第一章 『始まりの街』ルシオン

テンプレの皮を被った全ての始まり

まるでジェットコースターのような劇的な始まり①




 -そこは、青空とその光景を鏡のように映す水面だけが果てなく広がる場所だった。だが突如、その水面にぴくりとも動かない一人の男が浮かび上がって来た。

 直後、その空間の遥か上空に銀色の光り輝く模様が浮かび上がった。そして、模様の中心から銀の光が注ぎ込み、男を照らした。


 すると、下から急速に銀色の露草のような草が生えていき、ものの数秒で白銀の絨毯が出来上がった。そして、絨毯を構成する一本一本の草は男に向かって伸びはじめた。やがて、その場に銀の繭が出来上がった。


 直後。銀の繭は周囲に突如現れた様々な色形-紅に翡翠、群青に黄土色、水色の小さな雪の結晶やパチパチと音を立てる黄色い粒子、いちだんと輝く純白の粒子に怪しい紫の粒子。乳白色の粒子、菱形の粒子、優しい緑色の粒子、ぼんやりとしたクリーム色の粒子、様々な色が混じる靄のような不定形の粒子、刺々しい粒子、小さな箱状の粒子、歯車の形の粒子などを次々と取り込んでいった。


 そして数多の粒子を取り込んだ銀の繭は、自然にゆっくりと解けていった。そして、中から男が再び現れるのだが驚いた事に男の体は、壮年の容姿から青年の容姿に変わっていたのだ。…変化はそれだけでは無い。


「……」


 光に照らされる銀の髪の青年は、とても穏やかな寝息を立てていたのだ。…と、その時。差し込んでいた銀の光は突如として消えた。そして、次の瞬間。


 その空間から、その青年の姿は消えていた-。





「-…っ、……っ、……う……」


 俺は肌寒さを感じ、ゆっくりと目を開けた。……。…何処だ、ここ?


 身体を起こし、辺りを見渡した。しかし、目の前に広がるのは見覚えのない-岩の壁に囲まれた湖だった。どういう訳か、俺は見知らぬ地底湖のほとりの砂浜で、呑気に寝ていたようだ。


 …しかし、地底湖にしては明るい……。…な、なんだアレ!?


 気になって上を見上げると、地底湖の天井付近を見た事も無い大きさのカラスが数羽飛んでいたのだ。…ただし、そのカラス達が発光している訳ではなくその足元―深紫の胴体から伸びた体と同色の《手》が純白のクリスタルを掴んでいて、それが眩い光を放っているのだ。…つか、ヤバい。気付かれたたら一斉に……っ!


 危機感を抱いた矢先、一羽のカラスが旋回をやめこちらに向かって来た。……?なんだ?


 しかし、カラスはこちらを襲う事なく目の前に降り立った。…そして、別の《手》を出し自らの影に突っ込んだ。


 …どうやら、見知らぬどころか未知の世界に迷い込んでしまったらしい。…しかし、そうなると一体何故自分はこんなところにいるのか一層疑問に思ってしまうが……。……ダメだ、全く思い出せない。


「カァー」


 そうこうしている内に、そのカラスは影から小さな袋を取り出し俺に差し出した。とりあえず、ゆっくりと受け取ろうとして…―。


 ……って、なんだこりゃっ!?


 その時にふと自分の格好に気付き、驚いてしまった。


 下はかろうじてズボンの形を留めているが、ワイシャツは完全に腹部と腕の部分が見事に無くなっていたのだ。…だが、何よりも驚いたのは、シャツとズボンが赤くなっている事だ。…どうなってんだ?明らかにアウトな量出てると思うんだけど、全然なんとも無い…。…だーっ!訳が分からないっ!


 ……ふー、落ち着け。


 パニックになりかけたが、深呼吸をして落ち着きを取り戻した。そして、改めて袋を受け取った。……なんにも入ってない。せめて何か着る物が……っ!?


 その時、手に暖かさを感じると共に袋は銀色に染まっていった。そしてそれが終わると、袋の口から頭巾のような物がはみ出していた。


 俺は恐る恐る、それを引っ張った。


 …マジかよ。…確かこれって……。


 出てきたのは、『物語(ファンタジー)』の魔法使いが着ているような、紺のローブだった。


 …どうなってんだ。さっきまでただの袋だったのに、一瞬で便利な物になったぞ……。…こういう物は、あまり人前で使わない方がいいな。絶対、面倒な事になる…。


 ローブを着つつそう決心し、次に靴下と靴をイメージした。そして、それらも身に付け再びカラスを見た。


「(…うーん、とりあえずお礼を言っておこう。)ありがとうございます」


 俺は今居をただし、深く頭を下げた。


「カァ」


 すると、カラスは頭を左右に振った。…まるで、『気にするな』と言っているように聞こえた。


「カァーッ!」


『カァーッ!』


 そして、カラスは上を向き他のカラスに向かって鳴いた。それに応えるかのようにカラス達は鳴き、次々と砂浜に降り立った。…何が始まるんだ?


