第一章──選抜編

第4話

 あらゆる言い訳は、歩みを停滞させる毒である。

 悲劇を理由に足を止める者は、やがて足を止めるために悲劇を求めるようになる。

 ──ロベルタ・ベスカチオ、旧き民より新世界へ送る啓蒙。前章より。



「やぁ、春休み以来かな」


 白、病的なまでに汚濁を排斥した純白の間。中心に十字を模したテーブルを配置したそこは、学生主体の特異な都市の中心部が一つ。

 太平洋に建設された超巨大メガフロート、海上学園都市久遠の中心とも称せる空間。行政区と隣接したそこは学生の中でも最上位の人望を集めた事実上のトップ、生徒会長と彼らが許可した人間のみが足を運ぶことを許される神聖なる場。

 四方に設けられた扉を潜り、快活な挨拶を浮かべる少年が一人。随伴するは柔和な笑みを浮かべた金糸の少女──マリステラ。


「こんにちは。太平たいへい

「へへ、お前が会長とかよっぽど人材不足らしいな、国統は」

「ケッ……」


 快活な挨拶に対して、既に先客として三方に腰を下していた者達は、三者三様の挨拶を返す。

 穏やかな微笑を注ぐ者。

 嘲笑の言葉を浴びせる者。

 言葉を返すつもりはないと舌打ちで返す者。

 彼らが一様に統一できたことなど、学生というカテゴライズ程度。服装もそれぞれの学校準拠の制服で、多様性の象徴染みた光景と化している。


「これはこれは……随分と手厳しい評価を、ジン

「ま、最近落ち目の国統様じゃあ仕方ないんだろうなぁ。ゲヘへ」


 中華服と学ランを組み合わせた深緑の制服を纏い、上に立つ者としての気概を微塵も感じさせぬ笑いを見せるは九頭竜第三学院が誇る生徒会長──金豪ジン・ハオ

 『基本的に』トップのワンマン経営の側面が目立つ九頭竜第三に於いて、生徒会長とは学院最強と同義に取って間違いではない。出資国家群である人類皇帝共同連合、通称皇共連もまた、その歪な在り方を推奨している。

 人格の歪みという点では教育の犠牲者ともいえる主の愚行に、横に立つ白髪の少女は何ら関心を示すことなく無言を貫いていた。


「新人いびりとは感心しないな、豪」


 金の言動に釘を差すのは、白を基調として端々に金をあしらったロングコートの制服を纏う少年。端正な顔立ちと横に立つ屈強なボディガードを彷彿とさせる少年と相まって、王族の末梢なのかと疑問すら湧く。

 シュテルン・能咬のうがみ・エクスシア。

 聖ミカエル学園生徒会長にして、出資国家群たるNEUの国営企業ブリテン公社の次期総帥候補。

 生まれ落ちた瞬間から勝ち組としての道を歩み、そして止まることなく邁進する在り方は学内だけではなく他校にも私的なファンが多数存在すると聞く。


「なんだよ能咬ぃ。事実を言ったら失礼ってのか?」

「人より上に立つ者なら、もう少し品性も身につけた方がいい。粗野な獣では、牙を失った途端に蝕まれるよ」

「あ゛ぁ゛。喧嘩売ってんのかッ、上流階級様よぉ???」


 火花散らす二人を遮り、十字のテーブルが悲鳴を上げた。

 さすれば視線は音の出所──太平から見て左手に座る少年へ注がれる。

 裾の辺りが解れた臙脂のスーツ。内から存在を主張するチェック模様。オールバックの奥に掘りの深い獰猛な顔を持つのは、クオンハイスクール『第三』生徒会長ブドゥン・ロズニエル。

