-制圧-


「-《シャインスタン》っ!」

「ウボォォンッ」

 俺の影が消えると同時に、《ダイバードック》のシャルが足元から飛び出して来た。

「《シャインバインド》っ!」

 間髪入れずに輝く《鎖》を放ち、その体を拘束した。

「ボォォォンッ!ボォォォッ!」

 だが、シャルは傷付くのもお構いなしに、《鎖》を噛みちぎろうとした。

「大人しくしろっ!

《アウェイクハンド》っ!」

「ギャンッ!?」

《手》で押さえ込むと、シャルはピタッと抵抗を止めた。

「…ふう。《シャインヒール》」

 シャルの体に手を当てながら言葉を紡ぐと、傷がみるみる塞いでいった。

「《アウェイクシェルター》。

(…これでよし)」

 安全を確保し、俺は森に目を向けた。…依然、冒険者達は窮地の中だったのだが-。

 …あれ?

 そこで俺は首を傾げる。…さっきまで大量にあった《魔物達》の気配が、やけに減っているのだ。…まぁいい。助けに行こう。…っと、その前にー。

 俺は、ダメ元で《救援》を出してから再び森に足を踏み入れた。


「-来るなーーっ!?」

 すると早速、少年とデカいフクロウがチェイスをしてながらこちらに向かって来ていたので、すっと手を向ける。

「…っ!?誰-」

「《ウィンドネット》」

 進行方向に《網》を出し、少年の行く手を塞いだ。…当然、《ブレーキ》が間に合うはずもなく-。

「-のわーーーーっ!?」

 少年は間抜けな声を出しながら、逆方向に飛んで行った。

「ブォーーーーッ!?」

 …追い掛けて来た、フクロウを巻き込みながら。…ふむ。

 フクロウの気配が消えるのを確認しながら、周囲を見渡す。…森は『夜』という事以外は、さっきまでとは変わらなかった。…念の為、《マスク》を残して他は《マナ》の《鎧》に切り替えるか……。…よし。…後は-。

 さっと《切り替え》、《サーチ》を使う。


 -…居た。…確か、ざっと三十人くらい居たはずだ。

 右に向かって駆け出し、その場所に向かう。

「-い、嫌ぁああーーーっ!」

「《ノーマルシェル》」

 案の定悲鳴が聞こえて来たので、《砲弾》をそちらに向かって撃った。

「-キシャッ!?」

「っ!?」

 ドゴンと言う音が聞こえ、少女を襲っていた《カブトムシ》は吹き飛びながら粒子になって消え去った。

「大丈夫か?」

「…だ、誰?」

 少女は、やや怯えた目でこちらを見た。…まあ、この状況じゃー。

「ーっ!?」

 どうやって説明しようか考えていると、上から何か降って来たので少女を抱き抱えて回避する。…すると、さっきまで立っていた所に刺の生えた大玉サイズの木の実が、二つ落ちて来ていた。


「ー《ウィンドトラポリン》」

 直後、またもや木の実が『高速』で飛んで来たので俺は左手を挙げ、《跳ね台》を作り上げた。…あ。発射出来るんだ。

 木の実は《トラポリン》に押し返されたが、同時に刺が一斉に飛んで来た。

「《ノーマルシェルター》っ!」

 地面に手を向けると、地面に乳白色の魔法陣が浮かび瞬く間に円形の《箱》が形成された。

「…っ。凄い…」

「…とりあえず、味方って事は分かってくれたかな?」

「…は、はい」

 …良かった。…さて、何処に居やがる?

