第31話 12月下旬

「じゃあな、竜二。東京で頑張れよな。また東京で会おうぜ」

「伊吹先輩、東京でも頑張ってくださいね」

 

 俺たちはクリスマスイブダブルデートを終え、向井と木崎は帰っていった。玲花は言い出しっぺだったのに、ちょっと来まづかったのかドタキャンされた。まあ、玲花には彼氏もいないし、理解は出来た。


「竜二、少し歩かない?」

 俺は誰もいない場所で竜二と二人っきりになりたかった。

「そうだな。それにしてもよ、木崎があんなに歌うまいなんて知らなかったぜ。あっ、いや、大地もめっちゃ可愛かったぜ。歌声」

 同じ歩幅で歩き出した。

「そう?」

 俺はこう返すのでいっぱい、いっぱいだった。頭の中は伝えたいことで埋まっていた。 

 俺たちはどこに向かうかなんて考えてなかったが、ハトポッポ公園に着いた。

 そして俺は、竜二がここで過ごす最後の夜に、自分から別れを切り出した。


「別れよう」


「別れよってなんだよ」


「別れたい」


 俺は竜二の顔を直視できなかった。

「三ヶ月だけの遠距離ってお前が言ってきたんだぞ」

「三ヶ月だけじゃないかもしれない」

 センター試験前、最後の模試で横の水はC判定だったため、結局レベルを下げ、地元の国立大学の看護学部も考えてることを伝えた。

「おまえ、なんで俺になんも相談してくんなかったんだよ」

「しても無駄じゃん」

「なんでだよ。無駄じゃねーし」

 俺は初めて竜二に肩を強く押された。

「なんで今日、別れよって言うんだよ」

「もう会えないから」


「意味わかんねーし」

 竜二が泣きながら叫んだ。


「竜二が……お前が勝手に東京行くんだろ? 勝手に保健室で腕掴んできて、勝手に俺がお前を守るって言ってきて、勝手に非常階段でキスしてきて。勝手に俺の進路も決めんなよ。全部勝手なんだよ」

 ついつい言葉が荒くなった。


「なんだよそれ、全部俺が悪いのかよ」

「そうだよ」

「ふざけんなよ」


 竜二に腕を引っ張られた。殴られるかと思った。でも、竜二はなぜか俺のことを抱きしめてくれた。


「俺はお前のことが好きなんだよ」


 竜二が初めて俺の肩で泣いている。そんなこと言われたら、これ以上言い返せなかった。俺はなにもできなかった、抱きしめ返す以外。俺も竜二が好きだから。俺は何度、この腕の中で泣いてきたんだろう。



 クリスマスの朝、俺は竜二が泊まっているホテルのベッドで少しケツに違和感を感じながら目覚めた。結局別れたのかまだ付き合っているのか分からないままだった。机の上にプレゼントとメッセージカードだけが置いてある。だが、竜二のスーツケースと竜二の姿はもうなかった。


 俺は起き上がり、そのメッセージカードを手に取り読んだ。そして俺はプレゼントを開けてサーモンピンク色したスヌードを抱きしめながら泣いた。



〈メリークリスマス 別れよう 竜二〉

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