 不機嫌を剥き出しにした表情は、待たされることへの苛立ちか。


「茶会に参加してるつもりはねぇんだよ、さっさと話を進めろ。

 ってか、なんで呼び出し人が一番おせぇんだよ、ボケが」

「すみません、ブドゥンさん。それは私の不手際でして……」


 暴言を吐くブドゥンに頭を下げたのは、太平の背後に控えていたマリステラ。表面だけでも申し訳なさそうな表情を浮かべるのは、得意な部類であった。

 君が謝ることはない、と側に立つ少女へ声をかけると太平もまた、純白のテーブルへと腰を下ろす。

 国際統合高等学校。

 九頭竜第三学院。

 聖ミカエル学園。

 クオンハイスクール。

 久遠に君臨する四つの学園。その最高権力者とも言える生徒会長が一同に介して始めて、純白の間は会議の場として機能する。


「今回は我々国統の呼び出しに応じて下さりありがとうございます。本題へ移る前に、まずは生徒会会長として空下そらした太平が感謝の念を送らせて頂きます」


 太平が開口一番に礼を述べると、能咬だけが穏やかな表情で拍手を返す。

 長年国統を見下している九頭竜やそもそも学校内での統率すらまともに取れないクオンに、礼節など端から求めてなどいない。

 せめて議題の邪魔さえしなければ万々歳、というもの。


「今回皆様に集まって頂きましたのは、数週間前から国統領内で多発している辻斬り事件に関してなのですが──」

「なんだ、小細工なしに蹂躙できる相手に妨害工作でも行ってると?」

「金、それは自白かな?」

「むしろ、そういう裏工作は金持ちの専売特許だろ。まだ使用料を払った覚えはねぇな」

「ですが」


 力強く、二人の会話を遮り太平は話を続ける。


「犯人の動きは異常です。

 監視カメラの不具合が起きた場所、見回りの隙間を突き犯行に及んでいます。それこそ、内通者でもいないと説明がつかないほど的確に」

「んだよ、それ。テメェらの無能で疑われるとかふざけんなよ」

「その辻斬り犯の姿は確認できないのかな?」


 目撃情報があれば、そこから人物像を割り出せる可能性がある。特定の学生服を着用していれば学校の特定が可能であるし、得物が特定できれば購入履歴や修理依頼から絞ることが叶う。

 そのような希望を抱いて能咬は情報提供を促したが、返ってきた返事は望外のものであった。


「実は、二回目と三回目の犯行はカメラに撮れているんです。三回目は、すぐに遮断されてますけど」

「本当かい。それは僥倖じゃないか」


 こちらがそうです、と促した能咬がマリステラの持つ携帯端末へと手を指し示す。

 空間ディスプレイを最大まで拡大し、映し出されたのは路地裏で対峙する国統の制服を纏った少年と、時代錯誤の侍然とした異形。

 担う刃は二振りで、舞い散る粒子は煌びやかな薄桃。闇夜とのコントラクトという観点では美しく幻想的であるが、壁面に混入する血の赤が全てを台無しにして有り余る。


「血だと、随分滅茶苦茶な改造を施してんだな」

「……?」

「惨い」

「所詮は狙われた側が雑魚なのが悪いんだろうが。そこまで割れてるならさっさと捕まえろよ」

「随分と、酷なことを仰いますね。豪さんは」

「ケッ。これも事実だろ」


 祝刀祭に用いられる武具は幾重にも及ぶ安全機構セキュリティをかけられており、また全世界に放送する関係から過度なパフォーマンスは厳禁となっている。そこには当然流血も含まれており、光刃や光弾は人体を焼きこそすれども切断しないように出力が調整されている。

 それを無視できるということは、辻斬りが担う光刃は業者ではなく個人が私的に調整を加えた代物であるという証拠。


「暗くて確証は持てないですけど、あれはミカエルの制服ではないですね」

「九頭竜も違う、そして国統も」

「……知らねぇぞ、俺は」


 周囲からの鋭い視線に気づいたのか、ブドゥンは微かな汗を額から流して否定。

 とはいえ、クオンがその統制の取れなさから学生側の意志決定機関である生徒会もまた複数存在するという異常な形式を取っている。出資国家群側も是正したいとの考えはあるらしいものの、ならばどこが主導するかを統一できていない。

