~五分前 教室~


「俺の心を折る?笑わせんなひょろがりが!」


 秋山は倒れている俺に対し大根のように太い腕を振り下ろす。


 ブンッッ


「あっぶな」


 横に転がり攻撃をよけ、ナックルダスターをはめて立ち上がり戦闘の構えをとる。


「フン、やる気か。手加減してやる気はないぞ」


 秋山はそういうと体が黒くなっていくのがわかる。

 シックによる体質変化か。

 おそらく肌がなんらかの金属にでもなるんだろう。

 秋山が臨戦態勢にはいるなか、いまだに原はこちらをみたまま動かない。

 チャンスだ、一対一のプライドみたいなもんだろう。

 馬鹿なやつらだ、お前らにそんなことをしている余裕はないんだよ。

 秋山が突進の体制にはいると原がようやく口を開く。


「おい、お前さっき言ったこと謝ってボコられてた方がいいぞ、秋山はその体格から繰り出されるタックルが強すぎて【武田の猛牛】っていわれてるほどの男だ、今なら腕一本で許してやる」


「牛?じゃあお前はそれを操る闘牛士だったりするのか?」


 良心のつもりか忠告をしてくる原に軽口をたたく。


「てめぇ、その余裕、骨ごとバキバキにしてやるよ!」


 それを聞いた秋山が激昂し突進してくる。


 ゴオッッ


 すごい勢いの突進だ、ただでさえでかいからだがさらに大きく見える。

 確かにこんな巨体に正面からあたるのはトラックにひかれにいくようなものだ。

 横に避けても方向を曲げられぶつけれるだろう。


 だがそのタックルにも当然弱点が存在する。


 秋山に向かい同じく走り出す。


「これならどうかな」


 ズサッッ


 向かってくるタックルに対し秋山の足を狙いスライディングする。


「?!」


 秋山は重心のある足を払われその勢いで壁に頭からぶつかる。




 ドゴォンッ




 秋山は倒れたまま動かない、頭をぶつけたダメージで気絶したのだろう。


「まずは一人目」


 ボキッ


 伸びている秋山の腕を反対に曲げる。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 秋山は飛び起き、自分の腕がありえない方向に向いているのに泣き叫ぶ。


「まったくだから六組どまりなんだ」


 原がやれやれと前に出てくる。


「お前喧嘩慣れしてるな」


 当たり前だろ、俺が何度お前らペーシェントのクズと戦ってきたか。


「だがおれにとってもお前みたいなやつははじめてじゃない、俺は」


「強い奴みたいなオーラ出してるとこ悪いけど早くきてくんないかな?」


 対面する原の話を遮り挑発する。


「一人やったくらいで調子ずくなよ」


 原は刀をだし、向かってくる。

 刀から嫌な気を感じる、おそらく斬ったものに効果を付与するシック、そもそもあの刀は模造刀か、真剣か。


 まぁ、どうでもいいか。


 あたらなきゃ関係ねぇ!




