第26話 11月上旬

 十一月に入って急に寒くなって、先生たちから「冬服にしなさい」といつも怒られていた誰かさんの制服も完全に冬服に移行していた。


 ハーって白い息を出そうとする竜二を横に、玲花が久しぶりに俺たちのことをバス停で待っていてくれた。


 昨日、玲花からみんなのTWINグループに長文が送られてきた。


【みんなへ。本当にごめんなさい。あれからみんなのこと無視して。あたし莉鳥大学の指定校推薦の校内選考に落ちました。みんなに言うのマジで無理で言えませんでした。特に向井ごめん。もっと喜んであげればよかったです。向井に対して負けたって勝手に思って勝手にキレてました。向井本当にごめんなさい。もしみんなが良ければ明日いつものように一緒に学校に行ってください】


【玲花、俺の方こそごめん。みんなまだ受験が終わってないのに言うべきではなかった。また明日の朝】


【オッケーハッピー( ͡° ͜ʖ ͡°)】


【玲花 おかえり】


「おはよ」玲花がまだ恥ずかしそうに下を向きながら言ってきた。

「おはよ、玲花」

「おはよう、玲花」

 向井も俺に続いた。

「え、俺にはないの?」

 改めて思うが、竜二は場を盛り上げる天才だ。

「竜二、まだ自転車買わないの?」

 玲花が尋ねる。

「あ、うん。もう買わなくていいかな。チャリ疲れるしよ」

「え〜便利なのに」

 本当は便利とかどうでもよかった。俺は後ろから竜二に抱き着いて二人乗りするのが好きだった。

「大地、おまえ、二人乗りできなくなって、寂しいんだろ?」

「ううん。別に」

 竜二に頭の中を詠まれているのかと思いながら、俺は頭を横に振った。

「てか、あたし乗せてもらったことないんだけど」

「いや、ほら、あれは大地の特等席だったからさ」

「何それ〜、マジ意味不明なんですけど」

 俺たちは笑いながら正門をくぐった。


 放課後、俺と竜二はいつものように学校に残り、勉強していた。最近は受験の焦りもあり、竜二も集中力が上がってきたのか、大人しく勉強している。ひと段落して、俺から竜二に声をかけた。


「飲み物買ってくるけど、何かいる?」

「わりぃ、紅茶秘伝」

「あったかいの、冷たいの?」

「あったかいので〜」

 そりゃそうか。放課後になると暖房も消されるし。


俺はあったかいお汁粉と紅茶花伝を買った。戻っている途中、こないだ俺に告白してきた二年の木崎と向井が一緒に生徒会室に入っていくのが見えた。向井は受験も恋愛もどっちもうまくいっていいなって率直に思った。


 教室に戻ると、竜二が背伸びをしていた。竜二、って声をかけながら、紅茶秘伝を渡した。俺は竜二の前の席の机に座った。

「サンキュー」

 竜二が缶を空けて一口飲んで話しかけてきた。

「大地、月末の振替休日だけどさ、暇か?」

 文化祭の振替休日が学校の都合で、今月末の水曜日になっていた。

「暇だけど」

「デートしよ? ほらいっつも勉強ばっかじゃ疲れるだろ。たまには息抜きも必要だしよ」

「どこ行くの?」


「遊、園、地」


 竜二が恥ずかしそうにしている。

「ん?」

 俺はてっきり駅前のカフェでお茶したり、その後、ショッピングモールに行って買い物したりするのかと思っていた。

「だから遊、園、地」

 語尾がちょっとだけ、強調された。

「あそこの?」俺は確認した。

「そ、あそこの遊園地」語尾が弱気になった。

「あそこの……」

 正直、男同士二人で遊園地でデートって、ずっと夢見てたけど、実際にってなると少し気が引けた。

「いや俺たちってさ、あんまデートとかしたことなかとよ? でーから、デートっぽいデートとかしたいっちゃ」

 竜二がどこの方言を真似しているか分からなかった。竜二は恥ずかしいとすぐおちゃらける癖がある。

「嫌じゃないけどさ」

 俺は承諾した。

「じゃあ決まりだな」

 竜二が紅茶秘伝を飲み干して空き缶をゴミ箱に向けて投げた。見事に入った。

「ナイッシュー」と声をかけた。

「あたりめーだ」

 竜二が得意げにしている。


「俺の彼氏はなんでも出来るね」


 耳元で囁く。竜二の耳一気に赤くなった。 

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