さぁ、全国大会へ

第39話 クリスマスデート

 

「クリスマスは皆何するの?」


 2学期の期末テストが終わって、冬休みに入る頃、いつものメンバーで教室にて、昼ご飯を食べていた花が急に切り出した。


「ん?私は塾だけど。

 今年はイブもクリスマスも平日だしね~」


 加奈はサンドイッチを頬張りながら答えた。


「あれ?太一君とどっか行ったりしないの?」

「行かないよ~

 てか、私達、付き合ってないからね~」


 加奈は笑いながら、花に念を押した。


「はっはっは~太一の奴、かわいそうにな~

 結構、頑張ってると思うのに~」

「そういう菅君はクリスマス予定あるの?」

「俺はいつも通り、バイトだ!

 女なんていらないね!!」


 菅は強がった様子で笑っていた。


 谷はそんな菅をかわいそうな目で見ていた。


「…まぁ、来年までには彼女できたらいいな…」

「うっせぇよ!!

 浩介は彼女と遊ぶのか?」

「俺も塾だよ。

 まぁ、塾が一緒だから、終わった後に軽く茶しばくくらいかな。」

「しばくって、どこの関西人やねん!」


 菅は谷にオーソドックスに突っ込んだ。


 そんな会話をしている中、野口はひっそりと黙って、昼ご飯を食べていた。


 加奈はやり過ごそうとしている野口を見逃さず、ニヤリとした顔で花に聞いた。


「花はクリスマス、どうするの~?」


 花はニンマリしながら、恥ずかしげもなく、加奈に答えた。


「もちろん、アキと公園練習するよ~

 今年は全国大会も近いし、平日だしで、クリスマス合宿無いしね~

 クリスマスの次の土曜はデートするよ~」


 花の言葉を聞いて、またかと野口はため息をついて、皆の反応に対して、待ち構えていた。


 しかし、野口の思っていたリアクションが無くて、野口は不思議そうな顔をした。


「…なんか、飽きてきたよね…」

「…確かに、いじっても面白くなくなってきたわ。

 ちょっと、お前ら仲良すぎじゃね?」


 加奈と谷はうんざりした様子で、昼ご飯を黙々と食べ始めた。


 二人を見て、野口は何故だか腑に落ちない気持ちになり、一応、言っといた。


「…別にお前らがそれならいいんだが、そんな顔されるのも心外だわ…」


 谷はチッと舌打ちをして、野口に聞いた。


「お前らって、喧嘩とかしないの?

 てか、そろそろ別れたりしないの?」

「別れねぇよ!!

 飽きたら、別れろって、どんだけだよ!!お前は!!」


 野口はいつもとは別方向からの理不尽すぎるいじりに対して、怒った。


 加奈も谷に賛同するように、頬杖つきながら、野口に言った。


「でも、確かにホントに仲良いよね~

 もう付き合って1年近くなるでしょ?

 喧嘩の一つや二つしてもいいもんだと思うけど?

 むしろ、喧嘩してないって、逆に付き合ってるって言えるのかな~」

「…お前ら、ここぞとばかりに別れさせようとすんなよ…」


 野口は頭を抱えるのであった。


「はっはっは~まぁまぁ、アッキー。

 マンネリになってないかってことだよ~

 気にすんなって!」

「…お前もお前で、なんか腹立つわ。」


 結局、いじられてしまう野口を見ながら、ニヨニヨして昼ご飯を食べる花であった。




「結局、昨日と変わらず、いつも通り、公園練習か~」


 クリスマス当日、公園練習をしながら、野口は白いため息を吐いた。


「いいじゃん~別に~

 こうしてる方が楽しいんだし~」


 花はボールを野口に蹴りながら、笑って言った。


「まぁ、確かに俺ららしいクリスマスだよな。」


 野口も笑って、ボールを蹴り返した。


 前日のクリスマスイブも似たような感じで、公園練習をしたのだった。





「家ではケーキとか食べるの?」


 練習終了後、ベンチに二人寄り添って、座っている中、野口が花に何とはなしに聞いた。


「食べるよ~

 一応、毎年食べてるね~

 クリスマスプレゼントももうもらったよ~」

「おぉ~何貰ったの?」

「サッカー用の靴下。

 サッカーの靴下って、直ぐやぶれるじゃん?

 だから、ありがたかったわ~

 プレゼント入れの靴下の中に靴下が入ってるって、とんちも効いてたしね~」

「とんちて!

