第4話

いやいや刹那さんや。いきなり何を言ってるんだ!


しかも何だこの婚姻届は!? ご丁寧に " 由井刹那 " って名前が記載されているじゃないですか!


「いやいや、ちょっと待って欲しい。何故いきなりそんな話になっているのかをおじさんに説明して欲しいのだが?」


盛大に困惑している俺は、刹那ちゃんに説明を求めた。 すると、刹那ちゃんはキョトンとした顔で


「圭介さんはおじさんじゃありませんよ? 寧ろイケメンのお兄さんです♡」


「いやいやいやいや、俺が聞きたいのはそれじゃなくて」


「? 圭介さんは私に何を聞きたいんですか?」


俺はつい受け取ってしまった婚姻届を指差して


「これの事だよ」


刹那ちゃんはポンと手を打ち


「ああ、その婚姻届の事ですか?」


俺は大きく首を縦に降る。


「私が圭介さんと結婚する為に必要だから用意しました。それが何か?」


……それが何か?じゃねーよ!


「よく考えてね。結婚って一生物の事だよ? 一時の考えだけで決めちゃいけないよ?」


俺は刹那ちゃんに優しく傷付けない様に諭してみた。


「大丈夫です! ちゃんと考えての結論ですから! 私の旦那様は圭介さん以外には考えられませんから♡」


………駄目だ。完全に暴走している気がする。


はっ! 起死回生の1手を思い付いた! これで刹那ちゃんを諦めさせられる!


「もし、俺達が同意して婚姻届にサインと捺印したとしよう。でも、保証人には誰がなってくれるのかな? 俺達が良くても、お父さんとお母さんが許してはくれないと思うよ?」


ドヤ顔で刹那ちゃんにそう言うと、刹那ちゃんがニコニコ顔で婚姻届の保証人の欄を指差して


「大丈夫です♪ 見てください♪」


保証人の欄を見ると、そこには " 由井公宏 " の名前が記入されていた……。


……何やってるのさー!お父さん!? ちゃんと娘さんを止めようよ! 記入してんじゃねーよ!



OK……落ち着け。落ち着くんだ丹羽圭介。 刹那ちゃんは一時の感情に流されているだけなんだ。


彼女を傷付ける訳にはいかない。考えろ!考えるんだ!


しかし……無い頭を捻っても、問題解決の糸口は見付からなかった。


「圭介さん、私をお嫁さんにして下さい! きっと良い妻になりますから!」


うるうるした瞳で俺に懇願してくる刹那ちゃん。


「……1つ聞いても良いかい?」


「はい!何でも聞いて下さい!」


「何で俺なんだ? 刹那ちゃん位可愛いければ、俺よりもっと良い人がいると思うんだよな」


「私はさっきも言った通り、圭介さん以外には考えられません」


「俺の何処が好きになったんだ? 実際には会った事が無いに等しい男だぜ?」


「確かに圭介さんは会った事が無いに等しい男性です。でも、圭介さんは私の命を助けてくれました。命の恩人です」


「それだけの事で君の一生を決めてしまっても良いなんて俺は思えない」


「……今まで会ってきた男性は、私の顔か身体が目当ての人ばかりでした。誰も私の中身は見てくれませんでした。 初めは圭介さんももしかしたらその類いの男性かも知れないと思いました。 だから、会って直ぐに私を口説いてきたら顔にビンタをして帰るつもりでした」


……怖っ! まぁ初めから口説くつもりなんて無かったから良かったけどね。ってまさか、泣き真似だったのか? だったら大した女性だよ。本当に涙を流していたんだからな。


「もしかして……あの涙は」


「……すみません。泣き真似でした」


……やっぱり怖い娘だよ!


「でも、圭介さんは違いました。泣き真似した私に口説く事をせず何処までも優しく接してくれました。 だから私確信したんです。圭介さんなら私の中身を好きになってくれると。そして本当の意味で一目惚れしたんです。そして心から圭介さんのお嫁さんになりたいと思ったんです。だからお願いします。私を貰って下さい」


……とっても素敵で純真な女性だな。こんな娘をお嫁さんにしたい。 でも……やっぱり


「刹那ちゃん。やっぱり俺は君をお嫁さんにする事は出来ない。ごめんね」


「っ! そ、そんな!!」


「俺と刹那ちゃんはまだお互いの事を何も知らない。好きな事、好きな食べ物、好きな場所……。もしかしたら刹那ちゃんは俺の事はある程度知っているかもだけれども。 先ずは先にその事を知る必要があると思うんだよな俺は」


項垂れていた刹那ちゃんが バッ!と顔を上げて


「そ、それってもしかして……」


「結婚は出来ない。今は。その話はお互いを知って、なおかつ本当にしたいと思った時にすれば良いと思うんだ。だから、先ずはお付き合いから始めませんか?」


「は、はい!勿論喜んで! こちらこそ宜しくお願いします! 絶対圭介さんに損はさせませんから! 私の事をお嫁さんにしたいって思わせてみせますから! 覚悟してくださいね♡」


「ははっ。お手柔らかにお願いします」


「でも、とりあえずこれは受け取って下さいね♡」


再度俺の手に婚姻届が握らされた。


「大事に保管をお願いしますね♪ 絶対使用する事になりますから♡」


……とりあえず箪笥の中に仕舞っとくかな。


「愛しています圭介さん♡」


この愛していますって言葉、最近何処かで聞いた事があるんだよな。 何処だっけ?


……思い出した! 居酒屋で見ていたテレビでだ!


芸能人の 由井刹那さんが言ってた言葉だ。


そう思っていると刹那ちゃんが


「何を考えているんですか圭介さん? 何だかニヤニヤしてましたけど」


と聞いてきた。 俺は今考えていた事を刹那ちゃんに話したら


「ああ、その言葉ですか。確かにテレビで言いましたね。嘘は言ってませんよ私? 圭介さんの事本当に愛していますよ♡」


……ん? 今なんと?


「だから、愛していますって」


「違う。テレビで言いましたねって言葉だよ」


「だって、私が本当に言ったんだから間違い無いですよ?」


「……刹那ちゃん。君の職業ってなに?」


「私の職業ですか? 歌手兼女優ですね」


……赤坂。お前の推しは今、俺の目の前にニコニコしながら居るぜ? 俺の彼女として。

























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