第5話 タイムリミット

 突然の「次の誕生日までしか待てない」というタイムリミット設定。わたしは驚いてアクダムを見た。

 そんなわたしの表情を愉しむかの様に……アクダムはわたしに語りかける。


「部族の者たちと話しましてな。どうせ碌なスキルでもないでしょうけれど、そんな『スキル』にすら目覚めないりり様を、いつまでも族長にしておくのが問題だと」

「そ、そんな……! 『スキル』は、たまたま目覚めていないだけで、きっともうすぐすごい力が……」

「それにしても遅すぎますな」

 アクダムがわたしの反論を遮って言った。

「いつまでも目覚めないのに、この調子でニート令嬢として、ずっとこの部屋で過ごすつもりですか? あなたのような穀潰しに座られて、玉座も迷惑してます」


 侮辱を続けるアクダム。こんな男に、ニート扱いされるなんて。

 しかし、いつまで経っても「スキル」に目覚めないわたし。言い返せない状況なのも確かだ。「ニート」という言葉が、ぐさりと刺さったのだった。

「……………」

「役立たずスキルなだけでなく、それ以前にスキルに目覚める事さえしないなんて……『ゴブリリ』の歴史上、最低ですな。前の女王の方が、おしっこの色を変えられただけ、まだマシです」

 にやにやと嫌な笑い声を上げながら、アクダムが言った。

「ま、待って下さい! もう少しすれば、きっと……!」

「そう言いながら、目覚める筈だった日から、もうすぐ一年ほど経ちそうですな。これ以上は待てないとの結論になったのですよ」

「……………」


「りり様。部族の決定です。もし、次の誕生日を過ぎても『スキル』に目覚めないのであれば……」

 アクダムは、嬉しそうに笑って言った。

「族長の座は剥奪させていただきます」


「そして」

 アクダムが、にやりとした笑みを浮かべた。

「……その後は、奴隷として過ごしていただきます」

「……………!」

 奴隷、という言葉に、ぎくりとして見上げる。アクダムは、わたしの青ざめた表情を楽しんでいる様だった。

 そして、わたしの身体をじろじろと眺めながら、言葉を続ける。

「あぁ、心配する事はありませんよ。奴隷と言っても、重労働とかはしなくていいのですよ。

 ……私専用として、側で、ずっと大事にして差し上げます。

 私を、愉しませてくれればいいんですよ。……その身体で」

「……っ!」



「……楽しみだなぁ、りり」

 アクダムが、がらりと口調を変えて、わたしに言った。

 そして、にやり、と口元を歪めて、嫌らしい笑みを浮かべる。

「その細い、小さな身体。つやつやした肩と鎖骨。すべすべした脚。

 ……ずっと、舐め回して、味わってやりたいと思っていたんだ」

 鉄格子から首を突っ込んで、わたしの身体を舐める様に眺める。

「その日が来たら、お前の身体を……我慢していた分、隅々まで、じっくりと、たっぷりと……愉しませて貰うぞ」

 絡みつく様な視線を感じて、身体中に悪寒が走る。

「楽しみにしておくことだな」


 高笑いと共に、アクダムが去って行く。

 わたしは恐怖に身体の力が抜けてしまって、呆然とそれを見送ることしかできなかった。



 ……………



 アクダムに突きつけられた言葉。

 突然設けられた、タイムリミット。

 そして、その先にわたしが置かれるであろう、境遇。


 わたしは、呆然として考え込むしかなかった。


 どうしよう。

 ……どうしよう!


 次の誕生日まで、もう、あと少ししかない。


 その時までに「スキル」に目覚めないと。「ゴブリンの神様」に来て貰わないと。

 わたしは、アクダムに……


 わたしは、天を仰ぐ様に上を見たけれど、無機質な天井の地肌しか見えない。

 てのひらを眺めてみたけれど、急に何かの力が沸いてくる事なんてない。そもそも、何か努力すれば「スキル」に目覚めるわけではない。

 やはり……「ゴブリンの神様」に来て貰うしかないのだ。


 それなら、どうして10歳の誕生日はずっと前に過ぎたというのに、来てくれないのだろうか。


「神様」

 わたしは天井を見上げながら、つぶやいた。

「どうして、まだ来てくれないの?」


 本当に、わたしはこのまま「スキル」に目覚めないの?

 このまま、もう何日か経って、「スキル」に目覚めないと、わたしはここから引きずり出されてしまう。そして、あのアクダムの慰み者になって生きていくしかなくなるのだ。

 お願い、神様、助けて……


「お願い、どうか早く来て下さい。わたしに力を授けて下さい」


 祈ってみるけれど、そもそも見たことがない神様だ。

 名前も姿も、何もわからない神様に、どう呼びかければいいのか、なんと祈ればいいのかわからない。

 わからないけれど、一刻も早く来て貰うように祈るしかなかった。

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