 まぁ、花がいいんなら良かったけど。」


 野口は半分呆れた様子だった。


「アキはてっちゃんから、クリスマスプレゼントもらえたりしないの?」

「あぁ~高校入ってからはもうなくなったな~

 元々、アンチクリスマスな親父だから~

 姉貴にはブ~ブ~言われるから、なんかあげてるらしいけど、俺はもらってねぇわ。」

「えぇ~恵子姐さんがもらってるのに、アキはもらわなくていいの?」

「別にいいよ。

 姉貴と違って、俺はサッカーに関するもんは基本何でも買ってもらってるからな。

 だから、その代わりだな。」

「なるほど。てっちゃんもサッカー好きだもんね。」


 花は野口の話を聞いて、納得した。


 ついでにと、野口はカバンをあさりだした。


「…話の流れから、俺からのプレゼント渡しとくわ。

 どうぞ。」


 そう言って、野口は装飾された袋を花に渡した。


 花が袋を開けると、ポンポンのついたニット帽だった。


 花は直ぐにそのニット帽をかぶって、野口を見つめて笑った。


「可愛い!!ありがと!!

 明日もつけてくね~」


 野口はお気に召したようで、ホッとした様子だった。


 それならと花も小さな紙袋を野口に渡した。


「はい!これ。

 私からのプレゼント。」


 野口が紙袋を除くと、中にはサッカー用の靴下が入っていた。


 野口はサッカー用の靴下を取り出しながら、微妙な笑顔で花に言った。


「あ、ありがとう。

 実用性抜群のもの貰って、申し訳ないくらい嬉しいよ。」

「そうでしょ~

 まさか、私が今日もらったプレゼントと被ると思わなかったわ~」


 花は嬉しそうに笑っていた。


 野口は花が嬉しそうにしているのが、嬉しくて、笑って言った。


「明日、俺もこれ履いていくわ。」

「いや、それはやめてよ。

 デートにサッカー用の靴下履くなんて、非常識だよ。」


 花は思ったよりもガチで、野口に注意した。


 野口は何だか納得できない顔をして、返事したのだった。


「…ハイ。分かりました。」




 デート当日、二人とも午前の練習を終えて、昼から駅で待ち合わせして、ホラー映画を見に行く約束をしていたのだった。


「お待たせ~」


 花は野口からもらったニット帽をかぶって、駅で待っていた野口に寄って行った。


「おう。

 似合ってるじゃん。」

「でっしょ~」


 花は野口に褒められて、くるりと一回転した。


「ほんじゃ~行くか~」

「おぉ~」


 二人は慣れた様子で手を繋いで、映画館へと行くのであった。




「ちょっと、早めに来すぎたな。

 後、1時間以上あるわ。」


 野口が予約していたチケットを買ってきて、花に言った。


「いいじゃん。

 ちょっとそこらへんブラッとしようよ~」

「そうだな。」


 そう言って、二人はぶらぶらと街を歩き始めた。


 すると、映画館を出てすぐのところで、偶然出会ってしまった。


「あれ?加奈じゃん。」

「げっ!花!」


 加奈は携帯をいじりながら、見られてしまったとバツの悪い顔をしていた。


「何してんの?

 こんなところで。」

「い、いや~ちょっと友達と遊ぶ約束しててさ~」

「でも、なんでさっき、なんか嫌な顔したんだ?」


 野口は何かを怪しむように加奈に聞いた。


「えぇ~そんな顔してないよ~別に~

 ほら、二人ともデートなんでしょ~

 早く楽しんできなよ~」


 加奈が何故か焦っている中、一人の男が近寄ってきた。


「伊藤せんぱ~い!!遅れてすみません!!

 って、あれ?

 小谷先輩に野口先輩?

 何してんすか?」

「太一君じゃん!」


 大きな声で加奈に声を掛けたのは新田だった。


 加奈は諦めた様子でため息をついて、野口を笑いながら、ギラリと睨んだ。


「…言っとくけど、別に私、嘘は言ってないからね~

 と・も・だ・ちと約束してるって言ったよね~

 その友達が太一君ってだけだよ~」

「お、おぉ。そうだな。」


 野口はいつもと立場が逆になったが、とてもいじっていい様子ではなかったので、これ以上何も言えなかった。


 しかし、花は空気を読まずに笑いながら、加奈に聞いた。


「いや~でも、加奈がそんなオシャレしてるのって久しぶりじゃ~ん。

 太一君とどこ行くの~?」


 野口は心の中でガッツポーズした。


 加奈は変な汗をかいて、笑いながら、答えた。


「ん~~まぁ、それは太一君にお任せしてるから、私、分かんな~い。」

「うす!!任せて下さい!!

 いつも伊藤先輩にリードされてるんで、今日は俺がリードして見せますよ!!」

「いつも?

