誕生日

「ねえ。来週木曜日は柊二君の誕生日だよね。柊二君のバイトが終わったら、私の部屋で誕生日のお祝いしたいんだけど・・・。どうかな?」


 私は、メッセージを打ち込んだスマホを見つめている。

 今までも、彼とデートした際、必ず私の部屋まで送ってくれるが、未だに部屋の中には入ったことはなかった。だからこそ、勇気を振り絞ってこのメッセージを送ったのだった。


 するとメッセージへの返事ではなく、直接電話が掛かってきた。


「香澄、、メッセージ見たよ。ありがとうな。でさ、ほんといいのか?」

「うん、良かったら是非来てよ。美味しいかどうかわからないけど夕御飯も作るけん」

「うん。ありがとう。楽しみにしてるわ!!」


 電話を切った後もスマホを胸に抱く。柊二君は喜んでくれたようだ。良かった……。


 そして、彼の誕生日の日。

 私は、午前中から部屋の掃除を念入りにして、買い物に行き食材を仕入れ、夕御飯の準備に取りかかった。凝った料理は正直出来ないけど、気持ちを込めて作ろう。



「ピンポーン」


ドアのチャイムが鳴った。

ドアチェーンを付けたままドアを少しだけ開ける。


「お、、おっす」

「あ、、、いらっしゃい」


 二人ともなぜだかとても緊張している。


「どうぞ。狭いけど、、、」

「うん、ありがとう」


 今日の柊二君はいつにも増して格好良く見える。

 私は、胸の鼓動が止まらない。音が聞こえてしまうのではないかとはらはらする。


「あー、香澄ってほんと几帳面だよな〜」


 部屋に入った柊二君は机や本棚、そしてベットなどを見入っている。


「狭いやろ?じろじろ見らんといて。恥ずかしいけん・・・」

「いやいや、、見るでしょ!今日は、僕は招待されたんやしな。そして、なんと言っても誕生日だからな。無敵なんだよね!」


 私は、自分の気持をセーブ出来ず「誕生日おめでとう」と言いながら思わず抱きついてしまった。

 最初は戸惑っていた柊二君も優しく抱きしめてくれる。


「今日の香澄は、いつにもまして甘えん坊やな。ま、、そこが好きなんだけど」

「もう、、」


 そして、二人は唇を重ねる。


 ふと我に返った私は、「えっと、まずそこに座ってて。すぐに御飯の準備するからね」と言いながら、顔を真っ赤にして台所へ向かう。


「楽しみだなぁ。今日は色々と忙しくてお昼抜きだったんだ。お腹ぺこぺこだよ」


 御飯のメニューは、焼き魚と煮物、そして、豚汁という和食にした。洋食系の料理はこれまで二人で色んな店に行ったこともあり、今日はあえて和食にしたのだ。


「う、美味い!!!最高!!」

「ほんとに?嬉しい。良かった。あの、、いつでもいいからまた食べに来てね」

「そんなこと言ったら、ほんとに来るで。しかも、毎日」

「い、いいけど……」


 もう、顔が熱くてたまらない。

 柊二君は本当に不思議な人だ。私をいつも幸せにしてくれる。


「あの、これ、、、誕生日のプレゼント」

「えっ、うそ!!!あ〜〜、これ欲しかったんだよ。なんでわかったん?」


 柊二君が欲しがっていたブランドの黒のリュック。 

 今使っているものがほつれてきていたのを気にしていたから、同じブランドのこのリュックをきっと欲しいんだろうなと思っていたのだ。


「良かった。本当は聞いてから買いたかったんだけど、、。驚かせたかったけん……」

「大事にする!ほんと、ありがとうな」



 柊二君に全力で感謝された私はとても良い気分になり、食器を洗っている。

 その時、柊二君が本棚をじっと見ている姿が目に入った。


「香澄って、ずっと日記書いてるんだ。しかも、これって中学の時からなん?凄いな」


 思わず手に取っしまいそうな柊二君に「絶対駄目やけんね!!見たら駄目!!」と先手を打った私は、急いで食器を片付ける。


 私のこの一年の日記には柊二君のことばかりが書いてある。そして、二十三時に聞こえてくる謎の声をできるだけ一言一句違わないように日記に書いていたのだが、それを見られると私が変な人だと思われるかもしれない。

 未来からの声のことを柊二君に言おうと思うものの、きっと信じてくれないだろうし、逆に私のことを心配するかもしれないと躊躇してしまい未だ言えていない。


 ベットに持たれる形で、二人並んで座っている。そして、出会った時の話などをしていたらあっという間に日付けが変わった。


「誕生日は終わったね。でも、まだお祝いしたい」

「なぁ、僕は、、今日このままこの部屋に泊めてもらってもいいかな?」

 

彼の肩に顔を預けていた私は、「えっ」と飛び起きる。


「う、、ん。勿論、、いいよ。狭いけど」


私は顔を真っ赤にしながらも嬉しい気持ちを必死で隠していた。


「もう、香澄ってほんとに可愛いな……」

「柊二君……」


この日、二人の思いの全てが一つになった。




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