二 心霊スポットの取材

 さて、長々とそのそもそものいわく・・・と今にいたる経緯について話をしてきたわけであるが、何を隠そう、心霊スポット突撃系某チューバーである俺が今回目をつけたのが、この〝白無垢屋敷〟なのである。


 幸い最近では訪問者も少なく、警察の目も緩んでいるようなので、撮影するのにももってこいである。


 とある平日の昼下がり、ネットで正確な場所を調べた俺はさっそく現地へと向かうと、内部を撮影するために敷地内へと侵入した。


 昼間を選んだのは明るい方が撮影に向いているのと、むしろ夜だと警察の見回りやご近所の目が厳しくなるからである……ま、夜だと怖すぎるという感情もちょっぴりあったりはするのだが。


 ただでさえ人影の少ない高級住宅地、皆、仕事をしている平日の昼間ならよりいっそう侵入は容易たやすい。


 周囲に人のいないのを確認し、門柱に結わえられた〝立ち入り禁止〟のトラロープを潜り抜けると、雑草の生い茂る玄関先の空間へ足を踏み入れる……。


「ええ…ここが知る人そ知る〝白無垢屋敷〟です……じゃ、さっそく中に入ってみたいと思います……」


 俺はスマホのカメラを構えながら時折、解説を交えつつ、古めかしい昭和レトロな玄関の引戸へと手をかける……鍵は以前、侵入者によって壊されたままになっているため、建て付けの悪いその戸をしばらくガタガタやっているとなんとか開いた。


 中は、思ってた以上にきれいだった……。


 少々湿っぽく、カビ臭いような気もしなくもないが、まだ人が住んでいると言われてもあまり違和感はない……なんだろう? 生活感がまだ残っているというか、今でも誰かが住んでいるような、そんな空気が満ちているのである。


 それでも土足のまま玄関を上がると、しなる床板をギィ、ギィ…と踏み鳴らしながらゆっくりと進み、とりあえず入ってすぐの所にある、襖が開いたままになっている部屋の中へ歩を進めた。


 畳敷きに四角い卓袱台ちゃぶだいが一つ置いてあり、どうやら居間として使っていたようだ。


「押入れか……何か残ってるのかな?」


 そこはかとなく昭和な香りがするだけで、その部屋自体には別段おもしろいものもなかったのだが、その奥にある、引戸の紙の表面に茶色くシミの浮かんだ押入れを俺の目が捉えた。


 もしかしたら、もと住人――即ち惨殺された女性や夫にまつわる遺品が残っているかもしれない……好奇心に取り憑かれた俺は、さっそくそのシブい・・・引戸を開けにかかる。


 すると、そこには意外なほどえらく普通に、座布団やら衣類を詰め込んだダンボール箱やら、様々な物品が雑多に放り込まれていた。


 まるで昨日まで使われていた押入れを開けたような、そんな錯覚に一瞬、襲われる。


 ……そうか。家主の衣紋翔も死んでしまったがために、相続して片付ける者も誰もおらず、こうして住人達の遺品もそのまま置き去りになってしまったのかもしれない。


「……ん? これは……」


 スマホのカメラを向けながらそのガラクタの山を物色していると、俺はまだ真新しい感じすらする桐の箱を一つ見つけた。


 何やら再生数を大幅アップさせてくれるお宝発見な気がする……俺はその桐の箱を引っ張り出すと、おそるおそる、その蓋を慎重に開けてみた。


「……!? これって、ひょっとして……」


 箱の中には光沢ある白い絹地で作られた、大きなニット帽みたいなものが入っている……これは、もしや〝綿帽子〟という、結婚式に白無垢の新婦が頭にかぶるものではあるまいか?


 だとしたら、持ち主は最初に殺された白井絹衣……これは、大発見である。


 本人がしまったものなのか? それとも家を相続した夫とその婚約者が片付けてここへ入れたのか? 真相を突き止める術もないが、肝試しの連中にも荒されず、今まで残っていたのは奇跡的である。


「これは、もしかしたら例の殺された花嫁が結婚式でかぶる予定だったものかもしれません……のっけからスゴイもの見つけちゃいましたね……」


 その綿帽子を手にとり、スマホを向けながら動画用のコメントを口にしたその時。


 ふと、背後に人の気配を感じた。


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