第42話 教会 (アカシア)

 ウォールを秘密の部屋がある、屋敷のすぐ裏の古びた小さな教会に案内すると、それを見たウォールは、驚きながら何か呟いていいます。


「いや、なんでもない、変わった教会だな?」

「そうですね。他ではあまり見ませんが、聖女だったお婆様が建てたそうですわ」


「しかし、こんな所にあったとはな――」

「フフフ。屋敷の中だけでなく、大聖堂の中まで探していたようでしたが、お生憎様でしたね」


「僕が、秘密の部屋を探していたのに気づいていたのか?」

「普通気づきますわ。毎週来て、無意味に屋敷の中をうろちょろしていれば、気づいていないと思っていたことの方が意外ですわ」


「そんなにあからさまだったかな?」


 ウォールは過去の自分の行いを思い出しているようです。


「さあ、ここがお探しの秘密の部屋のある教会ですわ。どうぞ、お入りください」


 私は、教会の中にウォールを招き入れます。

 この教会には、魔法で特別な結界が張られているそうで、中に入ることができるのは、お婆様と私以外いませんでした。


 私が、ウォールを招き入れたことで、今後は、ウォールもこの教会に入ることができるようになります。


「それで、『予言の書』が入った本棚はどこにあるんだい?」


 教会の中に入るなりウォールが待ちかねないように聞いてきます。

 教会の中には祭壇があるだけです。


「ここで祈りを捧げると、隠し部屋への扉が開く仕組みになっていますわ」

「結界だけでなく、そんな仕組みまであるのか。随分と厳重だな」


「予言の書を保管していますからね。当然ですわ」

「そうだな。それで、祈りを捧げるのにはどうしたらいいのかな?」


「そうですね。では、私に続いて言うとおりにやってくださいな」

「アカシアの真似をすればいいんだな」


「格好だけでなく、心も込めてくださいよ」

「ああ、わかった」


「では、先ず、姿勢を正して、二回深くお辞儀をします」


 普段、こんなに深くお辞儀をすることはありません。神様の前だけです。


「次に、二回手を打ち鳴らします」


 パン! パン!


「そして、そのまま手を合わせてお祈りします」


 身体健勝、無病息災、家内安全、商売繁盛、学業成就、良縁成就、子授安産、長寿祈願、大願成就。

 あれ? 何か余計な物もあった気もしますが、まあ、いいでしょう。


「最後にもう一度深くお辞儀をします」

「まんまだな――」


「何か言いまして? まだ、お腹が空いてますの?」

「いや、なんでもない。気にしないでくれ」


 ゴゴゴゴゴ!


 祈りを捧げ終わると、床が動いて、地下へと続く階段が現れます。


「おおー!」

「さあ、行きますわよ」


 驚いているウォールを促して私たちは階段を降ります。

 そして、降りきった先の扉の奥が、予言の書を保管している隠し部屋になります。


 私たちは扉を開けて中に入ります。


「おおー!」


 ウォールがまた驚いています。


「これは、まるで図書館じゃないか!」


 驚いているというよりも、感動している。が正しいでしょうか。


「さあ、感動しているのはその辺にして、新しい魔法が書かれた本を探しますわよ」

「『予言の書』だけでなく、魔導書もあるのか?」


「お婆様が書いた物が有るのよ。確か奥の方に」

「奥の方だな」


「お婆様が書かれた物だから、ウォールでも読めるはずよ」

「ああ、こちらの言葉で書かれた物を探せばいいのか」


 ウォールは本棚を確認しながら奥に進んでいきます。


「ラノベだけじゃなくて、いろんな本があるじゃないか。まさに図書館ごと持って来た感じだな――」


 ウォールが、さっきからブツブツ呟いていますが、気にしないことにしましょう。


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