第21話 対象が変わっただけ

「お前彼女おらんの?」


「唐突にも程がありませんか」


 近くのカフェに入って早々その質問ですか兄ちゃん。まぁ弟の恋バナとか兄からしたら気になることこの上ないことなんだろうけど。いや、でも兄ちゃん。俺のことノンケとして見てるのか。兄ちゃんホモなのに…。


「いや、でも兄ちゃん…」


「あ、もしかして彼女じゃなくって彼氏の方な感じ?」


「ふぁ!?」


 本当に、兄ちゃんは昔から勘が鋭い。俺の心を完全に読んでいる。俺の悩みを1発で当てたり、俺の全てを知っているかの様な感じだ。


「あーやっぱり、お前もホモかぁ~」


「やっぱりって…知ってたの?」


「今の反応見れば誰でも分かるだろ」


 俺は昔から感情が顔に出やすい。色々バレるのは自分が原因なのかもしれない…。でも隠そうにも無意識で出てしまうから隠しようがない…。


「んで、好きな人はあの狼ですかい?」


「何でそこまで知ってるのさ…」


「だってお前ら仲良かったじゃん。あれが起きるまでは」


「それは…そうだけど」


「んで、その後会社で再開したの?」


「そこまで読めてるのかよ…」


 マジで兄ちゃんはエスパーなのではないか。心理学とか知り尽くしてそう。その勘の鋭さは見習いたいものがあるな。


「まぁ、取り敢えず話、聞かせてよ。まさか結構発展しちゃってたりする…?」


 兄ちゃんがニヤニヤしながらそう言ってくる。何を期待しているんだろうか。


「…まぁ、兄ちゃんなら話しやすいし、良いよ」






 俺はこれまでの事を洗いざらい話した。俺が蒼哉のことを好きであること。ちょっとアレな事もしちゃったことも。話したら、少しだけ気が楽になった様な気がする。…兄ちゃんは俺が話してる最中ずっとニヤニヤしてたけど。


「あらあら~結構順調じゃないの~」


 兄ちゃんが注文したパフェを片手に笑う。そんなに面白い話なのかな、これ。俺からしたら超絶悩みなことこの上ないんだけどな。


「…まぁでも、やっぱり男が男を好きになって良いのかなってのはずっと考えてるよ」


「ん~でも、好きになってしまったもんは仕方ないんじゃね?」


「そう…なのかな」


「だってさ、好きになる対象が女から男に変わっただけなんだぜ?」


 確かにそれはそうだ。「男が女を好きになる」という言葉が、「男が男を好きになる」と、1文字言葉が置き変わっただけなのだ。ただ、それは文面的な話だけのような気はする。現実や感情の話とは遠く懸け離れている様な気もする。


「というかそもそも、そんなこと言ってたら俺はどうなるのさ」


「え?」


「だって俺、彼氏持ちだぜ?今はその彼氏と仲良くやってるぜ、俺は」


 そう、兄ちゃんは彼氏持ちだ。確か、ドーベルマン獣人だった筈だ。前に写真を見せてもらったことがある。もうそれが何年も前の話だったから、今も恋人関係が続いているということだ。


「そっか…今も仲良くやってるんだ」


「おう、たまにエッチもしてるぜ」


「それは言わんくてもええわ」


「まぁまぁ、それくらい偶にヤる位には仲良くやってるぜ」


「でも、親密なのは良いよね」


「だろ?」


 そっか、世の中に目を向ければ男同士でも仲良くやってる人達もいるんだ。悩んでいる人もいれば幸せにやっている人も居ること。今、それを知った気がする。


「…ありがとう兄ちゃん、なんかスッとしたよ」


「お、目が輝いてきたじゃん、良かった良かった」


「…実を言えばさ、さっきお前と会った時にさ、ハイライト、って言えばいいのかな?それがなかったからさ、ちと心配になってね」


「え…そ、そんな風に見えた?」


「おう。でも今はしっかり目が輝いてるぜ」


 兄ちゃん…そこまで見てたんだ。兄ちゃんはそれに気づいて俺の目の輝きを取り戻そうとしてくれたんだ。…もう兄ちゃんに頭上がんないな、俺。


「あ、兄ちゃん…」


「んあ?」


「パフェ、溶けちゃってるよ…」


「…あ゛」

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