 少女が一応信用してくれたので、俺は彼女を降ろし《スコープ》を使いながら《探して》みる。


 -居た。

「-キキッ!」

 そこには、小豆色の毛に覆われた通常サイズの猿が居た。そいつは、じっとこっちを見ていた。

 -《ピッチングモンキー》か…。

 そいつはさっと別の枝に飛び移り、三本のしっぽを先程の木の実に伸ばし器用に掴んだ。…しっぽの先端が、『滑り止め』みたいになってるのか。

 するとそいつは、まるで『ピッチャー』のようにしっぽを振りかぶり、木の実を投げ付けて来た。そして即座に別の木の実を掴み、投げ付け、また飛び移って掴み-を繰り返して来た。…コイツも、『足止め』か……。…流石に、鬱陶しいな……。

 木の実は《シェルター》に弾かれるが、出て行くタイミングが掴めず、イライラし始めた。…なので、少し《過激》な方法を取る事にする。

 俺は地面に手を当て、優しい緑色の《粒子》-《植昴粒子(プラントオーラ)》を集める。

「《プラントトラップ・ニードル》」


「-ウキャーーーーッ!?」

 言葉を紡いだ直後。悲鳴を上げながら、《ピッチングモンキー》が落ちてきた。…その両足は穴だらけになっていた。

『ウキャーーーーッ!?』

 少し遅れて、森の至る所から大量の悲鳴が聞こえて来た。…ふう。スッキリした。…おや?

 よく見ると、足からは『血』ではなく、粒子状の《魔力》が流れて出していた。

「…キ…キキ…」

「…えぐい事しますね」

 痛みに悶える《ピッチングモンキー》を見た少女は、ドン引きしているようだった。…いっけね。ついやり過ぎっちた……。…いかんな。

 溜息を吐きながら、俺は外に出た。そして、《ピッチングモンキー》に近付き、手を向ける。

「《ノーマルバレット》」

「キキ-」

《ピッチングモンキー》は逃げられるはずも無く、《弾丸》に体を貫かれた。…その体は粒子になって、跡形も無く《消滅》した。

 そして俺は、少女の方を向く。

「…分かってますよ。『動くな』でしょう?」

「…分かっているならいい。

《ウィンドリスタート》」

 俺はその場から、勢い良く駆け出した。


「-っ!?誰っ!」

 その場にたどり着く直前、緊迫したヒナの声が聞こえた。

 俺は《ブレーキ》を使い、両方を挙げて近付く。

「落ち着いて。俺は《敵》じゃ無いよ」

「…っ!ごめんなさい…」

 ヒナはハッとし、直ぐに謝って来た。

 -って、おいおい…。

 彼女の後ろに目を向けると、そこには、焦った様子のイリアと地面に横たわる『彼』が居た。

「…う、ぁ……-」

 …彼の様子は、明らかに異常だった。全員から汗が流れて、呼吸も絶え絶えだったのだ。

「…《毒持ち》にやられたのか?」

「…私を、庇ってくれたんです……」

 悔しそうに、イリアは呟いた。…俺の居ない間に、そんな事が。…とりあえず-。

 俺はヒナに視線を向け、静かに尋ねる。

「…襲って来たヤツの特徴は?」

「…黒い《モスキート》だったわ」


「(-…オッケー)…分かった」

 俺はさっそく彼に近付き、《治療》に取り掛かった。

 -…これか。

 俺は《袋》から、白い液体が入ったポーション瓶を取り出した。

「…っ!」

「《アクアリフレッシュ》」

 まず、体温を下げる為に右手で《クールダウン》を行い、間髪入れずに左手に持った瓶の中身を少しずつ飲ませていった。 …すると、だんだんと彼の呼吸が穏やかなものになり、汗も収まっていった。

