第3話 ノヴァ NOVA

最新の英和辞書にはこう書かれている。

nova (nóuvə)【名】《天文》新星

 NOVA【名】ノヴァ《自然科学》「自然発生による人間化変異 (Naturally Occurred Variations of Anthropomorphosis) 」の省略形。


 自分たちより進化した存在は認めたくない、という人類のエゴが表れているとたくみは思うが、自分も人類の一員だから、その気持ちはわからないでもない。


 もっとも、ノヴァの存在はプライムが予測しただけで、その存在が確認されたわけではなかった。それでも、現代最高の人工知能と謳われる量子スーパーコンピュータが、進化した新人類の登場を予測したという報道は世界を駆け巡り、二十二世紀末最大のスクープのひとつになっている。

 NOVAとはその後の一連の報道で、メディアに登場した有識者たちが使い始めた造語で、実のところプライムは「新人類」としか予測していない。

 しかも、報道の翌日、日本政府とプライムの本拠地であるシティの自治政府当局は「新人類出現の予測は事実無根」と相次いで公式に発表している。ところが、そのあわただしい対応が憶測を呼んで、逆に騒ぎを大きくしたのである。


「ノヴァ報道は内部告発!」

「シティの管理官、謎の失踪!」

「新人類、シティに?」

「汚染地帯に新人類のアジト存在?」

「新人類レポートのリーク、シティを撤退した米CIAの報復か?」

などと、興味本位に煽るテレビ番組や、タブロイド紙の特集がたて続けに登場した。


 その後は当然のように、様々な憶測や目撃情報が次々に現われてはいつしか忘れられる。その繰り返しがここ三年ほど続いている。

 常識のある一般人の間では、ノヴァは馬鹿げた都市伝説として片付けられている。高度に進歩した遺伝子工学でも不可能な不老の人類、それも超自然的な異能力を兼ね備えているとなれば、人工知能が実際に予測したとしても、フィクションの世界でしか起こり得ないおとぎ話でしかなかった。

 どちらかと言えば、ノヴァは進化した新人類などではなく、遺伝子操作によるミュータントを意味している、という説の方がはるかに信憑性が高い、と世間では受け止められている。


 いずれにしても、テレビ、映画、ホログラム、ゲーム、コミックなどのエンターテインメントとその関連業界では、ノヴァは大人気のテーマにのし上がったし、その経済効果こそがプライムの予測の最大の恩恵と言えなくもなかった。そうなると、陰謀論を唱える人々は、予測は内部告発などではなく投資家によるでっち上げであるという説を持ち出し、それがまた論争を巻き起こして、ニュースのネタとなりちまたを駆け巡っていた。


 この興味本位の似非えせ科学めいた馬鹿騒ぎの渦中に、まさか自分が巻き込まれようとは、匠は夢にも思っていなかったのである。


 夢にも・・・



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