第50話

 妹さんが慌ただしく帰ったあと、俺は部屋に戻って制服から私服へ着替えた。


 そして……貰ったチョコを机に並べた。

 人生で初めてバレンタインにチョコを貰ってしまった。

 それも三つもだ。

 ……ひとつはチ○ルだけど。

 三上さん、伊吹さん、妹さんに貰った三つだ。


 ……アリサさんからは貰えていない。

 義理でも貰えると思っていただけに少しショックなのも事実だ。

 アリサさんに貰えないだけでこんなにショックを受けるのも自分のことながら不思議だけど。


 なんてことを思っていたのだけど……。


 その日の晩御飯を食べ終えた後、食後のデザートにアリサさん手作りの本格的なチョコレートケーキを用意してくれていた。


 貰えなかったと落ち込んでいたこともあり……めちゃめちゃ嬉しくて、物凄く美味しかったのだった。




○ ○ ○


 そして……バレンタインデーの後は何がある?

 今までバレンタインなんて俺には無関係なイベントだったから考えたこともなかったけど…………バレンタインデーがあれば一ヶ月後にはホワイトデーという物があるのだ。


 今までの俺の人生の経験によるとホワイトデーというのは三倍返しが基本だという知識がある。

 多分、漫画とかで得た知識だと思うけど間違いないはずだ。


 バレンタインにチョコを貰えたのは嬉しかったし、そのぐらいの感謝の気持ちはあるんだけど……若干納得いかない気がしなくもない。

 

 ……ちょっと女性側に得がありすぎじゃないか、と。


 まぁイベント事でそういったことは良くあることだから気にしてもしかたない。


 そんなわけで今、俺は悩んでいるわけだ。

 お返しは何にしよう、と。


 普通にホワイトデー用に店で売っている物でいいと思うのだが……。


 そんな風に考えとりあえず休日に駅の方の栄えている街へ訪れ、色々な店を回ってみた。


 お菓子、ハンカチなどの小物類にアクセサリー。

 色々とホワイトデー用と銘打って売り出されていた。

 

 さすがにアクセサリーは恋人でもないのに贈るのは難易度が高い……値段も高い。

 そうなると……普通にお菓子が無難かな。

 

 三上さんと伊吹さんにはお菓子でいいとして。


 だが、それをアリサさんと妹さんに贈るのは躊躇われる。

 なぜなら……普通にその辺で売っているお菓子よりアリサさんの作る物の方が美味しいからだ。

 そんな人に自分で作るより美味しくないお菓子を贈るっていうのもどうかと思ってしまったのだ。

 妹さんも同じ理由だ。


 そうなると小物類ということになる。


 そこで悩んでいるわけだ。

 何を贈ろう……ということに。


 なにかこういう時用の何か特別な物がいいのか。

 それとも普通に普段使いできる物の方がいいのか。


 きっと貰って困らないのは普段使いできる物だ。

 特別な物を貰っても……最悪使い道もほぼなくて置き場所に困るようになる物の場合もある。


 普段使える物か……。


 ハンカチ、は使えるし貰って困る物でもないだろう。

 化粧品とかも売ってるけど……これは使い慣れたものが良いだろうし、俺だって何が何だかわからないから無理だ。

 手袋やマフラーは……そろそろ時期が終わるし、今更贈ってもな。

 エプロン……うん、ないな。

 そもそもアリサさんは普段メイド服だし。

 インテリア等の雑貨品……俺がアリサさん達のようなセンスがあるわけないし、きっとアリサさん達の部屋の中で異質な物になってしまいそうだ。

 花なんかもあるけど、さすがに恥ずかしすぎる。


 やっぱりハンカチあたりにしておくか。


 そう決意し、ちょっとお高いお店に入った。


 やたら話しかけてくるテンションの高い店員のお姉さんに気圧されながらもお勧めなんかを聞きながら二人に贈る物をなんとか買うことができた。


 


 買うだけでこんなに色々疲れるなんて……実際皆に渡すのは精神的にもっと疲れそうで今から緊張してきたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る