閑話:後悔と...(リリアside)


宿を移ってどれくらい経ったかわからない…。


子供の様に体を抱えてグシャグシャな思考のまま考え続ける。


どうして約束を忘れたりしたのか…。


どうして彼に頼ろうとしなかったのか…。


どうしてあんな人に自分の純潔を捧げてしまったのか…。


無意味な思考はやめて行動しろと理知的な部分が訴える、だがそれは自らの愚行の後悔と自己嫌悪、罪悪感がごちゃ混ぜになった感情が波となって覆ってしまう。


このまま死んだら償いになるだろうか、そんな事すら頭によぎるが自殺する勇気すらない自分がより嫌になってく。


「入るわよ」


ガチャリとドアが開けられるとアレッサが袋を抱えて入ってくる、袋の中からパンとチーズ、水筒を取り出してリリアの前に置くと対面にあるベッドに座ってじっと見つめてくるので少しずつ口に含んで胃に流し込んでいく。


ここ最近はいつもこうなっている、アレッサが食べ物を持ってきて見つめてくる、食べないでいると「食べないなら無理矢理詰め込んで流し込むわよ」と言われて以降はこうした食事風景が部屋の中で行われていた。


「明日、3人で王都に行く事になったわ」


リリアが食事を終えてすぐにアレッサはそう告げる、今パーティーには3人しかいないから自分も行く事に少し遅れて気付く。


「で、でも…」


「王都に向かってやり直すそうよ、あんたに関しては別の職につくのか故郷に帰るのか、私達と続けていくのかその時考えてってのが私達の考え」


「…どうして?」


分からなかった、どうして2人は自分を守ってくれるのだろうか、恋人を裏切りパーティー崩壊の原因となったのは自分なのに。


「私に…そんな事してもらえる資格なんかない!自分の大切な人の気持ちを踏みにじって、今のままじゃ駄目だって分かってるのに怖くて結局なにも出来なくて!私なんか...」


「死ねば良かった…かしら?」


「!」


感情のままに叫ぶリリアの前にアレッサが立つ、思わず顔を上げるリリアを感情を見せない瞳で見下ろすとリリアの首を掴んで力を込める。


「あぐ…!?」


「自殺する勇気がないなら私が殺してあげる、今のあんたを殺す事に躊躇いなんてないもの」


ぎりぎりと首が締め付けられていく、身体強化を発動した手を振り払う事が出来ない。


呼吸が出来なくなり、血が塞き止められる感覚に死という存在が自身の中で明確になっていく。


「しに…たく、ない…」


気づけばそう溢していた。


パッと手が離される、肺が止められていた空気を求めて暴れ、四つん這いになって咳き込む、アレッサはそんな事はお構い無しに咳き込むリリアの胸ぐらを掴んで詰め寄る。


「死ねば償いになると思ってるの?命を差し出せば他の罰は受けなくても良いだなんて考えてるの?甘えてんじゃないわよ」


アレッサが瞳に怒りを宿して問い詰める、自分とは真逆の強い意思を秘めた真っ直ぐな瞳がリリアを映す。


「あんたが死んだってレイルは帰ってこない、過去は変わらない、今のあんたに死ぬ価値なんてこれっぽっちもありはしない、死ねば良かったなんて言うのはあんたが生きてるから言える甘えでしかないわ」


手を離してドアに向かう。


「償うのも向き合うのも生きてなきゃ出来ないの、だからどんなに苦しくたって生きなさい、それがどうしても辛くて出来ないって言うなら…」


ドアを開ける直前に振り帰る、燃える様に赤い瞳は厳しさの中に相手を想う暖かさがあった。


「今度こそ私が殺してあげる、だからどうするかきちんと考えておいて」


明日迎えに来るから、そう言い残してアレッサは部屋を後にする。


リリアは閉じたドアを見つめ、やがて涙をまた流す、アレッサの言葉は厳しいものだったがそれ以上に自分の事を想ってくれる優しさがあった、また間違えそうになった自分を今度は荒っぽくなっても止めてくれた。


その優しさがなによりも自分のちっぽけさを、愚かさを浮き彫りにして心を苛む...。

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