戯曲
@anv
第1話
足が、動かない。
目の前で起きていることの現実味がなくて、信じられなくて。
頭がしきりに警鐘を鳴らしている。
あいつを止めろ、
それでも、足は震えるばかりで、前に進んではくれない。
「
「いいなぁ、その顔。苦しいか? 苦しいだろう
なぁ、腹に刀が突き刺さってるんだもんなぁ。で
もまだ死ぬなよ、俺はまだ興奮しきってないからなぁ」
空気を
「なんだよ、刀で一回刺されただけで倒れやがって。おら、起きろよ」
うつ伏せになった
「親友が殺されそうなのに何もできないなんて惨めだなぁ、
体が鉛のように重くなるのを感じる。その目が、声が、姿が恐ろしいのに、目を離せない。
動け……動けよ……。
「体は正直だもんなぁ。どれだけ親しい仲だろうと結局自分が大切なんだよなぁ。そうなんだろ? なあ」
違う、
「くたばってないよなぁ、
グサッと、生々しい音が聞こえたかと思うと、それは一瞬のうちに悲鳴に掻き消された。
「あああああああ!」
「いいねえ、その声! それが聞きたかったんだよ。もっと喚いてくれよ!」
また刀を抜くと、さらに大きな叫び声を上げる。
「次は手首でも切り落とすかぁ。……ん? おい、死んじまったのか? おい」
反応が……ない。嘘だろ……。
「
気づいたらそう叫び、駆け出していた。
瞬間、目にも止まらぬ速さで、駆け出した俺を止めるために
あまりの速さになにも対応することができず、首を掴まれ、体を浮かされる。
「言ったよなぁ、邪魔しようとしたら身動きできなくさせてやるって」
一層手に込める力が強くなり、息ができなくなる。
「ここでおとなしく見ていやがれ」
「死んだふりかもしれねえからなぁ。おい、この手首斬っちまうぞ………ちっ、もう少し遊びたかったんだがな」
そう言うと
「殺したやつの首は取っておきたいんでね、貰ってくぞ」
「やめろ!
その叫び声は届かず、
「……てん……と」
立ち上がり、俺の方へ歩いてくる。
屈み、俺と目線を合わせる。
「絶望にまみれた顔だなぁ。あぁ殺してぇ。今すぐお前も殺したいなぁ。でも、
「『どうして?』って思うよなぁ。ガキの頃から三人仲良かったのにって」
そう言う
「俺はなぁ、人を殺すことが大好きなんだよなぁ。特に、俺に何かしらの強い感情を抱いてる奴を殺したときの快感はたまんねえもんなぁ。さっきの
「………そのために、俺たちを騙したのか?」
「ああそうだぜ。長かったよ、ここまで来るのに。まあ、意外に呆気なく終わらせちまったけどよ」
「てめえ」
「おっと、なんだよ、さっきまでちびってたくせに」
顔面めがけてつき出した拳を、
後ろに飛び
「やめとけ、お前が全力で立ち向かって来たところで敵うわけないぞ」
そのまま殴るかと思われた拳は
しかし、
「殴るんなら相手を吹き飛ばすくらいの強さで殴らねえと反撃されるぞ。こんな風に、なっ!」
腕を離した瞬間、
横腹が一瞬凹むほど、蹴りは深かった。
「これで分かっただろ。今のお前じゃ、俺に傷ひとつつけることはできないんだ。強くなってから、俺を殺しに来い。そん時は本気で殺してやるからよ」
そう言い残すと、
「くそっ……何も…できなかった……」
まだ痛みが残る腹を押さえながら、
ずっと仲間だと思っていた
もう、こんな思いはしたくない。
助けることができたかもしれない人を、助けられない経験は、したくない。
『強くなってから、俺を殺しに来い』
言われなくてもそうしてやる。但し、お前の思い通りにはさせない。
お前が
絶対に、殺してやる。
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