第2話

 揺さぶられるような感覚とともに我は目を覚ました。

 眼を開いた瞬間飛び込んできたのは見知らぬ金髪の女の顔だった。

 『看破の魔眼』を使おうとしたが、なぜかステータスが見えない。

 仕方ない、聞くか。


 「誰だ貴様?」

 「あら、やっと目が覚めたのね、アースベルクの魔王シリウス」


 貧乳全裸変態女は脳みそも貧相なのだろうか?

 俺はお前は誰だと聞いたんだが?


 「誰が貧乳全裸変態女よ!あと私の名前はアリエスよ!悪かったわね!」


 頭が朦朧とする。直近の記憶が全く思い出せない。

 しかし、ここは何処だろうか?

 果てしなく続く眩いほどに純白の空間。

 まるで神話に出てくる神域のようだ。


 「ちょっと聞いてるの?」


 もしここを神域だと仮定して、何故我はここにいる?

 確か死後は転生のため神域に招かれると神話の一節にあった気がするが……。

 まさか!

 我が死んだというのか!?

 この我が!?

 KONOWAREGA!?


 「ちょっと……」


 ……段々思い出してきたぞ。

 異世界から勇者が来て、そいつがチート過ぎるスキル、確か『地球人Lv1000』とかいうスキルで我を殺した、んだったか……。

 あんな雑魚に殺されるなんて……。


 「その辺の事情も説明するから話を聞きなさ、聞いて下さい。」


 変態がちょっと涙目になってきてる。

 そろそろ反応してやるか。

 少し取り乱しはしたが状況整理が先だと思っただけだ。

 別に好き好んで無視していたわけではない。


 ……ちょっと楽しかったが。


 「楽しんでたの!?」


 目の前の女が即座に反応してくる。

 っていうかさっきから薄々感じていたがコイツ、我の思考が読めるのか?

 何か嫌だな。

 喋ってもいないのに相手から自分の考えていることに対しての答えが返って来るのは気持ちが悪い。

 って、今考えている事もコイツに全部伝わってるってことだよな、思考を読むのやめてくれないか?


 「思考を読むな? 良いわよ読まないであげる」


 仕方ない、という様子で思考を読まないことを約束する女。

 ちょっと確認してみるか、さっきは確かああ考えたら怒られたよな。

 確か……。

 貧乳全裸変態女。


 「うん、本当にやめてくれたようだな」


 「?今何を確認したの?」


 どうやら本当にやめてくれたらしい、演技という可能性もあるが……。

 なにせ我の思考を読むほどの相手だ。

 人の心の中を読むスキル何て聞いたことが無い。

 つまりコイツは今までにあった事の無い類の人間だという事だ。

 いや、ここが神域って事はコイツは神なのか……?


 「嘘を見破る魔法の言葉を頭の中で唱えただけだ。それより話を進めてくれ。早く状況が知りたいんだ。」

 

 「そんな魔法あったかしら? まぁいいわ、話を進めましょう。まずは自己紹介ね、ああ、あなたはしなくていいわよ? あなたのことは良く知ってるから。私の名前はアリエス、あなたの世界の唯一の宗教、『勇者教』の主神にして数多ある世界の神様の一柱よ」


 勇者教ならよく知っている。

 遥か昔神話の時代から魔王が世界に現れるたびに勇者を輩出して来た為か胡散臭い宗教が多い中、唯一信心を集めている珍しい宗教だ。

 まぁ魔王たる我にとっては迷惑極まりない組織だが。

 ん?そういえば今コイツ自分の事勇者教の女神とか言ったか?


 「貴様かぁ!あのチートスキルを持った勇者を送り込んできたのは!」

 「仕方ないじゃない、あなた中々討伐されてくれないんだもん。二回も勇者を殺されてしまったらもう対魔王世界から勇者を召喚するしかないでしょう?そんなことで喚かないでもらえる?」

 「神の常識なんか知るか!っていうかなんだあの『地球人Lv1000』って!?あれ作った奴頭おかしいだろ!?」

 「……神である私を侮辱したわね?」

 「貴様かよ!?」


 こんな状況でもなければ今すぐ殺すところだぞ、全く。


 「まぁいいわ、このままじゃいつまでたっても話が進まないもの。もう、これだから魔王は……。率直に用件を伝えるわね?あなたには転生してもらうわ!」


 は?


 「は?転生?何故だ?貴様は我を殺したかったのではないのか?」

 「は?じゃないわよ!私だってあんたを転生させたくなんてないっての……。あんたねぇ、忘れたの?自分に掛けたでしょ?転生の秘術」

 「あぁ」

 「……もしかして忘れてたの?」


 アリエスが呆れたような顔をする。


 「わ、忘れてたわけないだろ」


 断じて忘れてなどいない。

 想定通りだ、うん。

 

 「ほんとに?」

 「そんな冷ややかな目で見るな!本当だ!」


 まったく、失礼な!


 「まさか忘れてるなんてね……で、そのあんたが掛けた転生の秘術があるせいであんたは今もう一度記憶を持ったまま生まれ変わることになっちゃってるの」

 

 って事は我はまだ生きられるという事か。

 

 「残念だったな!我は同じ間違いは犯さない!次の人生では絶対に異世界の勇者なんぞに殺されないように世界を支配してやる!『地球人Lv1000』を持っている者以外には我は無敵なのだからな!」


 そう、我が意気込むとアリエスが何故か一瞬嗜虐的に笑ったような気がした。

 気のせいか?


 「じゃあ、転生を始めるわね」

 「ん、あぁ」


 アリエスはそそくさと転生の魔法陣を構築していく。

 何かやけにあっさり転生させるなこの女神。

 もっと悔しがれよ。


 そんなことを思っている内に我の立つ地面に巨大な魔方陣が出現し、輝きだす。


 「じゃあな、女神サマ我に支配されていく世界を指をくわえてみているがいい!」

 「えぇ、さようなら……。汝に未曾有の不幸あれ!てか死ね!」


 アリエスが悔しそうにこっちを見ている。

 そんなこんなで我は新たな人生へと旅立った。

 次の人生では世界征服だ!

 ハハハハハハハ!

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