第18話 ハプニング その1(竜也サイド)

「うんめー。悪ぃな。夕飯作ってもらうなんて。」

『いえ、私、食べることに制限、ある。だから、いっぱい、料理覚えた。タツヤ、美味しそうに食べる。私、嬉しい。』


 シェリーの話だと、内臓の移植手術で繋げられる臓器は、完璧に繋がっているわけではなく、移植臓器を患者の血管に繋げて起動させる感覚らしく、神経は繋がっていないそうです。

 つまり、移植臓器から痛みが伴うわけではないので、外部から菌が侵入すると重病化しやすいのだとか。そのため生ものは食べれず、しっかりと火を通したものしか口にできないのです。


『うん。美味しく出来た…』


 シェリーは自身で初めて作った日本食を食べながら自己評価しているようです。


(多分、味噌汁が薄く感じるのは…出汁を入れなかったから…かも)


 さすがに作ってもらった手前、あまり酷評はしたくなかったので、僕は黙々と彼女の作った料理を胃袋へ入れていきます。彼女からいろいろ話を聞いていたら、実はまだホテルの予約を取っていなかったようで、ちょうど今の我が家は、祖父母が曾祖母の介護で本家に泊まっているため、部屋が空いていました。そこで今夜は、このまま泊まってもらおうと思いました。


「母さんにも、LINEで客が来てる事、伝えたから、今晩はうちに泊まると良いよ。丁度、部屋空いてるし、さ」

『迷惑…でないですか?』


「大丈夫じゃない?それに姉さんの部屋だし、今は大学で都会にいるし、泊まるの女の子だから。」

『ありがとうございます。』


 姉にはあとでLINEを送れば良いことだし、すぐに帰ってくるわけじゃないから大丈夫だろうと思いました。

 夕食が終わると、シェリーはすぐに食器を洗っていく。そんな姿を見ていると、僕も結婚すればこういう生活になるのかなと、想像させてしまいます。


「家事とか完璧じゃん。うちの母さんにも見習って欲しいよなー。仕事忙しいからって、俺に洗い物させるんだぜ?」

『あはは、でも、ちゃんとやるですね。日本語で、親孝行、ですね。』


(親孝行…か。そんなんじゃないんだけど…。)


 ただ、シェリーが食器を洗っている手元をよく見ていると、なんだか慣れていないようなぎこちなさがありました。


(こんな綺麗な人なら、彼氏とかもいそうだよなぁ…)


 そんな事を考えていると、食器を洗い終えたシェリーがこっちを振り返りました。


『あの、シャワー、浴びたい』

「あ、あー、そうだな。今日は暑かったし、汗かいただろ。」


 室内はエアコンが効いていて、現状では汗をかいていないものの、彼女はうちに来てからまだ着替えてもいない。汗の匂いも気になる年頃だろう。僕はシェリーを浴室へ案内し、そのあとシェリーを介抱していた部屋に入りました。そこは昔からタオルや衣服を置いている部屋で、彼女のためにバスタオルを探すためです。


(タオルは大きい方が良いよね…あ、でも外国人ってお風呂入らないのか…。と言うかタオルどこだよ…)


 普段、そういったものは母が出してきて、洗い物も母が片付けてしまうため、なかなか場所が分からない。それでもなんとか2枚ほど見繕って、僕は浴室へ向かう。洗面脱衣所は静かだったので、僕はてっきりもう入ったものだと勘違いしてしまった。


「これ…タオル。つか…って…。」

『え…。きゃっ…うぐぅ…。』


 タオルを持って洗面脱衣所の引き戸を開けて中に入ると、そこには下着姿のシェリーがいて、私を見るなり悲鳴を上げようと(当たり前だけど)したので、つい反応して彼女の口を両手で塞いでしまいました。

 同時に自分の目が彼女の両手で覆われてしまいましたが、その瞬間に見えたのは下着姿のよりも、片目が全く違う色になっているように見えたのです。


「ご…ごめん!もう入ってると思って…。ホントわざとじゃないんだ。」

(いや…何も見えない!あの目…オッドアイ?ちょ…目…痛い!)


『ん〜んん〜。』


 彼女は当然ながら色々と見られたくない一心で、僕の目を覆い続ける。ぐいぐいと押し続けるから目が痛いのなんの。けれど、彼女の手を引き剥がそうと両手を口から離せば、悲鳴があがってしまうのは確実。ここはまずしゃべれる自分からアクションを取ってみることにしました。


『ちょっと。あ、目をつむってるから、何も見ないから…。目、痛い。』


 そう言って僕は両目をしっかり閉じる。しばらくすると彼女は、目を押さえていた両手を片手に変えようとしているようだ。少し目の圧力が減り、ホッとした僕は迂闊にも薄っすらと目を開けてしまいました。そこに写ったのは彼女の豊満なおっぱいに綺麗な


(わああああおおおおお、おっっぱっぱっぱーーい。やばい、ブラが外れてたのか~~)


 僕は慌てて目を閉じ直します。するとしばらくして彼女がフリーになった手で僕の手をペチペチと叩いてくる。僕はすぐに彼女の口から手を離しました。


『ぷはっ!見た?どこまで、見た?』

「どこまでって…。」

(さすがに、おっぱい見たとは言えない…)


『正直に言う。何、見た!?』


 シェリーは凄い慌てようで聞いてくるので、少しだけオブラートに包んで話そうと思いました。

「えっと、下着を見たのは謝る!あと…目。目を見ました。」

『…。』


 反応がない。


「カラコン外してる途中だったのね。ごめん、大丈夫?」


『The answer is correct ... But only half.』

『ハ…ハーフ?半分?どいうこと?」


 反応がないから聞き直したのに、英語で答えが来るとは思いませんでした。その後、シェリーは何かゴソゴソしていて、僕の足元に落ちていタオルを拾っているようでした。何かが終わると、彼女はもう片方の手もゆっくりと離していきます。瞼ごしにうっすらと光が感じられます。


『はぁ…。目、見ていたのなら、今、もう一度、見て良いわ。』

「いいのか?」


 さすがにすぐ目を開けたらまずいと思い、確認を取ってみる。


『…いいわ。』


 それを聞いて、僕はゆっくりと目を開いた。僕の目の前には、バスタオルで上半身を隠し、カラコンが外れて片目が銀色になったシェリーがいました。その美しく吸い込まれそうな瞳に僕は心を奪われ、その瞳を見続けました。


「綺麗だ。ゲームに出てくるような、とても綺麗な目。本物なの?」


 彼女のオッドアイに感動したその純粋な感想が、僕の口から出ていました。

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