第3話 綺麗な女にゃ角がある

 「起きて……蓮様」

 女の子……しかもメイドかな……かなりのロリ声だ……

 「起きてください……蓮様………」

 おいおいCVが坂本真綾じゃねぇか……最高過ぎるだろ……

 「蓮様〜……起きて〜……もう朝ですよ〜」

 あれ、なんだ……少しトーンが低くなって……

 俺は目を開けると………

「蓮様!朝ですよ!学校に遅刻しますよ!」

 あいつだった。

 そう、1週間前から居候を始め、家事や洗濯を完璧にこなす。

 が、何故か俺をもう1人の王と慕い、なんかやかましい。

 そんな彼の名はケラト・トリケである。

 俺は、多分この先出すこともないだろう高音で叫んだ。

 小夜がうるさいと怒鳴ったのはその矢先である。


 蓮は朝から悪魔を見たかのような顔をして登校してきた。

 悟は玄関にある自販機で購入したいちごミルクを飲みながら蓮を見る。

「蓮、どうした?朝からとんでもねぇもの見た顔してるけど」

「ああ、とんでもないものは見た。そりゃ悪魔だった」

「どんなの」

 蓮はすぐに答えた。

「まるで昭和のおかんが着るようなエプロンをつけたケラト」

 悟のいちごミルクが逆流した。

「あいつそんなもん着てんのかよ……」

 半笑いで悟が言う。

「何してんだろ……あいつ今」


 その頃、ケラトはベランダに衣服を干していた。

 すると、軽くくしゃみをした。

「くしゅっ………花粉かな」

 そんな事を呟きながら、ケラトは部屋に戻り、冷蔵庫に置いてあったぶどうを食べる。

「………美味しい」


 午前中の授業が終わり、昼休みに入った。

 校舎の中庭には、吹奏楽部がコンサートを開いているが、蓮にとってはそんなものはただの音であり、興味などは微塵も無く、昼食を済ませ、ただ図書室で借りたライトノベルを教室で黙々と読んでいた。

 悟は他の友人と中庭で昼食をとっている。

 蓮はこの時間が好きだ。

 誰にも邪魔されず、好きなライトノベルに集中出来る。

 この至福を邪魔しようものなら、1発殴ってやろうと思っている。

 まぁ彼にそんな事をする程の度胸は無いが。

 そんな事でライトノベルに一区切りつけ、しおりを挟んで廊下を見ると、コンサートが終わったのかそれぞれの教室に戻ろうとしている。

 そんな人の流れに1人だけ見覚えがあった。

 黒く、長い髪に茶色の瞳、顔立ちは凛としており、平安時代を舞台としたドラマならば十二単を着ていそうな顔をしている。

 蓮は彼女を見て小さく呟いた。

「朱天羅すてらさん………」

 朱天羅希愛智《すてら こまち》

 彼女は、橘蓮の中学時代の甘酸っぱい思い出の象徴とも言える人物である。

 午後の授業に入ると眠気に襲われる生徒が数人現れ、その者達に現代文の内容はほとんど入っていなかった。

 しかし、蓮は別の意味で入っていなかった。

 朱天羅の事である。

 そして、授業が終わり。悟が蓮の様子がおかしい事に気づいた。

「どした?蓮。なんか気になる事でもあったんか?」

「居たんだね…」

「え?誰が」

「朱天羅さん」

「朱天羅?誰だそれ」

「俺の先輩だよ、中学の」

「へ〜あんまり聞かないな、そんな人の名前。ってかどう書くんだよ」

「朱色の朱に天ぷらの天に羅生門の羅」

「へ〜んで、その人がどうかしたの?」

「………覚悟は良いか?」

「俺は出来てる」

 蓮は俯きながら言った。

「俺の………初恋の人」

 悟は唖然とし、口を両手で塞いだ。まるで外国人の驚きのリアクションの様に。

「…………居たんだァ」

「………なんか悪いかよ」

「別にそうじゃねぇけど………なんというか、そのお前って女に対してあまり興味無さそうというか……」

「まぁ、確かに最近の女なんかギャーギャー騒いでインスタ映えだのきゅんですだのうっせぇわだのよく分からん物にハマっては高ぇソプラノの音で叫ぶ猿としかほとんど思ってないけど、あの人は違う。清楚で、綺麗で、可愛くて……」

 蓮は顔を赤らめながら言った。

「ふーん……」

 悟はニヤケながら蓮の方を叩いた。

「頑張れ、蓮」

「え……」

「親友の恋を応援するのが、親友の務めだろ?」

 蓮は悟に抱きついた。

「さとるぅ〜お前は心の友じゃあ〜」

「良し、告ってこい」

「無理だ!」

「おい!」

 蓮は机に頭を伏せながら言った。

「怖いんだよ〜中学の時の事がフラッシュバックしてくるんだよ〜」

「中学で何があったんだよ……」

「お前に話しても、お前にアドバイス出来るような事はねぇぞ……」

「そうか、んじゃ少し様子見だな。お前なりにあの人に話しかけてみて、そっから告れ。あんましいきなりだと相手もパニックだからな」

「そか………」

 放課後の駐輪場。

 蓮が自分のマウンテンバイクを探していると、路地裏で何かが聞こえてきた。

 数人の男の声と、1人の女の声だ。

「そこの姉ちゃん。俺らと遊ばね?」

「いい体してんじゃん」

「……嫌です」

「まぁまぁそんな事言わずにさ〜」

 声だけだが、女の方は明らかに嫌がっている。

 そして蓮はこの声に聞き覚えがあった。

「………朱天羅さん」

 蓮はやっと見つけたマウンテンバイクを置き、すぐに声の方向へ向かう。

「朱天羅さん!」

 そこには、異様な光景が広がっていた。

 狭い路地裏に3人の男達が捨てられた人形の様に倒れていたのだ。

 3人は頭から血を流し、白目をむいて気絶している。

 そして、蓮の目の前には、竜騎士が居た。

 兜は顔全体を覆い、ケラトの竜装鎧に似ていたが、ケラトのとは違い、トサカに角が花弁の様についていた。

 そして、右手には兜と同じような盾を持っている。

 その盾はまるで、中生代後期白亜紀カンパニアン期の北アメリカ大陸に生息していた角竜の一種。

 を模した盾だった。

「朱天羅………さん」


 その頃、とある公園の公衆トイレ。

 一人の男性が用を足し終わり、個室から出ようとしていた。

 「さてと、家に帰るか……」

 個室を出ると何かがいるのに気付いた。それは人間ではなかった。

 頭はアンモナイトで、体全体は粘液で覆われ、両手は数本の触手が生えていた。

 その怪人は、男の首を触手で掴んだ。

 「うっ……ぐぁ」

 すると、男の体は徐々に消え始めた。

 しかし、粘液で溶かされているとは思えなかった。

 男はまるで自分がこの世界から消されると思った。

 なぜそう思ったのかは、男自身にも分からなかった。

「ああああああああぁぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁあぁぁぁあぁあぁぁぁあァぁあぁぁぁあぁぁあぁっっっ」

 To Be Continued

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