第8話 モンスターペアレント

「どういうことなんですか?うちの息子へのいじめを学校側は隠すつもりなんですか?」

 マツモトは、生徒の母親に詰め寄られていた。その母親はどうやら自分の息子が他の生徒にいじめられていると勘違いしているようだった。


 マツモトは必死に母親を説得した。

「お母さん。もし本当にいじめがあったとしたのなら、それは解決しなければいけません。しかし本当に息子さんはいじめられてはいないのです。」

「学校側はどうしてもこの件をなかったことにしたいのですね。そちらがその気なら私にも考えがありますわ。この学校を訴えてやる。」

「お母さん、どうか穏便にお願いします。」

マツモトは激昂する母親をなだめて、ゆっくりと話を聞くことにした。


 マツモトは淹れたての紅茶を出し、母親に尋ねた。

「しかし、お母さん。どうして息子さんがいじめられていると思ったのですか。」

母親は出された紅茶を一口飲み、落ち着いて答えだした。

「最近あの子変なのです。学校から帰ってきたとき顔に落書きされた跡があるんです。一日だけじゃありません。ここ数日はほぼ毎日です。」

「ほう。本人には聞いてみたんですか?」

「息子は私を心配させないためなのか、いじめはないと言うんです。」

「ならば、息子さんを信じてあげれば…。」

「でも、それだけじゃないんですよ。私はそれとなく学校での様子を聞いてみたんです。そしたら前まで仲良かった友達とはもう話してない、今はいつも一人でいるって。」

「確かに最近息子さんは一人でいますね。」

「きっと、クラスメイトから仲間外れにされているんです。他にもあるんですよ。」

「まだあるんですか。」

「息子が買ったばかりの服が、ボロボロになっていたことがあるんです。その服を息子は着て、訳の分からない歌と踊りをするんです。息子はいじめで精神的に病んでしまったに違いないですわ。これでも学校側はいじめはないとおっしゃるのですか?」

母親はとうとう泣きはじめてしまった。


 マツモトは母親をなだめて言った。

「お母さん。とりあえず今日のところは。明日息子さんを交えて話しましょう。でも本当に誤解なんです。」

母親は一応納得して、学校を後にした。マツモトは母親がいなくなった後、息子を呼び出し、言った。

「お前の母親が今日学校に来たぞ。お前がいじめられているんじゃないかと勘違いされていた。明日お前も交えて、また話をすることになった。」

「そうなんですか。お母さんにはいじめられてはないとちゃんと説明したはずなのに。」

「とりあえず、お前からもう一回丁寧に説明しておいてくれ。お前が、最近相方と解散してピン芸人なり、次のライブのために貧乏神の衣装と化粧して歌う『ネタ』の稽古をしていると。」

 お笑い養成所にも保護者がクレームに来る時代になったのかと、マツモトは大きくため息をついた。

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