第5話 実験の星

 20年後、地球に小惑星が衝突することが分かった。衝突した瞬間、地球上の生物が消滅することは明らかだったため、世界中の国が一致団結し、本格的に別の惑星への移住計画が進められていた。移住が出来るような、地球に似ている星が見つかったのは計画が始まって5年が経ったときだった。


「隊長!奇跡ですよ。たった5年で移住先が見つかるなんて。しかも、距離も移住が不可能なものではありません。」

「そうだな。世界中の技術を集結したから、5年で済んだんだ。だが、本当に人間が住めるのか。それを見定めるために我々はこの宇宙船に乗っているんだ。」

現地調査のための宇宙船ではそんな会話が起きていた。


 移住先の惑星に着陸して、隊員たちはすぐに調査を始めた。惑星には動物はいなかったが、地球よりも豊かな自然に囲まれていた。空気の調査を済ました隊員が、驚きながら隊長に報告した。

「隊長!この惑星、地球と全く同じ大気成分ですよ。」

「なんだと。」

隊長はすぐに、ヘルメットを脱ぎ、深呼吸をした。

「うむ。自然が豊かなぶん、地球より空気がうまい。」

その後の調査は、隊員たちは皆ヘルメットを脱いで進めていった。結果、この惑星には危険性はなく、移住可能であることが分かった。隊長は宇宙船に戻り、すぐにデータを地球に送り、帰還した。


 帰還した隊員たちが大喜びしているところに、ひとりの役人から意外な事実が知らされた。

「皆さん大喜びしているところ申し訳ない。実は、20年後地球に衝突するとされていた小惑星が、流れている途中で別の小惑星と衝突した。つまり、地球はこの先暫く大丈夫だ。計算上、23億年は地球は安全だ。」

隊員たちは驚き、ある種落胆した。隊長は言った。

「しかし、もったいない。あんなに地球に酷似していて、問題なく移住できる距離に惑星を見つけたというのに。」

それを聞いた、役人は言った。

「確かに君の言う通りだ。実は、今回の移住計画がきっかけで、『世界政府』をつくることが決まった。これからは世界が一つになってより平和な世界を創っていこうということになったんだ。」

「それは素晴らしいことですな。」

「そこでだな、君たちに調査に行ってもらった惑星に移住することが決まった。」

「なんですって?しかし、地球は安全なんですよね。今更移住する必要があるのでしょうか。」

「いや、そこに移住するのは、我々のクローンだ。」

「クローン!?」

あまりに突然な話に隊員たちの頭は混乱していった。


 隊員たちが混乱する中、隊長は言った。

「しかし、クローンを創るなんて、投獄レベルの犯罪なんじゃ。」

「これは、世界政府が決めたことだ。」

「なんのために。」

「我々のクローンを、地球に酷似した惑星に移住させる。もちろんクローンには自分たちがクローンだということは教えない。そこでクローンたちがどの様に発展していくかを我々は地球から観察するんだ。」

「観察ですか。」

「そうだ。世界政府が地球をより平和に発展させていくために、『実験の星』として、その惑星を活用するんだ。実験の星では発展とともに、戦争、病気、飢餓など様々な問題も起きていくだろう。それをどの様に解決していくのかを観察して、地球の平和のために利用するんだ。」

「なるほど。それは平和に役立つかもしれませんね。」

こうして、クローン移住計画は進行していった。


 

 地球とは別の銀河にある惑星の科学者のような者たちが、笑いながら話す。

「地球人たちは、惑星の移住を止めたみたいだね。それよりも、平和のためにクローンを移住させる計画に変えるみたいだ。」

「まあ彼らの技術力じゃクローンを創って送り込むのにも、まだまだ時間がかかるでしょう。」

「最近大した進歩を見せないから、こっちから小惑星を地球にぶつけようと差し向けたら、あれだけ争っていていた国と国とが一致団結するとはな。少し笑ってしまったよ。」

「そうだな。しかしクローンを移住させて『実験の星』を創ろうとするとは、さすが、我々のクローンなだけあるな…。」

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