神神の微笑。敵の敵は

八五三(はちごさん)

第一話

 追い出されて、しも、た。

 いやーぁー。たしかに俺が悪いちゃー、悪いんやけども、やな……。

 いつもやったら日常茶飯事ってことで、許してくれてるんやけど。今回は、さすがに、やって、もたもんなーぁー。

 

 …………、…………。


 ま、しゃーない。か! 今さら何しても、取り返しつかんもんは、つかんしな。しかし、計算外やったな――アレは。

 

 でも、

 これで――――ええ、兵器、造れるわ。失敗は成功のママ、さん、やな。


 おっと、

 とりあえず、兵器のことは一旦、置いといてやな。

 まーぁー、とにかく。


「ここ、どこや、ねん?」


 平たく言うと、迷子になっとる。

 パパ、さん。マジギレして、空間転移魔法使って飛ばされたんは、百歩譲っていいとする。が! 最低でも、どこに転移させるって言ってくれても、いいと思うやけど。



「お嬢さん、一人」


 汚いやっちゃなぁー、盗賊――野盗、か。

 毎日、風呂、入れとは言わんが。最低でも、そこらへんにある、湖か川で水浴びぐらいしろ、や。

 そんなん姿で、女に声掛けても、無視されるだけや、ぞ。ぁー、だから、無理矢理に拉致るんやろな。

 自分を磨かんから、モテん男になってしまうんやで――ほんま。

 まー、それはともかくとして。人がるってことは、未開の地ではない、な。あと、この、むさい盗賊か野盗か知らへんけど。ヤバい輩が居るってことは、近くに人が住んでるってことやな。

 コイツの、首、キュして、吐かせ……た……ろ……。ちょ。お嬢さんって、呼んでなかったか? ――俺のことを。


「おい、おっさん! 勘違い、してんで。可憐な美少女じゃなくて、俺は、可憐な美少年や!」

「…………、…………」


 うっそうとした木々の隙間から、太陽光が皓々こうごうと可憐な美少女でなく、独特の口調のドア顔美少年にスポットを当てる。

 ダークシルバーセミロング。形のよい眉が知的な心象を与え。ややタレ目ながら、オオカミの眼と呼ばれる琥珀色こはくしょくが、整った顔の造形をより、引き立てた。

 体躯は華奢きゃしゃなために、少女のように見えてしまうのも無理ない、の、だが――態度と口の悪さから、実体は悪餓鬼クソガキ

 

 それと、

 ボケがスベったことにより、強制時間凍結魔法、絶賛発動中でもあった。



「…………、…………。って沈黙すな、ボケたらツッコめ。おっさん!」


 見た目には何ら先程までと変わりない様子の美少女ではなく、美少年だが。ボケがスベったことを自覚し、恥ずかしさから声音が一オクターブ上がり、引きずっていた。

(これやから、素人さんは――――笑いを分かってないんから、困るわ。本気でほんま!)


 今ひとつ盛り上がるの欠けている一人漫才に、笑いが起きることなく。

 代わりに、

「く、クソガキが!」


 街道を薄暗くし、人気を避けさせている。両脇に並び立つ木々の葉を揺らす、明瞭めいりょうな殺気が込められた怒声が周囲に響き渡った。

 それが合図だったかのように、木々に影に隠れ潜んでいた。声を掛けた男と似た風貌ふうぼうの男たちが、ぞろぞろ、と茂みから姿を現した。

 

 囲まれてるんのは、知っとたけど……ぎょうさん、んな。どんだけ、暇人さん、なんや? 森の中で隠れんぼ、してる、暇、あったら。仕事したらええのに――ぁ――真っ最中、か、仕事の。

 

 美少年は事態が切迫している、のに。ふぁーあー、と、大きな欠伸あくびをし。やる気なさげに、涙目で状況を観察していた。

 とりとめのない緊張感のなさ、加え、完全に舐めきった態度。

 に、

「よくも、俺をコケにしやがって!」

って。俺がコケにしたんは、おっさんじぶん、だけやで!」

 と、

 美少年。右手こうを鋭く振り抜き、空中に美しいツッコミの軌跡を画きだしながら、ニヤリとすこぶるご機嫌な笑い顔をし。

「おっさん。今のフリはよかった、で」

「ぉぅ」

 反射的に応答してしまった、盗賊か野盗のリーダー。

「で――――やな。人が住んでんの、どっち?」

「あっち」

 指し示した――方向を。

「おおきに」

 手を挙げ、ひら、ひら、と動かし。美少年は、指し示した方向に歩き出した。


「――こっ――の!」


 背を向けてた、美少年に。リーダーの男が斬りかかろうとしたとき。


「――ちょっと、まったーーーーー!!!!!」

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