第6話

 チャンスは毎朝やってくる。

 7時13分鹿戸駅発、通勤快速アクアライン7号天越行き、3号車1番ドアの進行方向側、3人掛けシートの1番ドア側の座席の前。ここにいることが、彼女に会うための絶対条件。


 今日も、彼女はそこにいた。


「あ、の。……おはようございます」

 何と話しかければ良いか思いつかず、結局は挨拶になった。

「おはようございます……?」

 私かな?と言うように小首を傾げながら挨拶を返してくれる彼女。畜生可愛い。

 あ!と目を見開き食い気味に彼女は続けた。

「昨日本拾ってくれた方ですよね!?本当にありがとうございました!!」

「え、あ、ど、どういたしまして」

「乗り過ごして迷子になっちゃうところだったんで嬉しかったです」

 彼女はそういってはにかんだ。畜生可愛い。それにしても予想と全く違う反応で慄いた。昨日の朔太郎とミヤの会話では考えられない反応だ。

「あの、これ……もしかしたら君のじゃないかなって」

と、言いながら押し花の栞を差し出す。それを見た彼女は花が咲いたように笑った。

「え、本当にありがとうございます!!……この桜、お守りなんです。お礼に何か渡せるものあるかな……ちょっと待ってくださいね」

「いやいや、お礼なんて良いですよ」

「ダメです!私がよくないんです!」


 お礼を貰うほどのことはしていない。

 ただ、俺が貴方と話したかっただけ。


「じゃあ、俺と話、してくれませんか?」

 不思議そうに首を傾げた後、いつもは本に向けていた笑顔を俺に向けた。

「私で良ければ、喜んで」

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