第7話 封印されし邪神龍(偽)-2

 ウチはリン何とかじゃない、聖なる水を司る水龍だ!!!


怒りがこみあげてくる。


邪神龍と言う言葉には過剰に反応してしまい感情の制御が利かない。


体中が熱い。


この娘に他意は無い事は頭で解っていてもそれでも心が納得できない。


ウチは岡部の両肩を掴むとガクガクと揺らす。


「いいか、龍はなぁ。争いを好まない。すべての命を慈しむ。安寧と静謐を愛する。何故かわかるか。それはなぁ。すべてを超越する力を持つからだ。力を持つものは力なき者のためにその力を使う。それが龍族なんだ。それなのにあの糞人間どもは己達が貪ってきた全ての命の、その源たる魔石の力をウチの封印のために使い果たして、この星中の命を滅ぼしてしまったんだよぉ」


ああ、体中に魔力が駆け巡る。


左腕が、左眼が熱い。


岡部が目を見開いて涙目になりながら恍惚とした表情を浮かべてる。


あれ?ウチの左腕光ってない?


プチッ


あれ?眼帯のひもが外れた。


岡部の顔に何か光が当たってない?


なんで?ウチの眼が光ってるの?


ウチの両腕通って岡部にナンか出てるし。


岡部の眼がさらに見開かれる。


アレ?岡部の眼もナンか光ってない、って言うかウチも岡部も全身ボンヤリと光っているような。


「聖龍様ー。一生ついて行きますぅー」


岡部がウチにしがみついてきた。


アワワワワ、ウチやっちゃいましたかねえ。


ウチ、岡部にヤラカシテしてしまいましたよー。




「聖龍様、僕に真名を授けてくださいまし」


岡部が両手を床について、それでも顔は上げたまま、ウチの左目を凝視しつつ宣う。


「真名ってアンタ。龍に名前はないって言ったじゃん」


「岡部さん。あなたには安奈っていう名前があるじゃない」


「それは僕の仮の親がつけた呼び名で…」


それを遮って龍崎が話を続ける。


「でもアンナって名前は、ヘブライ語で恩恵や恵みを意味する言葉から来てるそうよ」


「そっ、それなら良い名前じゃん。龍族はすべての命に恵みを与えるんだよ」


「でっ、でも」


「ほら、あれじゃん。アンタの両親がホラ、アンタの前世の真名? とかに導かれて付けたんじゃねぇ?」


「そうか、そうですよねえ聖龍様。これからは僕の事をアンナとお呼びください」




「判った、判ったから。だから聖龍様呼びは止めよっか。ねえ」


「良いんじゃないの安藤。聖龍様ってかっこいいじゃないの」


「コロスゾ龍崎」


「では、何とお呼びすればよいのでしょう」


「だからウチもアンタの事をアンナって呼ぶから、うちの事はリオって呼んで」


「判りました。リオ様」


「様はつけなくていいから、リオでいいから。それから敬語もヤメテ」


「でもそれでは恐れ多い」


「恐れ多くない。お願いリオって呼んで」


「ハッ、ハイ。リオ……」


「ナニ照れてるし、顔赤くしてんじゃないし」


「岡部さん、可愛いよ」


「オイ、龍崎。何スマホいじってんの」


「エッ、今日の記念に動画を撮ってただけで…」


「ナンで撮るし、すぐに消せよ。って言うかいつから撮ってたし。今すぐ消せよ」


「岡部さん、記念動画送るからラ○ンのアカウント教えて」


「ありがとう、龍崎さん。記念にするね」


「じゃあ、3人でグループラ○ン作ろうか。岡部さんには安藤の携帯番号も送るね」


「龍崎、アンタ ナニ人の個人情報流しまくってるのよ」




「大丈夫だって、安藤。今日の写メは絶対に誰にも拡散しないって。動画も私と岡部さんだけの秘密の記念動画にするって。絶対に他のグループラ○ンにアップしたりしないって。わたし達の秘密だものTik〇okなんて以ての外だよ」


「嘘だー。絶対嘘だー」




「そんなことないよ。操作ミスもしないから。安藤はこれから岡部さんのお友達としてずっと仲良くしてくれるよねえ。だから操作ミスも拡散も絶対しないって。約束(^ε^)-☆Chu!!」


「信じられない。骨までしゃぶる尽くされる」


「本当に大丈夫だって。これ以上過剰な要求はしないよ。だから岡部さんの事はお願い。あんたに任せるから。岡部さんもそれで良いよねえ」


「うん、今日の事は三人の一生の秘密の誓いだよ。誰にも知らせない僕たちだけの秘密さ」


「龍崎は一切信用できねえ」


「あら、ずいぶんな言われようね」


「アンナー、あんたは心の友だよー」


「光栄です! リッリオ!」


「ねえ、その心の友のアンナに提案」


「ヒャ、ヒャイ」


「学校出ておいでよ。授業判らなかったらウチのノートでも龍崎のノートでもラ○ンで送るし。アンタが嫌なら無理にとは言わないけど、来週から出ておいでよ」


「ウン、リオが言うなら行く」


「じゃあ、今日帰ったら月曜日の宿題と授業のノート送るから。グループラインで龍崎が」


「あんた、何私に全部押し付けた上に、シレッと便乗しようとしてるのよ」


「どうする。これからお茶しに行かない。ランチでも良いし。龍崎のおごりで」


「なんで、私が払うことになってるの」


「イヤなの?」


「マア良いけど」


「それじゃあアンナ。行こうよ。用意しなよ」


「ウン」




アンナはおずおずと頷くと黒いオータムコートを羽織りボストンタイプの真っ黒なサングラスをかける。


黒いハンチングを目深にかぶるとウチらを見た。


「せ、制服の方が良いのかなぁ」


「大丈夫、アンナよく似合ってるよ」


「あんたもサングラスやコートやキャップ、良く似合ってたわよ」


「ウルサイダマレ」


「り、リオもこんな格好をするんだ」


アンナが嬉しそうに言った。


「あのさぁ、違うんだ。龍崎が脅すからもうしないから」


「そーなんだ」


「あんたがやるなら私は止めないよ」


「ウルサイダマレ」


ウチは眼帯のひもを結びなおして3人そろって岡部家を出た。

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