ただのよくいるのかわいい女の子ですよ

 


「うっ・・・」


 本気を出したせいか、頭が揺れ、全身がだんだん痛くなってくる。筋肉痛に疲労に眩暈、立っているのがやっと、最悪の気分だな。

 やはり今本気をだしたら30秒も持たずに何もできなくなってしまうようだ。


「大丈夫ですか?玄関の前ではなんですしタクシーで近くのファミレスにでもいきましょうか」


 この人ニワトリ?さっき自分のしたこと忘れてるよね、それよりこのぶちこわされたドアどうにかしろよ。


「ニコニコしながらいってくれてるけど、俺の家のドアと窓どうしてくれるの?弁償は?弁償は?」


「話を聞いてくれたらしますよ、お金もなさそうですしおごってもいいですよ」


 本当か?おそらく10万円以上かかるが見た目大学生ほどの女の子に払えるのだろうか、でももう争いごとは面倒だ。俺は適当に話をきいて大量に飯をくって弁償金とともに払わせてやることを目標にファミレスについていくことにした。

 俺の胃袋をなめたことがお前の敗因だ。



 ~ファミレス~



「話す前にそんな食べないでくださいよ・・・」


 うん、うまい濃厚無双ラーメン海苔トッピング、麺は圧倒的存在感を放っている。


「はあ、しっかり話を聞いてくださいよ」


 そういうと彼女は机をのり出て俺の顔に顔を近づけてきた。キスしそうな距離だ。

 えええ、いきなりキス?!やばい俺もしかして今日卒業できる?!貞操の危機―-

 俺が麺をすすりながら固まっていると彼女はすぐ体を戻し、クスッと笑った。


「何をそんなにびっくりしているんですか?」


 笑いながら彼女は俺をからかう。

 この女俺のドアどころか俺の心まで射抜く気だ。恐ろしい。


「ようやく手を止めてくれましたね。話を始めます」


 彼女はこほんと咳ばらいをしてから話始めた。

 俺の乙女心をもてあそびやがって...


「まずは自己紹介から、私はBREAKERSの一員の綾瀬逢といいます、ご存じかと思いますが今現在ほとんどのペーシェントは集められています。シックに対する迫害の保護、機密保持いろんな名目がありますが、そのため作られた政府公認のシック専用の都市それがシックワールドです」


「ああ、しっているさ、よく」


 楽しさも悲しみも強さもすべてを得てすべてを失った場所だ。


「25年前創設され、ペーシェントの独裁にしないように、そこを統治するのは代々ペーシェントじゃないものでしたがここ5年ほど中の情報が曖昧になっており、いやなうわさもたってます」


「例えば?」


「シックによる世界征服とかですかね」


「プッ、アハハハハハハハハハ」


 つい笑ってしまった、あまりに突飛すぎる。同じ日本人同士で戦争なんてするものかよ。


「笑っちゃいますよね、我々もまさかとは思いながら調査に人を派遣しました。結果は、、、」


「結果は?」


「全くの無問題とのことでした。」


「は?」


 意味が分からない、これでこの話終わりではないだろうか。


「そう、異常なほど問題がないとの報告だったのです。まるでそう操作されているみたいに」


「おいおい、本気で言ってんのか?」


 その綾瀬の言い方からはかなり確信に近いものを感じた。


「シックの研究は日々続けられていますがいまだに解明されてないことが多いです、貴方には危険分子と思われる過激なペーシェント勢力をたおしてもらいたんです」


「ふーん、それでなんで俺なの?俺もうほとんど使のあんたらもわかってんでしょ?今の俺はただのシックに詳しいひ弱なアラサー、しかもあの町にはもう戻りたくないし、戻れない。追放されたし、あんたもペーシェントなんだろ、あんたが行けばいいじゃん」