 二人とも何度かデートしてるの?」

「ん?そりゃ~…」


 加奈は急いで太一の口を塞いた。


「じゃ、じゃあ、私達、もう行くね~

 それじゃあ、メリ~クリスマ~ス~」


 そう言って、加奈と太一は早々に立ち去って行った。


 花はポケッとした顔をしていたが、野口は笑いをこらえていたのだった。


(…ククク…これで、いじられてもいじり返せるネタができた…)




「ちょっと、お茶してこっか?」


 二人は映画館の近くにあるカフェに入って行った。


 すると、ここでも偶然出会ってしまった。


「おぉ。昭義じゃん。」

「浩介!

 …と、藍那(あいな)じゃん!

 久しぶりだな~」


 谷とその彼女、鈴木藍那(すずき あいな)がカフェで二人勉強していたのだった。


「昭義君。久しぶり。

 元気してた?」

「まぁ、ボチボチな~

 いや~てか、中学以来だもんな~」


 藍那は綺麗で大人らしい女性で、花はそんな藍那と仲良く話している野口の頭を叩いた。


「いてっ!何?」

「いや、むしゃくしゃしてつい。」

「はは。相変わらず、小谷はおもろいな。

 二人とも隣座れよ。」


 谷は笑って、二人を席に座らせた。


 そして、野口は花に藍那の事を説明した。


「こいつは俺と谷の幼馴染で、谷の彼女の鈴木藍那。

 ちなみに中学から、二人は付き合ってるから、カップル歴はかなり長くて、もう夫婦みたいな感じだよ。」

「確かに。なんか二人とも余裕があるっていうか、なんていうか…

 いい感じだね。」


 花は二人をじっと見つめながら、うんうんと頷いていた。


「私は小谷花って言います。

 アキの彼女してます。

 よろしく~」

「よろしくね。小谷さん。

 話は浩介君から聞いてるよ。

 面白い子だって。」

「それ程でも~

 てか、花でいいよ。花で~

 谷君の彼女なら、もう友達みたいなもんだし~」

「ふふ。分かった。

 花ちゃん、これからよろしくね。」


 二人は早速仲良くなった様子だった。


「それにしても、この余裕感、さっきの加奈とは大違いだね~」


 花が何も気にせず、先ほどの加奈の話をしだした。


 野口は内心、話していいものなのかと思ったが、花はどうせ止まらないだろうと諦めていた。


「ん?なんのことだ?」

「なんか、今日、加奈、太一君とデートしてるみたいでさ~

 それを私たちが発見しちゃったの~」

「マジで!?

 太一が!!伊藤と!!」

「うん!

 しかも、どうやら今日が初めてじゃないみたい。

 友達って言ってたけど、ほぼ付き合ってるんじゃないかな?」

「ははは。マジか~

 滅茶苦茶面白いじゃん~

 俺も見たかったわ~」

「…正直、あんなに慌ててる伊藤は初めてだったから、俺はかなり面白かった。」

「だろうな~」


 そうして、4人は楽しく会話するのであった。




「ん~~~今日はなんか色んなことがあって、楽しかったな~」


 デートの帰り道、花は身体を伸ばしていた。


「あぁ~そうだな~

 今日は最高に楽しかったわ。

 特に伊藤と太一の件は俺にとって、大きな武器になるわ。」

「なんのこっちゃ?」


 花は不思議そうに野口を見つめた。


 二人は手を繋ぎながら、話していた。


「でも、加奈と太一君って、案外お似合いな気がするんだけどな~

 なんで加奈はOKしないんだろ?」

「確かに。

 太一も真っすぐでいい奴だしな。

 なんか花に似てる気がするし。」

「私が?太一君と?

 そうかな~?」

「うん。思ったこと何でも言っちゃうところとか。」

「…それは褒めてくれてるのか、けなしているのか微妙なラインだね。」


 花はムッとして、野口を見つめた。


「いやいや。褒めてるんだよ。

 言っただろ?

 俺、花のそういうところ憧れてるって。」

「そういや言ってたね。」

「だから、俺もできるだけ思ったことは言ってるつもりだよ。

 それで、俺らってあんまり喧嘩しないんじゃないかな?

 良く分からんけど。」

「確かに。そうかもね!!

 これからも仲良くいこ~」


 そう言って、花は繋いでいた手を上げた。


「でも、これで私たちのグループって皆付き合ってることになったね~

 良かったね~」


 野口は呆れた様子で花に言った。


「いや…一人忘れてるだろ…」




「ハックショ~イ!!!!」


 バイト中の菅がくしゃみをしたのだった。


 続く

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