れきけん LOVE

秋山如雪

プロローグ 出逢いは突然やってくるもの

 誰が言ったか知らないが、男女の出逢いは「突然、やってくるもの」らしい。

 高校2年生の春、4月。


 東京では、桜が散り始めていた、始業式から1週間くらい経つ頃。


 俺は、少し変わった少女に出逢うことになった。その出逢いは思いも寄らない場所から始まるのだった。


 東京都品川区にある、品川区立聖蹟せいせき公園。

 学校の最寄り駅の天王洲てんのうずアイル駅からほど近く、徒歩通学の俺にとって、帰り道にある小さな公園だが、一応ここは「史跡」ということになっている。


 もっとも、「史跡」と言っても、いくつかの石碑や銅像が置いてあるだけの公園。

 何でも、かつて江戸時代には、北品川、品川、南品川という三つの宿場町があり、大名や勅使が休息・宿泊する「本陣」がそれぞれの宿場にあったらしい。


 それが江戸時代の中頃に、品川三宿のほぼ中央に位置する、この辺りに集約され、位置していたらしい。


 一応、五教科の中では、社会、特に日本史の成績が一番良く、昔からそこだけは得意分野だった俺は、久しぶりにこの公園を訪れた。


 地元の長野県を出て、現在の天王洲学園に入学し、今は東京で生活をしているが、最初こそ品川宿に興味を持ったが、1年も経てば飽きていた。


 そう、この時、本当に「たまたま」久しぶりに寄ってみよう、と思っただけだった。


 そこに、不思議な少女がいた。


 一見すると、何もないような、平凡な公園。一応、ここが「品川宿本陣跡」ということで、石碑などはあるが、昔はともかく今はビルに囲まれているし、別段、「風情がある」というわけでもない。


 だが、「彼女」は、俺と同じ学校の、紺色のブレザーの制服を着て、盛んに写真を撮っていた。それも携帯のカメラではなく、デジカメで。


 見たところ、身長が165センチくらいはある。女子にしては長身だ。スラっとした長い手足、黒髪ロングのストレート、細長い切れ長の目、そして長い睫毛まつげ。特徴的な黒くて細いフレームの眼鏡。


(綺麗な人だ)

 とは思った。


 が、反面、ものすごく「はかなげ」にも見えた。

 それは、その高身長に反比例して、彼女が「痩せて」いたからだ。

 痩せすぎに思えるくらいに、細い手足が、雪のように白い。「病弱」で儚い、それはまるで「死を間近に控えた」病人のようだった。


 こういうのを「薄幸の美人」というのかもしれない、と思った。


 俺は、もちろん彼女のことは知らなかった。

 だが、どこかで見かけたことがあるような気がしていた。

 それは恐らく、彼女が同じ学校に通っていることに起因しているだろう。どこかですれ違っていたのかもしれない。


 ベンチに座って、ぼうっと彼女を眺めていると、その彼女がデジカメから目を離し、こちらを見た。


 目が合った。


 だが、それだけだった。

 特に何もない。


 驚くことも、喜ぶこともなく、その能面のように無表情な「顔」がやけに印象に残った。


 彼女は何事もなかったかのように、再びカメラを構えて、写真を撮り始めた。


 結局、ほどなくして、俺は立ち上がり、この公園を後にした。


 これが、「彼女」との出逢い。

 感動も何もなかった。


 「人の印象は、第一印象で八割方は決まる」と言われるが、最初の印象は「薄幸の美人だけど、無表情で少し近寄りがたい人」だった。

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