深闇の果て、夜明けの淵

長谷川昏

 ひゅぅぅぅぅぅと耳穴に入り込む風の音が煩い。


 おれは砂埃にまみれて、どこぞに突っ立っている。

 そこには荒涼とした景色が広がり、何度見渡したとしても濁った目が拾うのはどこまでも続く同じそれしかない。


 あるかも分からない何かを求めて惰性的に歩き出せば、じきにそこがからからに乾いた生のない地だと知る。

 薄曇りの中を歩き続けていけば、そこがぐずぐずに湿った望みのない地だと知る。

 歩き続けても、おれはどこに辿りつくこともない。

 分かっていてもやめることもなく、死にゆく死なない身体を引き摺ってただ、薄く照らされる月の右側を歩き続けている。


 ああ、クソ、まただ。

 呟きより早く、目眩と吐き気と、ひび割れる頭痛が当然の顔でやってくる。

 何も聞こえなかった大地に、ざわざわと何者かの声が響き始める。

 耳を閉じて、目を塞いでも、それは脊髄に流れ込んで消えることもしない。


 分かって、る……もうやめないから、もう、やめて、くれ……。


 流れ込む声と音に、子供のように怯えて地面にへばりつく。

 涎を垂らし、懇願を繰り返してもそれは増長を続け、蹲る身体を苛み続けている。



『×××』



 みっともなく啜り泣くおれの内耳を、その声が撫でる。

 砂埃にまみれながら顔を上げれば、美しい顔をした少女が立っていた。


 彼女はいずれ崩れ堕ちる生ける屍。

 差し出された手は勿論酷く冷たい。


 鈍く光る月の真下、

 触れた手の冷たさに微かな安堵を感じるが、立ち上がり、足裏に感じた地は、やはりどこまでも荒涼としていることを知っている。


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