第13話 王都の春ノ市 後半

 春ノ市二日目。頑張るぞ! と意気込み、朝食をとってリルラちゃんとアーレンスと広場へ向かう。のだけど。


「お姉様? 何かおかしくありませんか?」


「そうだね。あそこ、わたしたちのスペースだよね」


わたしの出店スペースに何故だか人だかりができている。

昨日、商品を買ってくれた人や、見たことのない顔。


「ああ、あの人だ!」


一人がわたしに気づくと、わらわらと塊が移動してきた。何事? お客さんだよね?

わたしが後ずさると、背中をアーレンスが支えてくれる。


「大丈夫だ。な?」


アーレンスがわたしを安心させるように微笑んだ。


「ねえアナタ、昨日のバッグまだある? お母さんに頼まれたの!」


「全然疲れない靴下をお願いします!」


「魔物除けのアミグルミあるかい?」


とりあえず、一人一人さばいていくことにする。


「あのバッグすごいわ。入れていた野菜が夕方まで新鮮なままだったの! さすが魔道具ね。便利だから母の分ともう一個、ちょうだい」


どうやらバッグの便利さに気づいたみたい。

女の人はバッグを二つ買うと、さらに靴下とコースターも購入してくれた。

それからバックは主婦の方に爆売れしてしまった。食品が痛まないのが嬉しいみたい。

中には家での保存用と、持ち歩き用なんかにわけて買う人もいる。


本当に便利なんだよね、バック。

あと、デザインがおしゃれなのも良かったようだ。


「あたし酒場で働いてんだけど、ずっと立ってたり動いたりしても足が疲れないの! 買ってよかった!」


リルラちゃんお墨付き靴下も人気だ。立ち仕事の人たちにぴったりだものね。ちなみにわたしも毎日はいている。


これは若い方から年配まで、男女関係なく売れた。多分、店の品物の中では、靴下が一番売れていると思う。


次に来たのは、昨日一番最初に来てくれたおばあちゃんだった。


「今もつけているんだけどね、腰の痛みがなくなってねぇ。痛くて動けない時もあったのに、それがすっかりなくなったんだよ」


「それはよかったです」


「本当に助かったよ。ありがとうねぇ」


心がなんだかぽかぽかしてくる。

わたしの大好きな編み物で、誰かの役に立って感謝されるのがとても嬉しい。


「でね、主人にも一個欲しくてねぇ」


「それなら、この辺りのカラーはどうですか?

男性でも身につけられると思います」


「青かね、いいねえ。主人も喜びそうだよ。じゃあそれにしよう」


おばあちゃんも、腹巻きの他にコースターを二つ買ってくれた。


 昨日、買ってくれた人や、その人たちからの口コミでお客さんはさらに増えていく。

安いのと品質がいい、おしゃれなのが人気の理由みたい。


開始三時間で、ほとんどの商品が売れてしまった。


「さすがお姉様! たくさん売れましたね!」


「リルラちゃんありがとうね。手伝ってくれたからかなり助かったよ」


「当たり前です! お姉様の為ですから!」


全部売れたら、アーレンスの出店を手伝おう。

あともうひと踏ん張りだと、自分を鼓舞する。


「あっらあ! アトラ、元気そうねえ」


 聞いたことのある声だと思ったら、サクナさんだ。

カルゼイン王国に来た時に会ってから、久しぶりに会った。隣にはシーアちゃんもいる。

それに、ミヤエルさんも一緒に歩いてきていた。


「サクナさん、お久しぶりです。シーアちゃんも」


「……ちゃん付けは恥ずかしいのでやめて欲しいです」


「やだシーア、照れてんの? かっわいい」


「アナタに言われたら虫唾が走りますが」


「もう! 酷いんだからぁ」


相変わらず二人の掛け合いは面白いな。

でも何故かリルラちゃんはわたしの後ろに隠れて、アーレンスは渋い顔をしている。

すると、サクナさんがアーレンスを見つけた。


「あらアーレンス、久しぶりねえ? 勉強は捗ってる?


