第28話 あたしゃ認めないよ!

 セラーナと一緒に住む。

 タックの意見は名案だが、色々と問題もあるだろう。


「うーん。まぁ確かにうちはオレ一人だから部屋はあるけどさ……。オレは構わないけど、やっぱりほら……ねぇ?」


 どうやって答えたらいいか分からず困ってセラーナを見る。


「そ、そうですよね。私なんてご迷惑になっちゃいますもんね。あはは……」

「いや、オレは迷惑では全然ないし、部屋もあるからいいんだけどさ。ほら、クラン員だからと言って、一緒に寝泊まりするのはセラーナも嫌でしょ?」

「いえ、私は別に……。ヴィトとは初めて会った感じもしないですし……」

「そうは言ってたけどさ、そういう事じゃないような……」

「ご迷惑じゃなければ泊めて頂ければ嬉しいですが……。でも無理にとは言いませんので。はい」


 年頃の娘が出会ったばかりの奴の家に住み込むなんて、ご両親も親戚もブチ切れるんじゃないだろうか?


「でもご両親とか親戚の人とか怒らない?」

「大丈夫です。成人したんだし、力も授かったんだからあなたの思う道を進みなさいってお父さんお母さんも言ってくれましたし!」

「それこそこういう時の事じゃないんだと思うけど……。うーん。セラーナがいいならいいんだけど……、本当に大丈夫なの?」

「はい! ぜひお願いしますっ! あ、ちゃんと家賃とか生活費とか、あまり多くは払えないですけどお支払いしますので!」

「いや、お金を節約するためなんだから家賃なんていらないよ。オレも払ってるわけじゃないし。最近は魔法のおかげで薪代も必要ないし、水も水汲みせずに使い放題出せるし。かかるとしても食費とか日用品とかくらいかな。それでも1人から2人になったところで大したことないからね」

「食費ももちろん出します! お料理やお掃除とかもします!」

「あ、うん。オレも出来るから無理しなくていいけどね。そんなに気を使わなくてもいいからね」

「いえ、むしろやらせて下さい! 何か好きな食べ物とかあれ食べたいとかあったら言って下さいね! 私、頑張って作りますから!」

「あ、はい。ありがとうございます」


 クランの円滑な活動の為にもメンバーは近くにいた方がいいもんな。

 流れでセラーナと同居することになったら、横でプルプルしていたグウェンさんが爆発した。


「ダメなのだ! わたしは認めないのだ!!」

「えっ、何が?」

「セラーナがヴィトの家に住むことなのだ!」

「認めないって言っても親じゃあるまいし……」

「ダメったらダメなのだ!!!」

「いやだって、しょうがないじゃないですか。一人だけ王都というのも不便だし」

「じゃ、じゃあウチに泊まればいいのだ! ヴィトの家である必要はないのだ!」

「「「いや、それは無理」」」


 ススリーとタックもハモッて来た。


「足の踏み場もないのにどこにどうやって泊めるつもりなのよ」

「あんなとこに人を泊めるなんて正気の沙汰じゃないぜ」

「何度掃除しても謎のキノコが生えてくる部屋は、既に人の部屋じゃなくてキノコの部屋ですよ」


 瞬時にボコボコにされるグウェンさん。


「でも、でもでもダメなのだ!!」

「じゃあどうするんですか?」

「ぬぐぐ……! じゃあ私もヴィトの家に泊まるのだ!」

「えっ、なんで??」

「なんでもなのだ!!」


 グウェンさんが好意を寄せてくれていることはわかるので、言わんとしていることはわかるんだけど、他にいい案もないしなぁ。

 別にセラーナに手を出そうなんて思ってるわけじゃないんだけど、そりゃ気になるか。

 でも面倒なことになりそうだなぁ……。

 困っているとススリーが間に入ってきた。


「もうしょうがないわね。まぁセラーナもいきなり男の人と2人きりで生活するよりも同性がいると気が楽でしょうし、いいんじゃない? グウェンさんも人間らしい生活を覚えるのにちょうどいい訓練にもなるかもしれないわ」

「いや、私は別に2人でも」

「わたしはちゃんと人間」

「うーん……。そう言われてみれば確かにそうだね。ごめん、気が付かなかったよ。セラーナも安心できるし、グウェンさんも人間に戻れるし、一石二鳥だね」


「「う、うん……」」


 ◆


 ということが昨夜にあった後、現在の場車内に至るわけだ。

 セラーナはティルディス自体初めてらしく、街の事を色々聞いてきたりしてとても楽しそうだ。

 そしてセラーナがこれからの生活を楽しみにすればするほど、グウェンさんはムスッとしていくのだった。

 タックとススリーは我関せずのスタンスのままだった。

 しかし、タックは時折こちらをチラッと見てはニヤッとしてくる。

 ムカッとしたオレはチクッとさせるため、座面にヒョコっと棘が生えるイメージをする。


「いてっ!?」

「どうしたの?」

「いや、何かチクッとした。なんだ?」

「何もないわよ?」

「おかしいな。何だったんだろ?」


 ククク……いい気味だ!


 その後もセラーナが話しかけてきたら、負けじとグウェンさんも話しかけてきたり、グウェンさんが眠気に負けてこちらに寄りかかってくると、セラーナも寝たふりをしてもたれかかってきたりと、嬉しさよりも精神的な負担が大きい帰り道だった。


 しかし、こんなことは序の口で、その後起こる悲劇をオレはまだ知る由もなかった……。

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