 野良学園と揶揄される所以の問題点は、故に問題行動の温床ともなっている。


「別にブドゥンが主導しているとは思っていませんよ。ただ、主導していないという確証もないというだけで」

「叩き潰されてぇのか──」

「「三下無勢が」」

「ッ……?!」


 全く同じ声音、同じ調子の言葉。

 ブドゥンが驚愕を露わにした後、マリステラを睨みつけるが最早動揺を隠す役割は果たせない。

 能咬や金豪からすれば見慣れた光景ではあるものの、今回初めて純白の間を訪れたブドゥンには、少々刺激が強かったのかもしれない。


「お前も雑魚には変わんねぇだろ。やんのか、クズ竜さん? あ゛ぁ゛、クオン如き手足縄で縛ってもワンサイドゲームだわ。二人とも、無駄なことを言っていないで、話を進めましょう。

 皆さんの続く台詞を少々拝借しました。汚い言葉を申し訳ありません、それでは議題を続けましょう」

「え、あ、あぁ……」


 未来視で強引に会話を終了させ、マリステラは本題への転換を促す。

 応じるのは、男女の差こそあれども同じ制服を纏った男性。


「今回提案したいのは、四校合同で哨戒に当たってくれないかという要請です」

「辻斬り犯にはうちも被害が出てるからね。検討はするけど、こちらへの明確なメリットがないことには円卓での合意が得られないかな」

「却下、お前らのゴタゴタに付き合う義理はねぇ」

「右に同じ」


 当然とも言うべきか、金豪が口にしたように明確な得もないのに後々争うことになる相手の支援をするなど酔狂この上ない。増して、敵が辻斬り犯となれば誰もが戦力の出し惜しみをする。

