第7話 わくわくショッピング

 俺と姉ちゃんは自転車で30分ほど走った所にあるショッピングモールに来ていた。広がったお店はおもちゃの街みたいでとてもわくわくする。

 と言っても、俺はゲーセンに行くか猫のおやつを買い込みにペットショップに行くか、母さんの荷物持ちとしてついていくくらいしか来たことない。


 それが今日はどうだ。


 一生懸命貯めたお金を握りしめて、服屋のマネキンを目で追ってしまう。


「キョロキョロしない!」


 姉に怒られて、俺は深呼吸して気持ちを落ち着けた。


「あんた、私のことをスケープゴートにしようってのに、自分から挙動不審にならないでくれる?」


「悪い、で……スケープゴートってなに」


 謝って、しかし疑問を口にすると姉は高校合格記念で購入したキラキラしたイヤリングを苛立ちまぎれに指で触った。

 何かかっこいい言葉だな、とは思ったけどよく分からない。


 姉はため息を吐いて、


「本読みなさいよ、ラノベでいいから。生贄とか身代わりとかってニュアンス、説明させないでよ」


「贖罪(しょくざい)の羊って言われて分かるわけないだろ」


「面倒なやつ……、徹くんとは大違いね」


 ふん、と鼻で笑い俺をバカにしたように見る。なめないで欲しい。そういう視線は千代で慣れている。

 俺は喧嘩を買わずに、姉に「早く行こう」と返事をした。

 あいつは俺を見る視線は基本的に小ばかにしてくるからな。


 それに姉と幼馴染ののろけは聞きたくない。嫉妬ではない。親のあれこれの話を聞きたくないのと同じ気持ちだ。テレビでエロいシーンが流れている時と同じ気まずさがある。


 姉とのショッピングは案外、順調だった。安いコスメをドラックストアで購入、お金を渡して買ってもらう。

 日焼け止めや化粧水なんかも必要らしい。メイク落としは少し高いものを購入。俺だけだったらファンデーションとアイメイクのいくつかを購入するだけだったろう。

 最近の安いコスメの中ではハトムギってやつがおすすめって言われた。


 服も試着はさすがに出来なかったけど、いくつか組み合わせてコーディネートしてもらった。だぶっとしたパーカーを買っておけば、合わせるTシャツは元々持っているもので良い。ダンスっぽくてスポーティなイメージだ。


 俺だけだったらワンピースを買って終わりだった。さすが女子高生だ。初めて姉を尊敬した。


 無事に何着か購入して、家に帰っている途中に姉は、


「そういえば、あんたの趣味は薄々知ってたしおかげで徹くんとつき合えたからバラすつもりはないけど」


「それは、ありがとさん」


「コメントって来ただけでそんなにテンションって上がるもんなの? 化粧品とか買っちゃうくらいに」


 土下座しちゃうくらいにはテンション上がってるの知ってるくせに何言ってんだ。


「仏壇よりもコメントに向かって拝む回数の方が多いね」


「誹謗中傷とか来たらどうすんのよ」


「そんなん来るほど見てないし、それに、そういうのは心の中でお焚き上げしとく」


「ふぅん、そんなもんなんだ」


「俺はほぼ再生回数がないってのも大きいよ。そういうのがいっぱい来たらさすがにコメ欄閉鎖するわ」


「うちのクラスにもメイク配信してる子がいるんだけど、めちゃくちゃメンタルやられてたから心配なんだよね」


「再生回数が二桁ある奴と俺を一緒にしないでほしいね! 状況も環境も違うんだから俺に言われたってどうしようもないよ。でもさ、配信までして完成って俺は思ってるし、やめろって言われてもやめれないんだよな」


 これから筋肉がついて、似合わなくなったらさすがに女装は辞めるけど、でも踊ってみたは辞めるつもりはないし。辞められるもんでもない。

 ただ、反響ってものが無さ過ぎて通知が来てるのを見ると震えるから、そこらへんは今後なんとかしたいな、と思っている。


 家についた後、俺はすぐに部屋に向かった。押し入れに買ったものを詰め込んで素知らぬ顔で居間でテレビを見る。

 完全犯罪成立――親にバレずに、服も化粧品も買えた。


 そんな俺を千代がじっと見てニヤニヤしていた。

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