3:自暴自棄の果て

アインツの町を出てどれくらいだろうか…。


昨日だったか3日前だったかすら分からない、分かるのは自分が今いるのは魔物の巣があった山の更に先、地図もない未開拓の地に自分はいるという事。


レイルにとって生き甲斐とも言えた恋人と信じていた仲間の裏切りで生まれた感情は渦になって今も胸中で暴れている。


生きる目的を見失ったレイルにはこれからなんて考えられなかった、自棄になって死に場所を探しているのか魔物相手に八つ当たりをしているのかあるいはその両方なのか…。


「オオォォォンっ!」


木々の間を縫う様に走りながら狼の魔物『血塗れ狼ブラッドハウル』が襲い架かってくる。


突き出された爪をかわして交差した瞬間、横腹を斬りつける、体勢を崩して着地に失敗したブラッドハウルの首に剣を突き立て、捻って絶命を確認してから引き抜く。


「こんな状態でも淀みなく魔力操作が出来るんだな...」


剣に込めた魔力を感じとりながら奥へと進んでいき、進む途中で襲ってくる魔物を斬り捨てて更に奥へと。


やがて森を抜けた先、開けた場所でレイルはそれと出会ってしまった。


「グルルルルッ…。」


岩の様に頑強な鱗に覆われた巨体、大木の様に太い四肢と大鎌の如き爪、極めつけは剥き出しの牙が並んだ巨大な顎と角を持つ魔物


魔物の頂点に立つ種族、ドラゴン


翼のない下級ではあるが間違いなく今までの中で一番強い魔物が目の前にいた。


「はは…俺の最期には充分過ぎるな」


ぼそりと呟いて走る、全身に魔力を駆け巡らせて肉体を強化し、そのまま剣にまで伝えて斬り上げる。


だがドラゴンは首を仰け反らせただけで鱗の表面に僅かな傷跡がつくだけで終わり、目だけでこちらを見ると前足を叩きつけてくる。


直前で回避して空いた足に数度斬りつけるが首と同様に僅かな傷跡がつくだけで終わる


上から襲い掛かる顎をバックステップで避けると地面を齧り削ったドラゴンがこちらに向けて口を開くと巨大な火球が放たれた。


(ブレスを使ってきたか!)


身体強化を駆使して自身に迫る火球を避けると近くの木に着弾して爆発を起こし大気を焦がす。


首をこちらに向けて2発目の炎球を放った瞬間に地面を滑る様に体を倒して火球をやり過ごすと即座に立ち上がって走る。


(鱗で覆われてるなら!)


火球を放ったままの姿勢のドラゴンの目に向けて剣を突き出す、だが切っ先が少しだけ目に入り込んだけで止まってしまう。


(目まで硬いのか!?)


予想外の事に思わず動きを止めてしまった、しまったと思った瞬間には丸太の様な尾が振るわれ脇腹に叩きつけられる。


肺の中が全て抜け出す様な感覚と体中が砕けた様な痛みを感じながら吹き飛び、地面を跳ね転がって止まる。


叩きつけられる瞬間に魔力を脇腹に集中させたお陰で死にはしなかったが剣を支えにして立つのが精一杯の状態だった。


(ここまで…なのか?)


ずしん、ずしんと足音を響かせながら目の前にドラゴンが迫る、死に体のレイルを見て最早ただの餌と認識したのだろう。


牙の間から涎を垂らして顎を開く、そのまま迫ってくる死の門を見ながらレイルは物思いに耽る。


…なんでこうなったんだろうか?俺はただ自分なりの努力をしてきただけなのに…。


…リリアをちゃんと見てやらなかったからか?彼女の不安を解消してやれなかったから?約束なんかしないで思うままに彼女を求めていれば良かったのか?


…自棄にならずに別の町にでも行って冒険者を続けていれば良かったのか?


「…違う」


心に再び感情が渦巻く、リリアの裏切りを知ってしまった時の絶望が、憎悪が沸き上がる。


失せかけた意識が覚醒する、彼女を思ってした約束と行動を踏みにじられた怒りが引き金になって。


魂が叫ぶ、こんな形で自らの命が終わる事を本能に根差した魂が拒絶する。


「ふざけるなぁぁぁぁぁぁっ!!!」


残された魔力の全てを剣へと注ぎ込む、限界など考慮せず自身が成せる最高速度と密度で魔力を流し込んでいく。


限界を超えて注ぎ込まれた魔力を撒き散らしながら激情に任せて剣を振るう。雷の如き轟音を響かせるその一閃は漆黒の斬撃となって迫りくる死の門を触れた箇所から砕き、ドラゴンの鱗を斬り裂いてその体を縦断して消え去った…。

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