第39話 不審な来訪者
王都滞在用に貰った家は、王城とハンターギルドの中間地点ほどにあった。
緑が多めで繁華街へのアクセスも良く、繁華街よりもやや高い位置にあるため見晴らしも良かった。
家自体も、家というよりは屋敷というサイズだ。
さすがにオレたちが作った家よりは小さいが、内装や家具なども高級品であろうものが使われており、立地も考えると金貨数百枚以上はするのではないかと思われる。
しかも使用人付きだ。
「さすがにこれは囲い込みなんじゃないのかなぁ……」
「そうですねー。こんなの貰っちゃっても大丈夫なんでしょうか? 今日だけじゃなく、これからずっとってことですよね」
「滞在用の家としては豪華すぎるわね。王国としても高ランクのハンターには近くにいてもらった方が安心でしょうから気持ちはわかるけど……。ここまでされちゃうと逆に落ち着かないわね」
ハンターギルドは一応国からは独立した機関であり、ハンターも基本的に活動する場所は自由に選べる。
国としては多少コストが掛かったとしても、人々や街の安全を考えると高ランクのハンターにはなるべく滞在していてほしいはずだ。
誰だってこんなにいい屋敷を貰ってしまったら離れたくはなくなるだろうしね。
オレとススリー、セラーナが若干屋敷の豪華さに引いている中、グウェンさんとタックは相変わらず屋敷に興奮している。
「これもまた見事な作りだなー! グウェンさん、この柱を見てみなよ!」
「む? タック、ただの柱にしか見えないぞ」
「そう、ただの柱なんだ。でもつなぎ目がないだろ? これは1枚の大きな岩から削り出したものなんだよ!」
「なんだってぇー!」
実に楽しそうだ。
でも、この2人がいつもマイペースで楽しそうにしてくれるからこそ、あまり考えすぎずにいられたりするし、その点は感謝しないとな。
たまにムカツクのも事実だけど。
案内役の人にお礼を言い、屋敷に入ると今度は男性の執事さん1人と女性のメイドさん4人が待ち構えていた。
オレたちが不在の間も屋敷を管理するらしい。
申し訳ないと感じたものの、この屋敷は元々他国の貴族が訪れた際の滞在に使っていたものらしく、その頃からずっとここを管理していたようなので、特に仕事自体は変わらないようだった。
一通り屋敷を見学して自分が使う部屋を決め、既にいつでも食べられるように準備されていた食事を頂いてまったりと過ごしていた。
執事さんやメイドさんたちも交えて王都やティルディスの話などをしていると、『ゴンゴン』とドアノッカーの音が聞こえてきた。
「なんか聞こえたね。誰か来たのかな?」
「確認してまいります」
執事のゴートさんが玄関の方へ向かっていった。
「この家の事を知っている知り合いなんていないし、誰だろう?」
「王城の人とかですかね? あとはディリムスさんの所とか」
「あぁそうか、ディリムスさん達もこの辺に家を貰ったのかな」
しばらくしてゴートさんが戻ってきた。
「おかしいですね。誰もいらっしゃいませんでした」
「え? 音は鳴ったよね?」
「はい。私もしっかり聞きました。あれはドアノッカーの音です。しかし誰もおらず、周囲に人影もありませんでした」
初めてのオレたちならいざ知らず、長年ここで働いているゴートさんが言うなら間違いないだろう。
「音が鳴ったのに誰もいないって……。もしかしてオバケでしょうか……?」
セラーナが泣きそうな顔になり、上目遣いでこちらを見ながらオレの右腕をつかんでくる。
この破壊力はヤバい。
「そ、そんなことないよ」
と言いながらとっさに目を逸らして左に顔を向けると、『出遅れた!』という顔をしたグウェンさんがいた。
しかし、オレとばっちり目が合ってしまったことにより、機先を制された形になったグウェンさんは動くに動けず、『あぅっ、あぅっ』と言ってピクピク動くことしかできなかった。
一瞬の沈黙が流れた後、再び『ゴンゴン』とドアノッカーの音が響いた。
皆一斉に、壁の向こうにある玄関の方へ目を向ける。
何も言わず再びゴートさんが玄関へ向かい、その背中を何も言わず見送る。
しばらくして戻ってきて予想通りの言葉が返ってきた。
「誰もいらっしゃ」
「キャー! オバケナノダー!」
待ってましたと言わんばかりに、オレの左腕にわざとらしく絡みついてくるグウェンさん。
以前、調合で使いたいからミイラを掘りに行きたいとか言っていた人が、今更オバケ如きを怖がるはずがないだろう。
一方、セラーナの方は割と本気っぽく、微かに震えているのが伝わってくる。
グウェンさんにぜひとも見習ってほしいところだ。
セラーナのこれが演技だったとしても、オレは騙されたい。
負けて悔いなしだ。
キャーキャーうるさいグウェンさんを放っておいて、ススリーが改めて確認する。
「本当に誰もいなかったの?」
「はい。風もそこまで強い風は吹いていないと思われます」
「悪戯かしらね?」
「悪戯を仕掛けるにしても家は選ぶと思いますし、この時間にわざわざ悪戯しに来る者はいないかと……」
「そうよね。本当になに」
『ゴンゴン』
再び音が鳴った。
全員息を飲み、互いに視線を合わせあう。
セラーナとメイドさんたちはもう泣きそうだ。
そしてもう1度『ゴンゴン』となった瞬間、オレとタックは玄関に一気に駆けつけた。
しかし、すぐに扉を開けるが誰もいない。
そこで”スキャン“を応用して自身を中心に同心円状に魔力を広げていく。
スキルの調査じゃなく、単純に存在を確認するだけのものだ。
すると玄関のすぐ近くにある木の上の方に、微かに反応があった。
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