやめる」


 どうやら、この女は頭のネジが外れて脳が解体してしまっているらしい。

 そんな奴がなにを考えているかなんて、推察するのは不可能だ。だからもう考えるのはやめる。


 彼女は、ピシッと人差し指を俺に向け、その慎ましい胸をふんっと張ってきた。


「だ、だから、あんたはあたしに一〇〇回告白すればいいのよ。それで全てが丸く収まるの」


「おーけークレイジー女」


「誰がクレイジー女よ。あたしには霧矢花蓮きりやかれんっていう、しっかりとした名前があるんだからね」


 霧矢‥‥‥? 

 どっかで聞いたことある気がする。まぁ、思い出せそうにないが。


「それを言ったら俺にも九条奏太くじょうかなたって名前がある」


「ふ、ふーん。でも、あんたはあんたで十分よ。名字も名前も呼びづらいし!」


「いや、どっちかって言うと呼びやすい部類だと思うけど‥‥‥まぁいいや、霧矢。お前がなにを思ってそんなことを言ってるのかはわからないし、もはや興味もないけどさ」


「興味持ちなさいよね。好奇心死んでんの?」


 俺はピクピクと頬を痙攣させる。落ち着け。苛ついたら負けだ。


 俺は深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。


 ジッと霧矢を見つめた。

 俺と目が合い、なぜか狼狽する霧矢。そんな彼女に、俺は九十度頭を下げて右手を差し出すと──、



「俺と付き合ってくれ霧矢。俺の彼女になってください」



 記念すべき一度目の告白をしたのだった。

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