第二章 ギルドとクラン

第19話 王都ソルティアへ向けて

 王都への出発の朝、タック、ススリーと共にグウェンさんを迎えにタンブルウィードに向う。

 その途中、朝食のパンを買うためにエルザさんのお店に寄った。


「あら、おはよう。今日は3人なのね」

「おはようございます。これからグウェンさんと一緒に王都に向かうんですよ」

「いいわね。旅行?」

「いえ、ハンターギルドの登録なんですが、その前に色々下見をしようと思って」


 エルザさんにはスキルの詳細まで伝えていないが、それぞれ剣術や魔法などが使えるということは伝えてあった。


「そっか。くれぐれも気を付けるのよ。私たちも出来る限りの事はするから、必要な事があったら言ってね」

「ありがとうございます」

「よし、これもおまけしちゃう。道中で食べていって。あとこっちはグウェンにあげておいて。これ食べていれば大人しくしてるでしょうから」


 そう言って、買ったパンにいくつかおまけを付けてくれた。


「ありがとうございます。頂きます!」


 3人でお礼を言い、タンブルウィードに向かうと、グウェンさんは準備万端で待ち構えていた。

 楽しみすぎて早起きしたらしい。

 お店の施錠を確認した後、馬車乗り場がある中央公園へ向かった。

 王都へは馬車で4~5時間なので、これから向かえばお昼過ぎには到着する予定だ。

 乗合馬車だとティルディスから王都まで1人銅板2枚で行ける。


 ミリテリアの通貨は各国共通となっており、銅貨、銀貨、金貨が使用されている。

 各通貨には<銅貨>、<銅板>、<大銅貨>というように3種類があり、

 ・銅貨10枚で銅板1枚

 ・銅貨50枚で大銅貨1枚

 ・銅貨100枚で銀貨1枚

 となっている。

 銀貨、金貨においても同様なので、銅貨換算すると、金貨1枚は銅貨10,000枚、金板は銅貨100,000枚、大金貨は銅貨500,000枚の価値があることになる。

 さらに1枚で金貨100枚分の価値がある白金貨というのがあるが、金貨も白金貨もオレたち庶民には関係がなかった。

 一般的な4人家族なら、1か月の生活費は銀貨5枚ほどあれば十分だ。


 馬車乗り場に到着すると、まだお客さんが殆どいなかった。

 荷台の両サイドに長椅子が設置されたタイプで、本来8人乗りの馬車に4人で乗れることになった。

 貸し切り状態で広々と使えるのとは幸先がいい。

 天気も良く、王都までの道もきちんと整備されているので、快適な旅が出来そうだ。


「うひょー! 気持ちいいのだー!」


 馬車が静かに動き出すと、心地よい風が吹き込んでくる。

 久しぶりの遠出で朝から元気いっぱいなグウェンさん。


「あんまりはしゃいでると疲れちゃいますよ」

「昨日は一杯寝たから大丈夫なのだ!」


 クリームパンを食べながらご機嫌に話しているが、いつまでもつのやら……。


 ◆


「きもちわるい……。酔ったのだ……」


 1時間ほどしか持たなかった。

 青白い顔ですっかり元気をなくしたグウェンさん。


「だから言ったじゃないですか……」

「こんなはずじゃなかったのだ……。うー……揺れるー。きもちわるいぃー」


 少しでも楽になろうと横になっているが、ゴトゴトと揺れる馬車の振動が許してはくれない。

 ススリーが背中や頭を撫でたりしてあげているが、あまり効果はないようだ。

 しかし、あと4時間くらいは馬車に揺られなければならない。


「あ、そうだ。最近いい魔法作ったので試してみますか」

「いい魔法? 治るならなんでもいいのだ。ためしてー」


 タックとススリーに馬車の中央スペースを開けてもらい、水魔法で水分を集めて土魔法で粘性を与えていく。

 長さや幅はグウェンさんより少し大きなサイズ、厚さは5㎝くらいの板状にしていく。

 表面を光魔法でコーティングし、空気を少し圧縮させて板状の裏面部分に纏わりつかせ、床板から少し浮かせておく。

 ウォーターマットの出来上がりだ。


「これに寝ておけば揺れも吸収されると思いますよ」

「おぉぉ! なんだこれはすごいのだ」

「最近寝るときに使ってるんですけど、めっちゃいいんですよこれ」

「よくこんなの思いつくわね……。でもすごい良さそうね。私も出来るかしら?」

「慣れれば簡単だよ。今やって失敗すると馬車が濡れて大変なことになるから、あとで教えてあげるよ。でもこれを覚えるともう普通のベッドじゃ眠れませんぜ」

「いいなー。俺も欲しいなこれ」


 皆で触って感触を確かめている。

 ぷにぷにとした触感で気持ちいい。

 なかなか好評のようだ。

 実際に寝っ転がると体にフィットして、包み込まれるような感覚になるのでもう手放せない。

 夏は水で、冬はお湯で作れば快適温度で睡眠がとれるであろう優れモノだ。


「うわーこれすごく気持ちいいのだ。揺れも全然感じないのだ」

「浮かせてますからね。因みにちょっと調整するとその中にすっぽり入る事も出来るんです。お風呂代わりにやってみたらこれまた夢見心地でしたわ」

「それは気持ち良さそうね……。絶対に覚えなきゃ」


 ススリーのお気に召したようだ。

 今度付与術で作りたいものがあるからギブアンドテイクにしてもらおう。

 そしてグウェンさんはマジ寝しだしたので、到着まで放っておいてもよさそうだな。

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