第5話 わからないアイツ

帰り道、私の頭は混乱していた。このまま帰るのは危険だ、交通事故まではいかなくても何かしでかしてしまう気がする。そう思った私は近くのコンビニで頭を冷やそうと、アイスを物色した。そう、物理的に。


時折吹く冷たい風に悩まされながらも私の脳内は、徐々に落ち着きを取り戻していく。そして改めて緊急会議を開いてみる。


冷静な私が

「桜太はあまりの汚い教室に驚いて掃除をした」という考えを提示するとみんな黙りこくる。


恋愛脳な私が

「桜太が私のこと好きって説は。」

と言った瞬間一変した。前例のないほどに脳内が騒ぎ立てる。普段は仲裁役で真面目な私までもがポンコツ化し、話し合いは停止した。


手元を見ると、とうにアイスは溶けきっていた。いくら考えても理解できず、答えのない問題を延々持て余す。




私が桜太のことがわからなくなってから半年過ぎ。本格的に受験モードに入り始めていた。

暖かい風の吹いていた季節から半袖では肌寒く感じてしまうほどになった。


「大橋、今日も委員会だな。頑張ろう!」


その間に私と谷野くんは同じ委員会の同じポストにつくことになった。憧れだった谷野くんと近づけるこの時間は私にとって至福の時だった。


このころから私のものが失くなることが増えた。ノートとか教科書ではなく、消しゴムなどの小物でひどいときにはいくつも同時に消える。気づきにくいものばかりが狙われていたころはまだよかった。


最近になると体操服や靴、授業に関係のあるものが主なターゲットになっていた。先生にも相談したが、未だに犯人の目星はつかず、現在も被害は拡大している。


谷野くんとの関わりが増える一方で桜太とはだんだん疎遠になっていった。席替えで離れ、会話はほぼ無いに等しかった。次に隣になった友美からの近況報告以外に桜太の噂を聞かなくなった。




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