第3話 自称《守護霊》、本性をあらわす

 夕方、いつもの時間に帰ったが、同居人しゅごれいの出迎えはなかった。

 昨日の今日だし、飛んで出てくるかと思ったが、おかしい。そっと居間を覗いてみると、なにやら一生懸命研究している同居人の姿があった。


「おかえり、コーキ」


 足音立てずにそっと近づいたのにもかかわらず、《守護霊》はそうのたまう。


「気づいていたのか」


 心の中だけでチッと舌打ちしながら返すが、軽く頷いた《守護霊》にお前はそうだったなと諦めた。


「昼はどうしたんだ?」


 そういえば朝、パソコンをねだったのに、昼食はねだらなかったから、どうしたんだろうと思って尋ねると、食べたよという。


「Amagonで注文した」

「まさかたったの三十分でお届けってやつか」

「うん、プライム会員だから、使い放題。十年来のお得意様です」


 偉そうに言う《守護霊》。《守護霊》も俗物的な通販サイト・Amagonを使うんだ――って違うか。本人はすでにその設定を崩しつつあるし。しかし、プライム会員を十年間って、かなり値が張るんじゃなかったっけ。月額二千円はくだらなかったはずだぞ。

 少し自称守護霊との経済格差を感じつつも、昨日と同じく夕ご飯を二人分作り、彼女とともに食べた。


「やっぱり昔から・・・コーキって器用だよね」


 自称守護霊はおかずの豚肉と野菜の炒めものを食べながらそう切りだした。


「昔から?」


 一瞬、妙な単語が聞こえたような気がした。《守護霊》はうん、と当たり前のように頷く。


「昔からずっとコーキは器用。パソコンのバックグラウンドの情報を吸いとったり、穴を修繕したりって。だから私、コーキに憧れて、コーキを目指して、パソコンの勉強したけど、結局、できたのは引きこもり」


 コーキみたいに得意のパソコン使って社会に貢献なんて、できてない。

《守護霊》はフードの耳をしょんぼり垂れさせて言う。


「だから、社会に出てるし家庭的な部分もできるコーキを困らせたかった」


 彼女の言葉にふざけるなとは言えなかった。彼女の気持ちがよくわかったから。自分自身、ある人に影響を受けてハッキングするようになったけど、それまではただのなにもできない男だったから。たまたまその人がいなかったら、俺は……――。


「ねぇ、藍田コーキくん。私を覚えているかい?」


《守護霊》の呼びかけにうん、と頷いた。ようやく猫のように人懐っこい彼女の名前を思いだした。ついでに彼女といつものように繰りかえしたやりとりも、ね。


「ああ。それと、俺の名は藍田光喜みつよしだ、黒根クロネ麻紀さん」

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