第3話 食い逃げ

幸いなことに自身の持っていた旅行カバンの中には財布が入っていた。だが問題はお金のことがよくわからないということだ。

「えっと…いくらですか」

「350円よ」

おや、てっきり昔の値段のよくわからない一銭とかそう言うので言われるかと思っていたのだが、自分の知っている値段だ。自分がこの時代の人間になったからであろうか。

「あ、はい」

ぱかとがま口の財布を開ければ中身は空っぽ。

「えっ…!?」

お金がないだなんて。無一文から始める異世界生活なのだろうか。というかそもそもここは異世界なのか?

「お金、ないの?」

「ゔっ…」

食い逃げだけはしたくない。したくない、絶対に。

「すみませんすみません!!お金あると思ってたんですけど無くて!」

「食い逃げ?」

「違います!逃げてません!!」 

「ならどうするの」

うぁぁぁぁぁぁこの正論しかぶつけてこないの嫌いだぁ。

だが本当にどうすればいい。どうすれば。

あたふたしているとその女の子は僕の旅行カバンに気がついたらしく、可愛らしく小首をかしげた。

「あら、あなた旅人さん?」

「えっ、と、はい。多分…」

「どこから来たの」

「どこから…どこ…遠いところから…」

「ふぅん。

 これからのご予定は?」

「いや特には…」

その子はそうね…と、ふわりと袴をゆらし、ステンドガラス調の窓を開けた。

「あなた、ここの村の村長にならない?」

「は…?」

「なってくれるなら見逃してあげるわ。ならないのならここから食い逃げよ!って叫ぶけど」

ひどすぎる二択だ…!










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