 唯一前向きな言葉を重ねた能咬でさえも、合意を得られるかに渋い顔をしている以上、他の二つに期待など望めない。

 尤も、それはメリットを語る前に判断したが故でもあるが。


「もしも我々に変わって辻斬り犯を捕縛して下されば、夏季合宿に於ける費用を全面的に支援すると言っても、ですか?」

「マリステラ、それは……!」


 先に言われたことに太平は鋭利な眼差しを注ぐものの、当の本人は意に介する様子もない。


「どうせ空下さんが言う予定であったこと。ならば誰が口にしても同じだと判断したまでです」

「うん、そうだね。そういうことなら、円卓も説得できるかもしれない」

「……」

「だったら、当然手伝ってやる。後で払えませんってオチは勘弁だぞ」


 能咬がより肯定的な意見を述べ、渋っていたブドゥンも喜々として参加を表明する中で金豪だけは顎に手を当てて思案していた。

 口を開いたのは、太平が答えを促そうとした時。


「仮に捕縛は別のどこかがやったとしても、合宿費用の五パーセントの援助をしろ。それで手を打ってやるし、いい戦力を送ってやる」

「そう、だね……」


 抜け目ないとでもいうべきか。

 成功のみを勘定に入れるのではなく、失敗しても一定の利を得る。ブドゥンなどその思考はなかったと目を丸くしているではないか。

 せめて誰を送るのか、そう問いかけようとしたものの先に口を開いたのはまたしてもマリステラ。


「では、五パーセントの費用に適う人材のご提示を」

「皇帝の嫡子」

「…………ん、私か?」


 声を上げたのは、金の横に立つ白髪の少女。

 ジナイーダ・ツァリアノフ。

 太平は詳細を把握していないものの、皇帝直々に見出された傑物らしく、一年でありながらワンマンの九頭竜第三に於いて金豪に匹敵する権限を持つらしい。

 ……驚愕の声色からは信じられないが。


「私か、じゃねぇよ。どうせお前は夏季合宿に参加は確実なんだから暇だろ」

「いや、暇じゃないぞ。私にも領内のプリン巡りとか色々やることがある」

「んなもん、いつでもできるだろがッ。ふざけてんのかッ?」

「食べるのは大事だ。いつでも真剣だ」


 眼前で繰り広げられているのは漫才であろうか。

 皇帝の嫡子ともなれば、確かに戦力として申し分ない。九頭竜の必須科目である太極拳を極め、また狙撃の技量も一キロ先の獲物を穿つとのこと。

 流れた情報と物静かな第一印象から予想がつく人格像と実情の落差が激しい。

 太平だけではなく、能咬もガブリエラも、ブドゥンでさえ驚愕を顔に出していた。


「別に四六時中働けって訳でもねぇし、国統領の不味い飯でも食ってりゃ──!」

「実際に食べたのか?」

「あ゛ぁ゛ッ」

「実際に食べて確かめたのか、と聞いている」


 食の話題になった途端、ジナイーダの表情が険しくなる。声音も低く、これ以上対応を誤れば臓腑を穿つことすら辞さない意志が伝わる。

 無論、そのような暴挙を純白の間で行わせる訳にはいかない。


「はいはい、これ以上は各自の学園でね」


 拍手で注目を集め、能咬が二人を静止する。

 互いに音の方角を睨みつけ、暫しの沈黙を置いて、素直に向き直った。


「こちらは学園に持ち帰って検討するよ。夏季合宿の件を伝えれば、答えは芳しいと思うから、前向きに数えていいと思うよ」

「クオンは参加する。合宿の費用はちゃんと用意しとけよ?」

「おやおや。姿勢を統一できないクオンには珍しい」

「そんな事情まで知るかよ」


 能咬に続き、ブドゥンもまた一応の協力姿勢を表明。

 聖ミカエルは生徒会長が善人であることも相まって、作戦への協力は確実視できるだろう。円卓入りの生徒は不可能としても、相応の実力者の参戦は期待できる。

 九頭竜第三も参加する。金豪は謀略の類を好む一面こそあれども、ここまで強く主張した上で約束を反故にしては、むしろその方が彼らの沽券に関わるというもの。

 クオンには期待が薄いか。ブドゥンの様子から何らかの協力こそ期待して損はないが、元より組織だった行動は不得手な学校。

 本格的な包囲網の構築には数日の時を必要とする。だが、それが辻斬り犯の命日となるのだ。


「皆さんのご協力に感謝します。学校を代表して、空下太平が礼を申し上げます」



 純白の間で各学校の代表が人知れずに会談を進める中、国際統合高等学校の一室では小さな囁きが散見していた。

 音の在り処は一年棟の三階、G組の教室。


「ねぇ、骸銘館が学校に来るのって何日振りだっけ?」

「もう一週間は経ったんじゃない。だって適正検査以来でしょ」

「なんで今更学校に……」

「専属トレーナーの話も全部蹴ったらしいし……やる気がないならさっさと止めろよな」

「……」


 机に蹲り、額をつけている桜子の鼓膜を震わす噂声。

 相手が眠りに耽っていると予想からか、正面から言うのは気が引ける悪態が散見される。が、彼女にとっては反論する労力よりも惰眠に耽る時間の方が遥かに重要。

 本来なら勉学に励む時間も漏れなくモザイク街での闘争に当てたいのだが、それを正式にトレーナーとなった甘粕が妨げたのだ。


『せめて学校には行け。別に授業中起きてろ、とまでは言わねぇから』

「とはいえ、この煩さじゃあねぇ……」


 周囲が桜子の様子を遠巻きに眺め、口々に言葉を零す有様では意識が自然と外界へ向けられてしまう。


「表を上げなさい」


 故にか、首筋にひりつく感覚と剣呑な雰囲気が言葉よりも先に桜子へ伝わった。

 気怠いものの指示された通りに顔を上げると、正面に立つ一人の少女が薙刀の光刃を煌めている。

 左に束ねた燈のサイドテールにナイフの如く鋭利に研ぎ澄まされた目つき。制服の下から真紅の籠手が微かに覗け、手に握られたるは桜子が担うロンゲラップと同様にNーモノリス社が手掛けた傑作の一つ、ストレンジ・カーゴ。

