第2話 どうやらガチらしい

 俺は一年前に株式投資を始めた。株式投資と聞くと危ないとか、いろいろとマイナスなイメージがあると思う。


 それも間違ってない。特にデイトレードで稼ぐにはかなりのリスクが掛かるだろう。デイトレードとは数分から数時間くらいで株の売買を繰り返し利益を得るやり方。初心者が迂闊に手を出すと大損しかねない。


 しかし、俺は別に株で大儲けをしようとは考えていない。


 ただ自分の好きな企業の応援をしたかっただけ。その応援の方法がたまたまこうして株だった。それだけだ。


 そしてその会社は株主優待をやっていて、今日がその優待の到着日だったんだが……


 株主優待とは投資先企業の商品やサービスを無料で貰えたり、商品券が貰えたりするシステムだ。これを楽しみに株をする人も多いという。


「どうして藤本さんがいるの……?」


 そう俺が尋ねると不思議そうに首を傾け、藤本さんは口を開く。


「だから、株主優待で杠葉くんのお嫁さんになったからだよ」


 さっきと全く同じ説明が返ってきた。うん違う。俺はそんな説明が欲しいわけじゃない。なんで藤本さんが株主優待なんだとかそ、その……俺のお嫁さんなんだとか……


 あぁ、意識したら心臓がバクバクなってきた。可愛い子、それも少し意識していた女の子にお嫁さんだと言われると冗談だと分かっていても心が高鳴ってしまうのだ。


「何かのドッキリ? これ、今年の文化祭か何かで流されるの?」


 しかし、いつまでもそんな夢を見てもいられない。全校生徒の前で恥をかかされるのも嫌だし、逆にこっちから暴いてやる。


 それにしても今日が俺の優待が来る日だなんてよく知っていたな。誰にも言った覚えはないのに。


「え? ドッキリじゃないよ。私は正真正銘杠葉くんのお嫁さん。分かってくれた?」


「全然、全く分からない。特に藤本さんが俺のお嫁さんってところ辺りが」


 玄関で何をしているのだろうと少し思ってしまったが、さっさと決着をつけるためだ仕方ない。


「あら、真夏お帰りなさい。そんなところで何しているの?」


 ここで母さんが俺たちの会話に気がついたのか、お玉を持って玄関までやってきた。それと同時にいい匂いがして今日の晩御飯がわかった。カレーだな。


「いや、何で悠長にカレー作ってるのさ。知らない人を家に上げたらダメだろ?」


「あら、知らない人だなんて他人行儀なこと言わないの。この子は真夏の許嫁なんだから」


 そう言うと母さんはカレーが焦げちゃう〜とまたキッチンへ戻って行ってしまう。でもとんでもない発言をしたぞ。俺の許嫁って……母さんまで何を言っているんだ。


「詳しくは部屋で話すから、とりあえず上がっておいでよ」


 もはや藤本さんの家と思ってしまうほどの堂々とした態度。俺が間違ってお邪魔しますと言ってしまったぜ。


 リビングで話を聞いても良かったのだが、母さんがまた余計なことを言いそうだったので俺の部屋に案内することにした。


 こういうことが起こることを予想していたわけではないけれど、ちゃんと片付けておいて良かった。


 二階の自分の部屋の扉を開ける。そこは見慣れた部屋の風景。ただ何故か俺の部屋に見覚えのないものが。それは五箱の大きな段ボール。


「なんだこれ。何も注文した覚えはないんだけど」


 俺の部屋の雰囲気をぶち壊しにしているこれはなんなんだ。そう思っていると藤本さんが得意げに段ボールに手を置いた。


「ふふん。これは私の嫁入り道具です」


 この段ボールの量を見る限り、どうやらガチらしい……





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