彼女の横顔ばかり見ている

nami

牡蠣味のソフトクリーム

 「私の人生の一部を切り取って恋愛映画を撮るなら、今を撮りたい」。


 よっぽど良い恋愛をしているんだろうな。隣に座っている女子大生は、盗み聞きされても構わないと言わんばかりの声量で、セリフのような言葉を発した。


 「だけど、今の恋愛は必ずバッドエンドを迎える。私は今、最高にハッピーエンドな恋愛映画を撮りたい」。


 おっと、そっちのパターンか。イヤホンをつけようとして、辞めた。


 マッチングアプリで出会った男がイケメンだけどダサいらしい。英語で溢れかえったTシャツに刺繍入りのデニム、そしてウォレットチェーン。車高は中途半端に低く、ディナーは割り勘。服装に対する「ダサい」って、服を作っている人に失礼だよなとも思うが、それはどこかで食べた牡蠣味のソフトクリームが不味かったのと同じようなことなのだろう。


 その男は本命でもなんでもなく、本命には婚約者がいるらしい。先週は7日のうち3日、本命の家で朝を迎えていた。ハッピーエンドを求めてマッチングアプリを始めたものの、イケメンかつオシャレな本命を超える者は現れない。


 女子大生の持つスマホからは、友人らしき女性の甲高い笑い声が漏れていた。静かな喫茶店で、電話越しに話すような話なのだろうか。でも、どうしても今、話したくなったのだろう。電話を切った彼女の横顔を横目で見ると、涙が頬を伝っていた。


 「『この女どんな顔してるんだ?』の確認で顔を見てきた」と思われるのは嫌だったので、それ以上彼女の方は見なかった。冷めたコーヒーを一口飲んで、イヤホンをつけた。

 

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