竜のディーバに捧げる恋歌〜転生娘とプロポーズ大作戦〜 

オトモト

プロローグ その一発で目が覚めた。

「しかたないだろ!?男は、女の子に優しくなきゃダメなんだよ?『好き』って言われて、振るなんてひどいことできない!ボクは、ただみんなで幸せになりたかっ、ぐふぇっっ」


 えぐるような拳をみぞおちに受けて、たった今まで恋人だったはずの男の体が二つ折りになって、路上に沈みました。我ながら、会心の一撃です。 

 

 婚約までした恋人が、浮気していました。


 しかも先日、そのお相手のおめでたが判明したそうです。


 男の家におしかけてきた浮気相手の親が騒ぎを起こしたことで、またたく間に、この醜聞スキャンダルが同じ町内のわたしの実家にまで伝わってきました。

 まさかという信じられない思いで駆けつけてきたわたしに問い詰められ、逆ギレしたヤツが言い放ったのが、先ほどの言葉です。

 それにしても、浮気がバレたという状況で口にするには、これほど最低なセリフがあるでしょうか――いっそあっぱれな妄言ではないですか。許す気になど到底なりませんが。

 

 ヤツの厚顔無恥な態度に、すうっと全身から血の気がひきました。寸前まで、こぼれそうになっていた涙もひきました。

 そうして、血も涙もなくしたわたしは、ヤツへの愛も情もからからに干上がってしまったのを悟ったのです。――すべて、ほんの刹那に起こった劇的な変化でした。

 ほとんど反射的に拳をふるった後、それに遅れて、怒涛のように押し寄せてきた憤怒と記憶の奔流――突如よみがえった「前世の記憶」に囚われ、わたしは動けなくなってしまいました。


 頭に流れ込む、人の一生分――不本意ながら、短かったそれ――の記憶の中に、できれば忘れたままでいたかった黒歴史を見出して。

 

 男に裏切られたのは、これが初めてではなかったのです。二度目です。なんなら、前世の死亡原因のきっかけにさえなった出来事だったのです。

 

 わたしは思わず、両手で顔を覆って、うめき声をあげました。


 ――生まれ変わっても男運、最悪とか――マジで詰んだ――!


 日本から異世界へ転生して19年目。マデリン・コビット、魂の叫びです。

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