「そこを見込んでお願いしています。私だけではだめな理由があるんです、ペーシェントでなければあの町に入っても怪しまれるですし、シックについてよく知っている元最強ペーシェント。調査員としてあなたほどの適任はいませんよ、サポートなら全力でしますよ」


「ケッ、あの町での嫌われ者がこっちでは必要とされるなんて皮肉なもんだ」


 爪楊枝を咥えながら悪態をつく。


「あの町の上層部や大多数の民衆には嫌われているかもしれませんがあなたはあの中では一部ヒーローという人もいたんですよ。かっこいい、また帰ってきてほしいって人が、報酬だって一生困らないお金だって出すとのことです」


「別に、もう恨み切って思い起こすこともないさ、なにより俺に失敗をおしえてくれたとこでもあるからなむしろ感謝しているさ、殺さずに追放処分にしてくれただけな。俺がヒーローなんて笑わせるね、自己満足のために力を暴れさせてただけだよ、戻りたいなんてやっぱり思えない、俺のシックの知識だって5年前にとまったままだ」


 綾瀬の誘いを断ると綾瀬は机の向こう側から身を乗り出し俺の手を取りうるうるとした上目遣いを向けてくる。


「ダメ・・ですか・・・?」


「うっ、ダメ・・・ダメだ」


 その可愛げな表情に心揺れるもなんとか持ち直す。


「悔しくないんですか?身を粉にしてあの町に尽くしたというのに、用が済んだと思ったらとかげのしっぽのように切られて」


 悔しいよ、あの大事件も、あの内部抗争も、超能力事件の大きな問題を解決したのはほとんど俺だ、戻れるなら戻ってやり直したい、俺を裏切ったやつに復讐だってしてやりたい。でももう過去には戻れない。


「・・ああ、はい!この話終わり!濃厚無双ラーメンうまかったわ、うまいもん食わせてくれてありがとうな、じゃ!」


 逃げるように席を立ち帰ろうとする、俺をこんなかわいい子が頼ってくれているのは素直にうれしいでもそれ以上に昔の話は俺には耳が痛かったんだ。復讐なんてどうせ無理だ、あの時の力はもうない。

 そのまま俺が後ろを振り向き帰ろうとした時だった。




「桜さんを取り戻せるとしても?」




 綾瀬の一言に立ち止まる。


「・・・」


 俺の心の隅に追いやっていた記憶。

 綾瀬の言葉はその記憶を無理やり引き出してきた。




 ~~10年前~~



「君ならなれるよ!ヒーローに!」


 彼女は横から大きな声で目を光らせながら俺に言ってくる。


「うるさい。俺は自分でクズってのをわかってる、だが俺はそれでいいとも思っている、なぜなら俺は楽しいからな。そんなことを思っている人間がヒーローになんてなれるわけないだろ」


 顔を近づけてくる彼女から顔を引く。

 相変わらず、面倒くさい女だ。


「いいじゃん!クズなヒーローでも、たとえどれだけ嫌われてても人を助けられるならヒーローだよ!」



「ああ、そう」


 興味なさそうに彼女の言葉を鼻で笑う。




 ~~~





 昔の記憶だ。俺のせいで死んだある女の子との。

 その記憶を思い出すと心と頭の奥がズキズキと痛む。


「我々は事前の調査によってあなたについてよく知っています」


 そういうと彼女はまっすぐな瞳で見つめてくる。


「・・・今の俺をみてもらったらわかると思うが今の俺には昔のような力はないぞ」


 でももし、もしもう一度彼女と会うことが叶うのなら。


「大丈夫です、先ほどの力があるのならそこから力を授けれます、取り戻しましょう、一緒に」


 もう一度だけ人を信じてみたい、もうこのまま漠然と心の穴を感じながら生きるのは嫌だ。


「お前何者なんだよ、身分用意したり大金持ってたりして」


「ただのよくいるかわいい女の子ですよ」


 俺はこのとき、この言葉を待っていたのもしれない。

 小悪魔的笑い方をする彼女の依頼を俺は。

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