第26話 セラーナ、初めまして
結界の前まで来たが、やはり普通に芝生が広がっているだけだ。
しかし、ここだけ人がいないし明らかにおかしい。
「強固なものってわけでもなさそうだし、人除けの結界か何かかな? まさかこれが<ワームホール>なわけないよね?」
「なんでクラン員募集するところで人除けなんかするんだ?」
「なんでだろうね? でも気になるしオレがまず入ってみるよ」
理由まではわからないが気になってしょうがない。
何があるかわからないので、補助魔法をかけ、意を決して一人で中に入ってみる。
「ひぇっ!?」
「あれ……?ブース?」
するとそこにはクラン員募集のブースがあり、机に突っ伏して寝ていた黒髪の小さな女の子が、驚いた表情でこちらを見ている。
「こ、こんにちは。お邪魔します……」
「あ、こんにちは……」
先ほどまで見ていたブースと同じものだ。
クラン名は“ブルータクティクス”と書いてある。
「ここはクラン員を募集しているんですか?」
「あ、はい、してます……」
「……なぜ結界が……?」
「あ、すみません、私人見知りなもので……」
「あ、そうでしたか。それはどうもすみません……」
「あ、いえ、こちらこそ……」
もじもじとしながら伏し目がちで話す女の子。
初めて会うのになぜか懐かしいような、何となくだがこの子なんだなという不思議な感じがした。
「クランの話を聞かせてもらってもいいですか? できれば友人も一緒に」
「あ、はい。ぜひ!」
確認を取って外で待っている3人に声をかけ、中に入ってもらった。
「あれ? ブースなのだ」
「ホントだ。何もなかったはずなのになんでだ?」
皆不思議がっているが、結界に入ったときの感覚だと、人除け兼不可視化の結界だったようだ。
ちゃっかり既に“
「すみません……。募集はしたいんですが、人見知りなものであまり大勢の人に来られても困ってしまうので……。どうしようか迷ったんですが、結界があったとしても来てくれる人が、お告げで言われた人かなって思って……。あ、申し遅れましたが、私はセラーナと言います。ロレンシアの街からきました」
「私はススリー。こっちはヴィトにタック、グウェンよ。私たちはティルディスから来たの。よろしくね」
「はい、よろしくお願いします!」
「それでお告げで言われた人っていうのは? 神様からのお告げなのかしら?」
ススリーが尋ねると、セラーナさんは少し逡巡したが、決心したように『うん』と呟き、小さく頷いてから話し始めた。
「はい。私は神様からスキルを授かったんです。その際に、一緒に戦う仲間がいるから、今日ここに行くようにと言われたんです」
「神様って創造神アガッシュ様だった?」
「そうです。他の方々は天使様からお告げを受けたようですが、私はアガッシュ様から直接お告げを受けました」
「オレたちもそうなんだよ。それぞれ特別なスキルも貰ったんだ。グウェンさんは天使だけど、高Lvのスキルを貰っているよ」
グウェンさんが『えへへー、照れるのだ』といって、グウェンさんが天使の様だという意味だと勘違いしているようだが、いつものように無視だ。
「私たちも仲間がいるということは聞いていたのだけど、詳しいことは聞いてなかったのよ。ヴィトとタック、グウェンさんは昔からよく知っているから、すぐにそうなんだなって思ったんだけどね。他の仲間については分からなくて、もしかしたらと思って、今日来てみたの」
「セラーナさんがどう感じたかはわからないけど、オレはそう感じたんだよ。何となくここが気になって来てみたら、あぁこの子かなって」
「私もそうです。上手く言えないけど、初めて会ったはずなのに、前から知っているような気がします。誰かくるとは思っていなかったのでびっくりしちゃいましたけど」
はにかみながらセラーナさんが答える。
さっきみた他の高Lvの人たちとは違う印象があり、セラーナさんもそれを感じているようだった。
「ところでクラン員を募集しているんだよね? 一応話を聞かせてくれない?」
「はい。といっても、まだ何も決めてなくて……。神様からお告げを受けたからクランの設立申請をしてみたんですが、どうしたらいいかわからなくて。もし誰か来てくれたら一緒に考えていければいいかなって思っていたんです。すみません、こんなので……」
「いや、大丈夫だよ。むしろ募集してくれていてよかった。ピンと来るところがなかったら、オレたちもクラン作ろうかと思っていたんだ。よかったらオレたちをクランに入れてくれないかな? あ、その前にオレたちのことも話さないとね」
そう言って改めて自分が貰ったスキルやLv、Sランクだったことなど、隠さず全て説明していった。
「ご説明ありがとうございます。改めまして、私はセラーナ、16歳です。私も先日登録し、Sランクで登録されました。アガッシュ様からは回復魔法、結界魔法と、“
「えっ? 魔物が出てくる穴を塞げるの?」
「そうみたいです。まだ使ったことはないですが……。でも神様から、『その力は1人じゃ活かしきれないから、仲間と共に、人々の為に使ってほしい』って言われたんです」
「確かに魔物がうじゃうじゃ沸いてくる穴を塞ぐなら近づかなきゃいけないだろうし、一人じゃ無理だもんね」
「はい。私に戦う力はありません。でも人々の為にこの力を活かしたいんです。だから皆さんの力を貸して頂けませんか? お願い致します!」
一応みんなの顔を見渡すが、当然のごとく反対はなかった。
「もちろん。こちらこそクランに入れてください。よろしくお願い致します!」
「よろしくなのだ!」
こちらがクランに入れてもらう側なので、皆で頭を下げる。
クラン員登録は書類に必要事項を記載し、ギルドに提出すれば完了する。
セラーナさんはクランマスターを譲りたがっていたが、こちらも断固拒否した。
何となく、マスターはセラーナさんが良い気がしたからだ。
「クラン名は”ブルータクティクス”って言うんだね。どういう意味なの?」
「えっと、そんなに大した意味だとかはないんですが……。私、青色が好きなので『青』っていれたいなーって思って」
恥ずかしそうに俯きながら話す。
「後は……、私は青い空、青い海が広がるこの世界が大好きなんです。この美しい風景を魔物に壊されたくなくて。でも私ひとりじゃ何も出来ないから、神様が言ってた仲間たちと、この風景や人々を守っていきたい。皆で力合わせて、街や村、人々の笑顔を守りたい。もちろん自分たちもたくさん笑える楽しいクランにしたい。その為に、どうしたらいいか、何が出来るのかを皆で一杯考えて実行してきたいと思ったんです」
顔や耳まで赤くしつつも徐々に顔を上げて、オレたちを見ながらしっかりと話をしてくれる。
「そう考えていたら、みんなで『次どうする』とか、『どうやって戦う』とか作戦会議しているようなイメージが浮かんだので、“ブルータクティクス”って名前にしてみました。あの、変だったら変えてもいいですので!!」
「とんでもないよ。いい名前だと思うし、オレもそんなクランにしたい。むしろ、なんちゃらドラゴンとかより全然いい。物凄くホッとした」
「何とかの道とか、堅苦しい名前よりずっといいわ」
「よーし、今日から私たちはブルータクティクスなのだ! タック! えいえいおー!」
「えいえいおー!」
こうしてオレたちは顔見知り以外の初めての仲間に出会えて、クランにも所属することが出来た。
新しい仲間が入りやすいように、楽しいクランにしていけたらいいな。
『えいえいおー!』に巻き込まれ、照れながら一緒にやっているセラーナを見ながら、このクランなら大丈夫だなと感じた。
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