 ヒュンッッ


 原の刀が空を斬る。


「あっぶな」


「逃げるなよ」


 少ない動きで刀を振ってくる。

 下がりながら避けるも隙が少なく、反撃するタイミングが見当たらない。

 原もそれをわかっての攻撃だろう。


 だったら・・・


 バキッ


 机の足をとり棒状の武器にする。


「そんなもので俺の刀に対抗できると思ってるとはおめでたい頭だ」


「さぁ、おめでたい頭はどっちかな」


「当然お前のほうだ!」


 ブンッッッ


 さっきと同じ距離間で上から下に向け、比較的大振りな一撃を打ってくる。


 紙一重でよけ、机の棒で原を突く。


 棒は原の刀と根元で交差し、原の体には届かない


 シュッ


「どこをついているんだ?」


 原は馬鹿にしたような顔で笑う。


「わかってないなお前、今お前両手使えないんだぜ?」


「は?」


 俺が踏み込むと原はようやく自分に起こっている自体に気づいたようだ。

 刀が俺の片手で持つ棒に上から抑えられて上にあげられなくなっている。


「しまっ」


 グググッ


 原は急いで刀を上げようとするが上がらない。


「動かせるわけねえだろ、お前の両手の腕力より俺の片手の腕力のほうが上なんだからなぁ!」


 ボゴォッッ


 左の顔面に向けたストレートがクリーンヒットする。


「がっ、視界が、揺れる...」


 原はふらふらと引き体制を立て直そうとする。

 今原は脳が揺れ視界が朦朧としている、やるなら今だ。

 すかさず追撃に入る。


「ぎたぎたにしたやるよ」


 一気に俺の射程圏内まで踏み込む。


「たまたま一発入れただけで調子にのったな、近づきすぎだ!」


 原は向かってくる俺に横に一閃、刀を大振りする。


「やばっ」


 ブンッッッ


「なんちゃて」


 原の刀は盛大に空を斬る。

 胴体を限界までそらして避けたのだ。


「なっ、なぜ避けれた・・!しっかり避けれない場所を狙ったはず・・・!」


「視界が揺れてんのにしっかりねらえるわけねぇだろ」


「そんなこの俺が・・・」


 原は肘をつき、朦朧とする中何とか意識をたもっているようだ。


「じゃあ、お前の腕ももらっとこうか」


 にっこり笑い倒れかけている原の腕を持つ。



 ~真壁視点~


「嘘だろ...」


 あまりの衝撃に呆然する。


「ぐぁぁ...」


 秋山は壁の前で痛そうに自分の腕を抑えている。


「や、やめろ・・・」


 原も今まさに腕を折られようと関節技を決められている。


「お前ら今まで散々折ってきたんだろ?だったらお前らのこれからのためにもやられる側の気持ちってのも体感しといたほうがいいだろ」


 ボキッッ


「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁsぁぁぁぁ!」


 原は痛そうに絶叫している。

 そんな・・・三年の幹部二人が五分足らずで戦闘不能になるなんて...ある、十分四天にも通じる力が!

 なんてやつだ、真田こいつ戦闘力もすさまじいが一番恐ろしいのは人の腕を何の躊躇もなく折れることだ。よくケンカで一番怖い奴は人の顔面を金属バットでフルスイングできるやつとは言うが、こいつはそっち側の人間だ。

 く、狂っている。


「真壁」


 真田が俺に言葉をかける。

 その声は聞いた耳が凍り付きそうなほどに冷ややかに感じた。

 動けない、凍り付いたのは耳じゃない、背筋だ。真田が近づいてくるごとに心臓の鼓動が高鳴るのがわかる。

 やばい、俺まで骨を折る気か。


「ま、まて」



 動け、逃げるんだ、裏切ったんだ、俺に対しては骨をおるだけじゃすまないかもしれない。

 しかし考えることと反対に体は動かない、なんだこれは足がすくんでいるのか。

 こんな感覚は久しぶりだ、怖い。ただひたすらな狂気への恐怖。

 今の俺に真田は悪魔に見える。


 真田が手を近づけてくる。


「うっ」


 ポンッ


 真田は俺の肩に左手を置く。


「大丈夫だよ、別に俺は怒ってない、俺の説明が足りなかったんだ。俺もお前と同じ立場ならそうしたかもしれない」


 緊張が途切れ、胸をなでおろす。

 許されたのか俺は。


「もしこいつらが武田に言ったらどうする気なんだ、いくらお前でも囲まれたら・・・」


 佐山はほかの誰にも聞こえないように耳打ちする。


「大丈夫だよ、こいつらは言えない、プライドの高いこいつらは自分で喧嘩して負けました、助けてくださいなんて言える人間じゃないだろ?別にこいつらは俺が何をしようとしてるか知らないしな」


 確かに、もしみじめに無名の生徒に負けたなんて周りにばれたらこいつらは武田家の幹部から外されるだろう。


「これをみても俺の言ったことがまだ馬鹿なことに感じるか?」


 教室のほうに右手を広げ、もう一度教室の様子を見せつけられる。

 十八の男二人が地べたで泣き目になりながら痛そうに唸りながら這いずっている。

 ここまで強いのかこいつは。


「それにさ、俺もお前の妹のこと大事にしたいんだよ」


 そういった真田の顔は笑っているが目は全く笑っていない。

 この真田の発言にそこはかとない悪意を感じる。

 脅しのつもりかこいつ・・・

 真田は悪を倒す正義のヒーローなんかじゃない、悪を倒す悪、しゃべっていた時に感じていた既視感は武田だ。真田は武田達と同類・・・!


「もう一度言うぜ」


 真田は顔を近づけ耳打ちする。


「武田達を裏切れ」


 こりゃ面白れぇ、今までずっと退屈だった、武田達に頭を下げ、やることは弱い者いじめ。糞見たいな鬱憤がずっとたまってた。だがどうしようもなかった、抵抗しようにも武田達はあまりに強すぎた・こいつの話を最初聞いたときも馬鹿な話だと思ってた。だが今日見てわかった、こいつとなら武田家をぶっ潰せるかもしれない。

 当然簡単な道じゃない、だがこのまま何もなく退屈に生きていくなら、こっちについた方が楽しいに決まってる。

 体がしびれて熱くなっていく。


「ははは、じゃあやるしかねえなぁ」


 俺は半ば強迫のように感じられるこの悪魔の提案に改めてのることにした。


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