第5話 火の用心

 目の前に広がるのは雲一つない青空と白い大地……ではなく、見慣れた木材の天井だった。

 寝たまま顔だけを左に向けると、薄手のカーテンは朝陽を遮り切れていないようで、開けなくても天気の良さが見て取れる。

 家の横に生える木にとまった鳥たちも朝から元気そうに鳴いているのが聞こえた。


(あれ? やっぱり夢だったのかな?)


 タックと食事をしたあと、家に帰って眠りについた。

 その後、神様に話しかけられ、別次元に魔族の世界<フォーステリア>が存在する事、ワームホールという穴があり、それを使って魔物たちがミリテリアに侵攻しようとしていること、それを防ぐために神様が力を授けてくれることなど、いつもはすぐに忘れる夢の内容もしっかりと覚えている。


 ベッドから出て手のひらや身体などを確認したり、顔を触ってみたりするが、特別身体に変化はないようだ。

 やはり夢だったのかと思った瞬間、大事な事を思い出した。


「あっ、魔法……」


 神様は様々なスキルを授けると言い、魔法も使えるようになると言っていた。

 魔法が使えればあれは夢じゃなかったことになる。早速試してみよう!


「……って、魔法の使い方聞いてない……」


 どうやって使えばいいんだ!?

 肝心なところを聞くのを忘れていた。

 神様との会話を必死に思い出す。


「固定観念に捉われてはいけない、魔法を使うのに重要なのはイメージや感覚だって言ってたな」


 魔法のイメージ……。

 パッと思いついたのは手のひらの上に火の玉のようなものが浮かんでいるイメージだった。


「火の玉のイメージ……火の玉のイメージ……」


 ぶつぶつと呟きながら右手の手のひらを上に向け、その上に火の玉が浮かぶようなイメージをする。

 何となく手のひらがムズムズするような感じがするが、火の玉は出てこない。

 でも何となく惜しい気がする。


「だめか~。でも惜しい気がするなぁ。どうするんだろうな」


 なかなか難しい。

 ちらっと竈の方を見る。

 普段火を使う際は種火から火を大きくするが、種火がない時は火打ち石から出た火花を火口に乗せ、火種を育ててつけ木に移し……と思い出すだけでも非常に面倒くさい作業だ。

 しかし、実際の火に考えを巡らせたおかげで解決の糸口が見えた気がした。

 まずは火種から火が育つイメージをしてみよう。

 その際に燃料となるのが小説などでおなじみの魔力というやつだ。

 魔力というもの本当にあるのかはわからないが、再度手のひらを上に向けて意識を集中してみる。


 イメージイメージ。

 〈手のひらに魔力? が集まって、手のひらの上に小さな火種が生じ、魔力を元に徐々に火の勢いが増していく〉というようなイメージ。

 次の瞬間、パチッと音がして手のひらの上で火花が飛んだ。


「おぉっ」


 火花が魔力を燃料とし、少しずつ火が大きくなっていく。

 イメージ通りだ!


「おぉぉぉぉっっ」


 手のひらから 5 ㎝ほど上に火の玉が浮いている。

 本当の魔法だ!! 夢じゃなかった!!


「おぉぉぉぉぉうぉおおおお……すごい……」


 高さ10㎝くらいの雫型をした炎が出来ている。

 燃え盛っているが不思議と熱くはない。

 手を動かすとその動きに合わせて炎も動く。

 ゆっくりと竈に行き、細い薪を左手に拾う。

 ゆっくりと燃え盛る炎に触れさせると、パチパチッと音を立てながら薪に火が移った。


「本当についてしもうたで……」


 興奮のあまり言葉がおかしくなる。

 左手に燃える薪、右手に火の玉を掲げ、しばらく感動して見とれていると、一つ懸念が生じた。


「あれ、これどうやったら消えるんだ?」


 消えなかったらどうしよう。

 とりあえず火の玉を見つめながらフッと火が消えるイメージをするとあっさり消えた。


「あっ、消えた」


 消す方は意外と簡単だった。左手の薪も竈に突っ込んでおき、念のためもう一度魔法で火が出るかどうか調べようと、手のひらを上に向けて再度イメージをする。

 今度は先ほどよりも早く火が出た。

 一度見たからイメージがし易くなったのかもしれない。


「よかった。ちゃんと出来るみたいだ」


 次に手のひらに浮かぶ火の玉を竈の薪に移せないか試してみる。

 とりあえず手のひらの上に浮いてはいるが、どう動かせばいいのだろうか?

 手の動きにはついてくるようだが、そのまま竈に手を突っ込むのも怖い。

 なので、竈から50㎝程離れたところに手を置き、火の玉がふわふわと移動していくのをイメージする。


「おっ、いけるか……?」


 火の玉は手のひらからゆっくり移動し始め、竈の中に入っていく。


「頑張れっ……いけっ! ヨシッ!」


 思わず指を指して声を出す。

 しかし、中の薪に触れた瞬間、ブォッと焚口から火が溢れ出てきた。


「ちょっまっ……やばっ! 火事火事!」


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