第25話

デートが終わってから、アマネとあたしの関係も完全に終わっていた。



アマネはどれだけイジメられてもあたしへ視線を向けることはなくなった。



それでも、あたしの生活はなんの変化もない。



今まで通り相手の数値を見て、付き合うか付き合わないか判断するだけだった。



「今日転校生が来るらしいよ?」



朝からヤヨイが楽しげな口調でそう言ってきた。



「転校生?」



それは初耳だった。



男なのか、女なのかもわからないけれどとにかく優秀な生徒らしい。



「勉強ができるなら、あたしもその子に教えてもらえるようになってラッキーなんだよね」



ヤヨイは笑いながら言う。



クラス内でヤヨイより成績のいい子はいないから、いつも先生に質問しに行くしかないのだ。



友達同士だといつも教える役回りになってしまうので、ちょっとした不満を抱えていたようだ。



「みんなおはよう。席につけー!」



先生が入ってきたことで話は打ち切りになり、あたしは期待する眼差しを教卓へ投げかけた。



転校生が入ってきたらまず一番に額の数値を確認しよう。



そう決めていたのだが……。



「はじめまして、丸山イブキです」



そう言って会釈する男子生徒にあたしはくぎ付けになってしまった。



あたしだけじゃない、他の女子生徒たちは黄色い悲鳴をあげて、目をハートマークにしている。



イブキは典型的な美青年で、スッと整った顔にサラサラの髪の毛。



ほほ笑んだときにできるエクボがかわいらしかった。



A組の女子全員がイブキに見とれている状態だった。



あたしも一瞬その顔に見とれてしまったが、すぐに気を取り直してヒブキの額へ視線を向けた。



「え……」



1人、思わずそう呟いていた。



自分の目をこすり、何度もイブキの価値を確認する。



その後振り向いてゴウの数値を確認した。



ゴウの数値は39456。



一方イブキの数値は……65809。



圧倒的にイブキの方が高い。



あたしは呼吸をすることも忘れてイブキを見つめていた。



クラスで常に1位2位の数値を争っているヤヨイですら、ここまで高い数値じゃないのに……。



一体何者だろう?



そう考え、一瞬背筋が寒くなる。



自分たちより突出した人間を見ると、自然と防御反応が働いて遠ざかってしまいそうになる。



でも、イブキの価値がクラストップであることに変わりはない。



イブキと関わることで、あたしの価値にも変化が出てくるはずだ。



あたしはゴクリと唾を飲み込んで、転校生のイブキを見つめたのだった。


☆☆☆


「イブキ君ってどこの高校から来たの?」



「お前すげー勉強できるんだってな? 今度教えてくれねぇ?」



「イブキ君は部活動とかどうするの?」



「めちゃくちゃイケメンじゃん。どうやったらそうなるのか教えてくれよー!」



イブキがクラス内で人気になるのに時間はかからなかった。



イブキはどうでもいいような質問でも、ひとつひとつ丁寧に答えていき、笑顔を絶やさない。



その対応を見て、イブキの完璧さに気送れしていた生徒たちもどんどん話かけていく。



イブキの机の周りはあっという間に人だかりができていた。



ここからじゃ本人が見えないくらいだ。



「すごい人気者だねぇ」



ヤヨイはその光景を呆然と見つめて呟いた。



「あれだけカッコイイんだもん。みんな集まるよそりゃあ」



残念ながら、あたしたちは少しも近づけない状態だ。



いつもならアマネイジメをしているイツミたちも今はイブキに夢中なのだから。



「ってか、イツミってゴウのことが好きなんじゃなかったっけ?」



ヤヨイが首をかしげながらそう聞いてきたので、あたしは肩をすくめてみせた。



「本気で好きだったのかどうかわからないよ。イツミって流行りものが好きだもん。男子生徒だって同じなんじゃない?」



イツミがゴウから離れていくならそれで問題なかった。



あたしたちの邪魔者がいなくなるのだから。



でも、問題はゴウの数値だった。



イブキの数値がずば抜けて高いため、ゴウの数値が低く見えてしまう。



あたしはゴウのことだ好きだけれど、彼氏としてふさわしいかどうかは別問題だ。



「アンリ、すごく怖い顔してるけどどうかした?」



ヤヨイに声をかけられて、初めて自分が眉間にシワを寄せて思案していたことに気がついた。



「なんでもないよ。国語の課題が難しいなぁと思ってただけ」



あたしは適当な言い訳をして、ほほ笑んだのだった。

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