おてんばな子だね

「また変なのが来たじゃん...」


 立花と井上の前に割って入った俺を見た、立花は俺を見た後ため息をついて頭を抱え、井上は苦笑いしている。


「おいおい、変なのとは失礼だね、俺は海嶺学園最強の男」


「ふーん」


 ノリでだいぶ誇張した発言をしたが立花は興味なさそうに返事をする。


「で、あんたは敵なの?そうじゃないならどいてたほうがいいよ」


 なんか言い方ムカつくな、真壁の気持ちがわかった気がする。


「オラァ!」


 そう言うと唐突に真壁は走り出し、前に立っていた井上を押しのけ、不意を突かれた井上は転んでしまう。真壁は怒りで完全に暴走しているようでものすごい剣幕で突進してくる。


「お嬢!」


「次から次へとでてきやがって、まずはお前からだ!」


 真壁は立花を自分の殴りの射程距離まで距離を縮め、右腕を振り上げる。


「やばっ」


 立花は井上がきた時点で、木刀をギターケースの中に収めてしまっており、急いで取り出そうとするがあれじゃ間に合わない。俺は瞬時に立花を守る形で前に立ちボクシングフォームをとった。


「どけぇ!」


 ボゴォッ


 瞬時に真壁の振り下ろした右ストレートと俺の腕が交差する。真壁のこぶしははずれ、俺の左フックが真壁の顎に当たる。クロスカウンターをきれいなまでに成功させたのだ、俺のクロスカウンターを受けた真壁はゆっくり倒れそのまま失神した。一発で自分よりでかく猛者と名高い男を倒した、それを見て立花と井上は目をまるくしている。


「大丈夫かい」


 俺は予定通り優しい声にキメ顔で彼女に語り掛ける。


「馬鹿みたい」


「はぁ!?」


 助けてもらってでた言葉がそれぇ!?卜伝さんお孫さんの教育がなってないですよ!?

 つい声を荒げてしまった、自分の半分しか生きてなさそうな子に煽られ少し腹が立つが俺は大人だ、大きく息を吸い、なんとか溜飲を下げる。


「すす、すまない、でもありがとう。これで剣修会に間に合いそうだ、ほらお嬢もお礼をいって」


 急いで立ち上がった井上が俺の前に立ち申し訳なさそうに頭をさげる。


「ええと、紹介がまだだったね、自分は海嶺高校3年の生徒会副会長、井上統也。こちらは【剣聖】のお孫さんの立花唯さん。」


 生徒会の副会長だったのか、どおりで真面目そうな顔してるわ。


「俺は三年の真田勇気ってもんだ。それでその剣修会ってのはなんなの?」


「剣修会というのは、半年に一度行われる卜伝先生自ら催す次元流での大会みたいなものだよ」


 井上は倒れた真壁をみて、頭を抱える。


「こいつよく見たら真壁じゃないか、しかし武田達がお嬢にまで手をつけてくるなんて...」


 推測通り彼には悩みの種が多いようだ。


「【剣聖】のお孫さんだったんですね、少ししか見ていませんがすごい念力です、あそこまで細かくできるペーシェントはそうそういませんよ」


「お嬢は昔からその念力のうまさで10年に1度の逸材と呼ばれてましたからね、本当にすごい人なんですよ、きっとこれからも上に立つ人間になるでしょう」


 立花は褒められているのにそこまでうれしくはなさそうだ、考えるに褒められなれてしまっていると見える。

 俺は白々しく演技を続ける。


「その剣修会、見物できる?」


 この剣修会に殺すべき卜伝がくるなら最悪そこで殺ってもいい、偵察だけでも重要な情報が得られそうだ、行く価値はあるはずだ。面識はあるが年もたって顔も変わっているし、相手は老人だ、覚えているわけがない。


「ええ、是非、もしなんなら君も道場に入らないか?君ほどの運動神経の持ち主ならきっとすごい剣豪になれる!」


 俺の手を取り、食い気味に俺を次元流道場に勧誘してくる。


「俺なんてそんなたいそうなものじゃないですよ、はは」


 俺は手を払い丁重に断りを入れた。


「びびってんの?」


「はぁ!?」


 立花は笑いながらおちょくってくる、それにまた声を荒げてしまった。落ち着け俺、あくまで俺はこいつと仲良くして仲間にさそわなきゃいけないんだ、イケメンキャラを忘れるな、子供の言うことだそこまでマジになるなんて俺らしくねえ。深呼吸だ、深呼吸。


「はは、おてんばな子だね」


 怒りをこらえ何とかひきつった笑いをみせ余裕のある大人の対応をする。


「ふーん」


 立花はつまらなそうに返答する。一体俺に何を期待しているんだこの女。


「時間もないようですし、お先にいっててください、僕はこの気絶する男をここに放置するわけにはいかないので目が覚めるまで介抱しておきます。」


「なにからなにまで申し訳ない、それじゃお嬢行きますよ」


「はぁ」


 立花は嫌々ついていくという感じで剣修会に行きたくないようだ。さっきの井上の発言から見るにもよくさぼっているのがわかる。去っていく立花に彼女にしか伝わらない小声で言った。


「いやなら行かなきゃいいじゃん」


「・・・それができたらよかったね」


 彼女は一旦止まり振り向くがすぐ行ってしまった。彼女には彼女なりの理由があるらしい。


「おい、起きろよ、よくパンチ合わせてくれたな」


 井上と立花が視界から消えたのを確認し数分たった後、倒れている真壁を足でつついた。


「起きてるよ、お前いくら何でも顎はねえだろ...まだ頭がガンガン揺れるぜ」


 真壁は頭を押さえながら起き上がる。


「悪かったって、でもお前の演技完璧だったぜ」


「しっかり殴られた分の成果はでたか?」


「作戦としては失敗だったな、まったく心に響いてなさそうだし」


 しかし彼女の最後の言葉といいひっかかる。あの彼女の悩みを知れれば彼女を仲間に入れることができる鍵がつかめるかもしれない。


「すまねえな、あの女想像以上の強さだ、俺がもっと追い込んでればもっといい演出にできたんだろうが」


「まあいいさ、俺も簡単に誘えるとは思ってないし、本格的な勧誘はまたあとでにしよう」


 俺は綾瀬からもらった資料に書いてあったその道場にその足を向けた。

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