 憎悪すら滲ませる声音は、お人好しであろうとも穏当な態度を絶望視させる。


「何か用なの、ともえさん。眠いんだけど」

「急に登校したかと思えば、その怠惰な態度……寝屋と勘違いしてるならさっさと離島なさい」


 氷を彷彿とさせる怜悧な印象は、桜子に対する敵意の現れか。

 巴円ともえまどか

 古くは平安、貴族の時代にまで遡る巴家に連ねる少女にして、祝刀祭での活躍が見込まれている才女。時代錯誤な言葉遣いは、家柄に由来するものか。


「アンタにそれを判断される謂れはない。何なら、実力で証明してあげてもいいけど」


 首を鳴らし、桜子は不適に微笑む。

 外野は不発弾に触れた巴へ叱責の視線を注ぐが、彼女が一般大衆に意識を傾ける様子はない。

 眼前で行われる挑発に、巴は歯軋りを上げて表情を歪ませる。


「そういう粗野な在り方が侮辱と語っているのよ。貴女が座る席は、他の数え切れない不合格者が血反吐を吐きながら諦めた席よ」

「それが?

 なんで私が足下に気を向けなきゃいけないのさ。負けた奴が弱かった、私は強かった。それ以上に大切なことってある?」

「勝者とは敗者の魂を背負って立つ者。獣の価値観にはそぐわないのかもしれないけれど」


 無形の火花が無数に散り、二人の間にスパーク。

 相容れぬ価値観が並び立てば、後は優劣をかけて闘争するのみ。

 巴は否定していたものの、彼女が拒絶したのはルールなき獣の闘争。ルールに則った厳格なる戦と正式な切欠さえ与えれば彼女も容易に薙刀を振るう。

 対する桜子は頬を吊り上げ、視線を薙刀の切先へと注ぐ。

 制服の奥に隠したロンゲラップを掴む隠れ蓑とするために。不意を突き、巴の首を掻き切るために。

 室内に緊張が走り、生徒が息を呑む。

 意識が二人の対峙に注がれ、誰かの机に置かれていた筆箱が不意に落下する。

 切欠は、それであった。


「ッ!」

「このッ……!」


 好機と見た桜子は左手で身を乗り上げ、右手に持ったロンゲラップへ軽粒子を迸らせる。

 対する巴もまた咄嗟に薙ぎつつ、特有の間合いを利用して身を仰け反らせる。

 互いにノーガードの早打ち染みた勝負は、一秒にも満たぬ間に決着を見る。


「おぅし、ホームルームを始めるぞ」

「チッ……!」

「ッ……!」


 教室に先生が入室してくる、という幕引きによって。

 先生の姿を認めた刹那に桜子がロンゲラップの軽粒子を霧散させ、遅れて巴も薙刀の切先を霧散。

 互いに抜刀状態を解除したものの、桜子の明確に攻勢を仕掛けていた姿勢と巴が手に持つ薙刀の姿は隠蔽しようもなし。


「おい、骸銘館と巴。教室は暴力厳禁だぞ。暴れたいならトレーニングルームへ行け」

「はいはい」

「すみません。後藤先生」


 叱咤を受けて桜子は乱暴に座り、巴もまた先生へ向き直り頭を下げた後で自らの椅子へ腰を下した。

 二人の着席を確認すると、教壇の前に立った担任がホームルームの開幕を告げる。


「えぇ、選抜戦の予選に於ける対戦カードの一覧が一階玄関前に提示されている。各自、確実に確認した上で準備を進めていくように。

 続いて、最近国統領で多発している辻斬り事件に関してだが……」


 教壇から響く声音は、桜子の鼓膜を揺さぶることはなかった。

 些事にも満たぬ事象に心を病むよりも、実際に刃を向けた手合いに気を揉むのは当然の話と言える。

 故に、桜子の眼光は鋭く切れ味を増す中で巴にのみ注がれている。

 眠気など、意識の片隅にすら残されてはいなかった。

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