第16話

~美世サイド~


あたしの自慢だった髪の毛が一瞬にしてなくなってしまった。



床に散らばった髪を見てあたしは茫然としていた。



座り込んだままなにもできない。



鏡で見せられた自分を思い出すと発狂してしまいそうだった。



「あたしは可愛い。あたしは可愛い。あたしは可愛い」



ブツブツと呟いて学校内での出来事を思い出す。



あたしが登校すれば沢山のクラスメートたちが集まって来る。



何もしなくても、勝手にノートをとってくれる友達。



登下校中に1人になったことなんてない。



いつも誰かが一緒にいた。



あたしの我儘は必ず誰かが聞いてくれて、部屋に戻ると冬夜がいる。



「冬夜……」



冬夜はあたしの髪を撫でるのが好きだった。



愛しそうに何度もなでてくれた。



「冬夜……」



ジワリと涙が浮かんできた。



演技じゃない涙なんて汚いだけだと知っているのに、止まらない。



冬夜が撫でてくれる髪の毛は、もうない。


☆☆☆


泣き疲れていつの間にか眠ってしまっていた。



こんな状況でも眠れてしまうなんて、なんだか自分が不思議だった。



しかし手足は拘束されたままなので体のあちこちが痛んだ。



窓がないから時刻もわからない。



そう思っていると、覆面の男が食べ物を運んできた。



「お願い! あの写真を消して!」



あたしは咄嗟にそう叫んでいた。



可愛くない自分の写真が出回ることが、今一番の恐怖だった。



「お願い! あんな写真見られたらもう学校に戻れない!」



冬夜との関係も終わってしまうかもしれない。



そう考えると死んでしまった方がマシに感じられてくる。



しかし覆面の男は何も言わず食べ物だけを置いて部屋を出て行ってしまった。



「なんで……なんでよ……」



また涙があふれて来た。



あたしがなにしたの?



可愛いからちょっと調子に乗っただけでしょ?



ちょっとだけクラスメートをイジメちゃっただけでしょ?



ここまでされていいわけない!



「消してよ!」



あたしはそう叫んでテーブルに額を打ち付けた。



ガンッと鈍い音が響き、痛みがかけて行く。



「消してよ! 消してよ! 消してよ!」



ガンッ! ガンッ! ガンッ!



こんなのただの悪い夢。



悪夢だよ。



だから早く覚めて。



冬夜の声で目覚めさせて。



『うなされてたけど大丈夫?』



そう言って、笑いかけて……。

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