『カァーッ!』


 すると突如カラス達は光り出し、みるみると身体が縮んでいった。そして、最終的に見慣れたサイズまで小さくなった。


「カァ、カァー」


 先頭に立つカラスは、一度こちらを見てから壁に向かって飛んで行った。…『ついてこい』と言っているのだろうか?


 そんな気がしたので後を追い掛けた。すると直後、外に繋がってそうな横穴が見つかった。…すると直後、残りのカラス達は一度鳴きそれから続々と横穴に飛び込んで行き、まるで誘導灯の役割を果たすかのように等間隔で降り立っていく。…ホント、なんなんだこのカラス達は?


 困惑しながらも、俺はゆっくりと横穴に入った。中は随分と広い一本道だったので、迷う事なく進んで行く。…そして、思いの外あっさりと横穴を出た。


 ―…なんだこれ?


 ただし、そう簡単に出られそうもなかった。俺の眼前に、巨大な石の門があったからだ。…人の手で造られた物だな、これは……っ!?


「…カァー」


 不意に、門の向こうからとてつもなく『不快』な気配を感じた。それと同時に、袋を渡してくれたカラスが唸るような鳴き声を発した。…どうやら、ろくでもない事がこの向こうで起きているのだろう。…どうする?このまま進むのは、あまりにも愚策。…いや、まてよ?


 俺は、ふと不思議な袋を見た。…やってみるか。


『壁の向こうを透視する道具、又は手段』というイメージを持ちながら手を突っ込んだ。すると、手に硬い感触が伝わってきたのでゆっくりとそれを引っ張り出した。…あれ、これって……?


 出てきた物を見て、困惑してしまう。…これは、モノクル?…これで一体どうし……。


 疑問を抱いていると、不意に頭に『これを装着した方が良い』という考えが浮かんできた。…信じるしかないか。


 意を決し、モノクルを装着した。……っ!


 すると、変化は直ぐに訪れるた。突如、周囲に光る粒子が出現し目の前で人の形になっていった。…なんだ、こりゃあ……。……ん?


 唖然としながら成り行きを見ていると、目の前に立つ人の姿をした粒子の集合体は、右手を前に突き出した。すると、その手の先に同じ輝きを放つ粒子が集まり、丸い球体の形に収束していった。…なるほど。薄々そんな気はしていたがどうやらこの未知の世界では、魔法が使えるのか。


 そんな事を考えていると、最後に人の形をした《それ》は目の前の門に触れ『何かを呟く』。…なるほど、『キーワード』って事か。


 理解すると、《それ》は見えなくなった。


 俺は早速、《乳白色》の粒子をイメージした。…すると、大量の気配を感じたので次にそれらを右手に集まるイメージをした。…しかし、なんで見ただけで出来るんだろうな?


 疑問を抱きながら、最後に粒子の集合体がやったように門に触れ『キーワード』を紡ぐ。


「《ノーマルスコープ・クリア》」


 直後、門に魔法陣が展開し向こう側の景色を写し出した。……っ。

 そこには、小さな宝箱を持った人相の悪い男がいたのだが……―。


 ―気付けば、《無力化》の方法をモノクルに求めていた。…直後、イメージが見えた。


 ……良し、やり方は分かった。


「カァーッ」


『作戦』を頭に叩き込んだ直後、袋をくれたカラスが鳴いた。…何故だかわからないが、『手伝おう』と言った気がしたので頷き《大量の小さな箱》をイメージした。そして充分に集まったところで、それらを結合し自身の周囲に実体として展開するイメージを描く。


「《ディメンションゲージ》」


 最後にキーワードを紡ぐと、イメージ通り俺とカラス達は半透明の《籠》に包まれた。それから更に、左手に集めた粒子で門の向こうへ繋がる《抜け穴》をイメージする。


「《ディメンションゲート》。…今です、あの男を《拘束》してください」


『カァーッ!』


「―ッ!?な、なんだ…っ!これは、《ダークチェーン》っ!?」


 直後、男は太い《鎖》に拘束され身動きが取れなくなった。そして、カラスは飛び上がりながら《鎖》を引っ張った。


「ぐわっ!?」


 …さて。


 俺は準備をー《霞のように不定形の粒子》を集めながら《ゲート》を越え、男に近付く。


「っ!な、なんだテメェ…。一体、何処から現れやがったっ!?」


 地面に倒れた男はこちらを見上げて喚くが、気にせず右手を近付けた。


「…っ!?チクショウッ!つまり、最初から…」


「《スリープカーズ》」


「…っ!………」


 自己完結で納得した男に向かって、俺は《催眠ガス》を放った。すると男は深い眠りに落ちた。

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