市民体育館?

「あの、、、ちょっと気づいたことがあるんです」


 ハンバーグを食べ終わり、ドリンクバーのオレンジジュースを飲みながら彼女は突然、未来からの写真についてきりだした。


「勘違いでもなんでもいいので、気づいた事は全てシェアーしよう。で、どんなことなの?」

「はい。違ってるかもしれないけど・・・。実は、あの一枚目の写真に映っている貯水槽が、私の学校の屋上にあるものと形や色がとても似ているんです」

「えっ!?学校!?」


 高い所から落ちる・・・。

 これをイメージすれば、やはり工事中のビルや、切りだった崖、または商業高層ビルの展望フロアなど、彼女を背後から突き落としやすい場所という固定概念を持っていた。

 しかし、彼女はまだ高校生だ。シンプルに考えれば、学校の屋上ということにも十分見当がついたはずなのだが、僕は全く予想だにしてなかった。


「屋上か・・・。確かにあり得るよね。だけど、学校の屋上への扉って、通常は鍵がされているんじゃなかったっけ?」

「はい。普通なら絶対に入れないんです。年に一度、屋上を掃除する時があって、その時だけ入れるんですけど。でも、何故か今、鍵が壊れているらしくて、それを知っている人ならば誰でも入れるみたいなんです」

「そうか、、でも、それって、凄く危険じゃない?」

「ええ、実は、、、私、今日友達に誘われてつい屋上に行ってしまったんです」


 彼女は申し訳なさそうに顔を伏せている。


「ごめんなさい。凄く迷惑を掛けているくせにまったく無神経で・・・」

「いや、何事もなかったのであれば良かったよ。でも、気を付けるんだよ。学校の屋上は危険なのかもしれない」


 彼女は、「はい」と頷く。


「で、そこで見たのかい?この貯水槽を?」


 僕は、トートバックの中から一枚目の写真を取り出しテーブルの上に置くと彼女は貯水槽を指さしながらこう言ったのだ。


「はい。やはり、これです。この写真は、今日、私が見た同じ角度から撮られています。絶対にこれです」


 彼女は断言した。

 間違いなくそうなのだろう。だとすれば、彼女が落ちるのは学校の屋上からということか・・・。僕は、両手で目を伏せ頭を集中させる。

 何とか僕自身がこの学校に入り込み、彼女を救うことが出来ないだろうか?

 何度も思いを走らせるも全く良いアイデアが浮かんで来ない。


「あっ。今日も写真は二枚撮れていたんだ。早速見てくれる?」


 僕は、パソコンをトートバックから取り出し、電源を入れる。

「パーン」という起動音が響いた。


「あの、隣に行っても良いですか?写真が見にくいし、、。あと、これらの写真を他の人には見せたくないので・・・」

「あっ、そうだね。ど、どうぞ」


 僕は、慌てて横に置いていたトートバックを引き寄せると足下に転がした。

 彼女は、ゆっくりと立ち上がると、スペースが空いた僕の隣に座る。


 長い髪を細い指先で耳に掛けると、真剣な表情で画面を見つめている。

 とても良い香りがする、、。そして、横顔も可愛いい、、僕の心臓は大きな音を立て動いていた。


「あっ、これって、、、」

「ん?」


 僕は、慌てて我に返る。


「あの、この床は、真結が所属しているバスケットボール部が時々使う市の体育館だと思います」

「え、、どうして、それがわかるの?」

「それは、これです」


 彼女が指さしたのは、窓の形だった。ここの体育館は、窓にステンドグラスを使っているようで、窓枠の形も教会のそれに似ているということだった。


「確かに、そう言われたら、そう見えるね」

「あの、、、市の体育館は、ここから歩いて行ける距離だと思います。そして、確か、夜も二十二時まで、市民に開放していると聞いています」


 何かしら確実な手がかりが欲しかった僕は、一分一秒も無駄にしたくないと思った。


「もし、君さえ良かったら、これからその体育館へ行ってみない?」

「はい。勿論です。行って確かめましょう」


 僕らは、ファミレスを出ると、スマホの地図アプリを見ながら、多くの人が行き交う歩道を肩を寄せ合うようにして向かった。

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