「……お前に言う必要はない」


「あっそ」


なんだか険悪な雰囲気。二人とも、知り合いなのね。仲は悪そうだけど。

サクナさんは肩をすくめると、再びわたしに顔を向けてにっこり笑う。


「グロレアのところで勉強してんでしょ? アタシも安心したわあ。でも、バレないように気をつけなさいよ?」


「はい、気をつけます」


「じゃ、アタシも何か買って帰ろうかしらね。あなたの編み物、かなりウワサになってるわよ? 魔道具なら安心だけど」


周りを気にしながら遠回しに言うので、サクナさんもわたしに気をつかってるんだな。


「もう少ないですし、安くしますよ」


「あーん! アリガト! 何にしようかしら」


「サクナさん、私のも買って下さい」


シーアちゃんは、サクナさんのローブを引っ張っておねだりしている。可愛い。


「仕方ないわねぇ」


「当然です」


「はいはい、わかったわよ」


二人のやりとりに、つい笑みが漏れる。


「シーアちゃんは、サクナさんが好きなのね」


「へ? な、何言っているのですか? そんなわけ、あ、ああありませんから!」


リルラちゃんが私の後ろから顔を出して、ニヤニヤ笑っている。アーレンスやミヤエルさんも微笑ましくシーアちゃんを見つめている。


サクナさんは困った顔で笑みを浮かべている。

いつもは茶化しそうだったので、意外だ。

なんていうか、素の顔、って感じかな。


「わ、私、用事を思い出しました! ではっ!」


シーアちゃんは顔を真っ赤にして、踵を返すと人混みの中へ消える。

言わない方がよかったかな?


「ちょ、シーア! 全く、あの子ったら」


サクナさんは消えていくシーアちゃんを見て、ため息をつく。


「仕方ないな。シーアは死にかけのところを、お前に拾われたんだから。あんなこと言うけど、好きってか、大切に思ってんだろ」


そういうことだったんだ。

シーアにとっては、サクナさんは命の恩人で、大切な人なのね。


「あの子が喜びそうなものでも買って帰ろうかしらね」


サクナさんはシーアちゃん用に髪留めを一つ買って、シーアちゃんを探しに行った。


品物が無くなったので、アーレンスの出店を手伝う。アーレンスもアーレンスでよく売れていた。値段は少し高めだけど、魔道具の品質とアーレンスの人柄で売れているみたいだった。


王都にも知り合いや名前を知られているよう。

顧客が多いみたい。

サクナさんも知ってたものね。仲は悪そうだったけど。

わたしもリピートしてくれるお客さんを作らないとね。まずの目標はアーレンスかな。


 夕方五時、今日のマーケットの終了時間となる。わたしとアーレンスは今日で販売は終わり。みんなで片付けをしたら宿屋へと向かう。


宿屋の隣にある料理屋で、みんなで夕食をとる。トーマスさんの奥さんは、疲れたでしょうとたくさん料理を振る舞ってくれた。

今日も昨日と同じく疲れてお腹が空いていたから、たくさん食べたはずなのにまだ胃に空きがあるような気がしちゃう。



「明日はみなさん、マーケットをまわりますか?」


「そのつもりです」


「お姉様についていきます!」


「俺も、掘り出し物探しをしようかな」


「アトラさん、良ければ最後に孤児院に行きませんか? 私も久しぶりに顔を出したいので」


ミヤエルさんがわたしにそんな話を持ちかける。

孤児院か。ナランに来る前に行って以来かな。火事で見覚えのないものにはなったけど、あそこは確かにアトラスの家だった。


「わかりました。じゃあ、明日はマーケットを見て、明後日はミヤエルさんについていきます」


アトラスの家だった孤児院。

少し顔を出すのもいいかもしれない。


 夕食を食べたら、すぐにベッドに入った。今日はたくさん売れたから、疲れてへとへと。

でも、わたしの編み物で笑顔になった人たちを思い浮かべると、なんだか満足感が体にじんわりと染みてくる。

編み物をする気力もなく、瞼が落ちてくる。

今日はもう寝ようかな。


明日は、リルラちゃんとたくさんお買い物しよう。

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