「……-」

 …ふぅ。早い段階で処置出来て良かった。

「…だ、大丈夫なんですか?」


「ああ。しばらくすれば、目を覚ますだろう」

「…よ、良かった……」

 イリアは、ホッと胸を撫で下ろした。

「…あ、自己紹介がまだだったな。

 私は、『ジーン』だ」

「…私はヒナです。そっちはイリア」

「そうか」

「-…う……」

 再び名乗り合っていると、ふと、彼がゆっくりと目を開き、起き上がろうとした。

 だが、イリアがその肩を押さえ付ける。

「…まだ、寝ていてください」

「…僕は、どのくらい-っ!誰…ですか…?」

 彼はこちらに気付き、あからさまに警戒した。…傷付くな~。

「…その人は、あんたの命の恩人よ」

 凹んでいると、ヒナがフォローを入れてくれた。

「…えっ!?…す、すみませんっ!」

 彼は、ハッと警戒を解きあたふたする。


「…あ、ぼ…私はクロ=ブラウジスという者です。この礼はいつか…」

「「…ブ、ブラウジス…」」

「(-驚きだな…。)これはこれは。

 …まさかブラウジス『子爵家』のご子息だったとは……」

 二人が唖然とする一方、俺は芝居がかった口調で居ずまいを正した。

 すると彼は、意外な事を言う。

「…今は修行中の身ですので、敬語は不要です」

「…そうか。なら、そうしよう。

 ー《ノーマルシェルター》」

「…これは、《結界魔法》……」

「た、たった一人で……」

「(…ふう。やっぱ顔を変えておいて正解だったな。)とりあえず、俺が『元凶』を叩き潰すまではその中で大人しくしていてくれ」

「…分かりました」

「…何処に居るか、分かるの?」


「当然だ。…何せー」

 ヒナの問いに、俺は上を見上げた。

 ーすると、視線の先には深紫のカラスの群れ…《ミニュイクロウ》達が頭上の木々に留まって居た。

「ー《彼等》が、導いてくれるからな」

『カァーッ!』

「あ、あれは、《ミニュイクロウ》っ!?」

「…初めて見た」

 二人は、口をあんぐりと開けていた。…上手く行って良かった。…もしかすると、この《銀》の力のおかげなのかな?

「カァーッ!(《タクト殿、ゴ無事デナリヨリデス》」

 予想を立てていると、一羽のカラス…ミリュー氏が俺の目の前に降り立った。

(《ご心配をお掛けしました》)

(《…ソレデ、我々ハ-ドウ動ケバ-良イデスカナ?》)


(《…そうですねー。

 今から、-これ-と-光-を使ってモンスター達の-錯覚-を解消させます。

 ですから、ミリュー氏はこの森で一番高い木を教えて下さい。そして、他の方々は遊撃に回って頂ければと思います》)

(《心得エマシタ》)

『カアーッ!』

「「……?」」

「…まさか、貴方は……」

 ミニュイクロウ達が一斉に返事するのを見た三人は、二つの反応を見せた。…ヒナはどうやら『いろいろ』とありそうだ。

(《デハ、目的ノ場所ニ案内サセテ頂キマス》)

『カァーッ!』

 そして、残りのミニュイクロウ達は一斉に姿を消した。

「「「………」」」

「じゃあ、俺はこれで失礼します」

 呆気に取られる三人に別れを告げ、俺はミリュー氏の後に続いた-。



(《ーコノ上デス》)

 数十分後。俺は一段と大きな木々が群生する場所に案内されていた。…多分、普通は《来れない》場所なんだろうなぁ~。

 ミリュー氏は更に奥に進み、一本の木の前に降り立った。

 か

(《ありがとうございます。

 …-ウィンドフロート-》)

 そのまま天辺付近まで一気に移動し、そして一番太い枝に乗った。

「ー《ダークゴーグル》」

 まず、目元に《闇魔法の源》…《ダークオーラ》を集め《ゴーグル》を作りだす。

「《アウェイクブラスト》、《シャインブラスト》、《ミックス》。

 ー《モーニングブラスト》」

 そして、右手に《アウェイクオーラ》を集めて作った《爆弾》を作り左手に《シャインオーラ》を集めた《爆弾》を作り、最後に二つを重ね合わせた。…しかし、『こんな事』も出来るんだな~。

 俺は感動しながら、《特殊爆弾》を頭上に放り投げる。

 

「ー《バースト》」

 そして、直後に《起爆》させた。…すると、森から魔物の気配が物凄い勢いで消えて行き数分後には綺麗さっぱりと無くなっていた。

(《ーオ見事デス》)

(《恐縮です。

 ー…では、-最後-のを壊して来ますね》)

(《オ気ヲ付ケテ》)

「…《ウィンドアクセル》」

 俺は最後の《発生源》を潰すべく、再び森の外に向かった-。


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