第11話 好きになったのは大嫌いなアイツ

次の日も、また次の日も桜太は何も変わらなかった。ホワイトデーも無表情でクッキーを渡してくるだけ。不格好なところをみると手作りではあるらしいのだが。意識しているのは私だけなのだろうか。


桜太は優秀な両親と同じように弁護士になるために旧帝大の進学をほぼ手中にしている。ギリギリ国公立狙いの私はどうあがいたって桜太と同じ大学にはいけない。その事実が私を苦しめる。しかしこの丁度いい距離感を手放したくは無かった。そんなこんなでついに卒業式になってしまった。


雲一つない晴天に恵まれ、別れを惜しむように友達と片っ端から写真を撮る。今日ばかりはギガも容量も気にしない。友美も私も大号泣。離れるのがつらかった。友美とふたり肩を抱き合っていると桜太が近づいてくる。


「ちょっと、いいか。」


いつになく真面目な表情の桜太にドキリとする。が平生を装って返す。


「どうしたの。」


学ランのポケットをごそごそと探り始める。寡黙で表情に変化の出ない桜太にしたは珍しくはっきりと顔が紅色になっていた。


「お前がどう思っているか俺は全くわかんねえ。だけど俺の気持ちはずっと変わってないし、変わらないから。好きだ、咲彩。付き合ってくれ。」


不意打ちの告白と彼の差し出したネックレスに悲しくないのに涙が止まらない。


「おい、そんなに嫌か。」


返事をするのもまどろっこしくて。私はこの鈍感男の胸に飛び込んだ。




「「ほら(お)姉ちゃん、桜太のこと好きじゃん。」」


武尊と海咲にデート現場を目撃されたのが先日。あろうことか武尊に食卓で暴露され、私たちは両家公認の仲になった。


「じゃあ、姉ちゃん俺ら先行くから。」


武尊が海咲を連れて出ていく。今日は両家で旅行に行く日。私と桜太が付き合っていることはお父さんにとってはショックだったらしいが、小さいころから顔見知りな桜太ならとすぐに許可がおりた。


するとノリノリな両家の母たちは2人の交際を祝して旅行に行こうとはしゃぎ、ものの数日で現実になった。

行動力って恐ろしい。


「じゃあ、私たちも行こうか。」


私がそう言って立ち上がると桜太に腕を引っ張られる。


「なにすんn」


私の反論はかき消された。桜太のくちびるによって。


タイミングって大事、ほんとに大事。ちょうど忘れ物を取りに来ていた武尊に見られて、心底思う。


武尊は海咲の目をふさぐと、大声で叫んだ。


「姉ちゃんと桜太、キスしてるー。」


「なにっ。」


お父さんの怒号も聞こえてくる。

もうすぐ中3になるっていうのにあのバカはぁー。急いで追いかける私と、お父さんにビビりながら追いかけてくる桜太。


私たちの首にはお揃いのメックレスが光っていた。


私が好きになったのは大嫌いなアイツ!

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